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放浪島編
協力
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グリフォンに乗って山岳地帯を抜けると、レノは懐かしの「草原地帯」へと視線をやる。上空から確認した限り、すぐに異変に気付く。
「兵隊……?」
下の様子を見下ろすと、どういう訳か馬に乗った無数の兵士と魔術師のようなフードを被った集団が確認でき、どうやら先ほどまでいた「北部山岳」に向かっているようだった。
最初はこの島の囚人たちを管理する警備兵の集団かとおもったが、それにしては1人1人の兵士の鎧が豪勢であり、魔術師も上質のローブに幾つもの魔石が取り付けられた杖を掲げている。幸い、こちらには誰も気づいておらず、あちらからではグリフォンが飛んでいる事は確認できても、誰かが乗っているとは思わないだろう。少しは気になったが、すぐにレノは当初の目的地に向かう。
――この兵士と魔術師の集団は、先ほどレノが打ち倒した「黒狼」の討伐に送り込まれた「バルトロス王国」の精鋭部隊である。
たった一匹の魔物に対して随分と大げさな行動だと思われるが、これ以上に「黒狼」に生態系を乱されるのは王国にとっては非常に大打撃であり、何としても討伐しなければならない。しかし、既に「黒狼」はレノの手によって討伐され、今頃は森の魔獣たちに骨1つ残さずに喰われているだろう。
彼らは無駄骨を喰う形になるが、レノはそれを知らずに目的地である放浪島の「東部監獄」に向けて移動する。
――空中を浮かんでいる「放浪島」は、周囲を激しい崖に覆われている。そのため、囚人たちが地上に戻るためにはまずこの崖を越えなければならないが、どちらにしろ地上とは遠く離れた空中であり、飛び降りたら確実に死亡する高度だ。
また、この放浪島は常に空を飛行しており、必ずしも大陸を横断している状態ではなく、海上を飛んでいる可能性もある。さらにグリフォンやペガサスもこの島を離れるのを嫌がる傾向があり、どうしても島の外部に降り立とうとはしない。
そこでレノはある考えが浮かび、上手く行くかは不明だが、用意を済ませるとグリフォンに島を取り囲む断崖絶壁に向かわせる。
ビュオォオオオオッ!!
「くっ……」
「クェエエエエッ!!」
上空が徐々に吹き荒れ、だんだんとグリフォンの速度が落ちてくるが、レノは目的地の「渓谷」を視認する。「東部監獄」から大分離れた場所に存在しており、現実世界での「グランドキャニオン」に匹敵する大きさだ。
何とかグリフォンに振り落されないようにしがみ付きながら、崖の頂点に辿り着くと、そこから先は崖の上に降り立つ。グリフォンが心配げに見つめてくるが、着いてくる様子はなく、最後に彼にレノは頭を撫でやり、
「元気でな……」
「クエェエエエエッ……」
寂しそうな鳴き声を上げて、グリフォンは羽根を羽ばたかせ、そのまま上昇すると、山岳地帯に向けて飛行する。瞬く間に後姿が小さくなり、ついには見えなくなるまで離れると、レノは崖の上を歩み始め、遂に辿り着く。
「……すごいな……」
ゴォオオオオオオッ!!
「放浪島」の最端部、渓谷の頂点から外部を見下ろすと、現在は高度数千メートルの位置で飛行しており、雲を掻き分けて移動している。目を凝らしてみると、雲の隙間から地面らしきものが霞んで見える。が、下からは凄まじい強風が吹き荒れ、飛び降りるにしてもそのまま何処かへと吹き飛ばされそうだ。
現在の正確な高度は分からないが、だいたいの距離感は掴めた。ならば、実行するのみ。レノは覚悟を決めて、黒狼との戦闘でも使用した両足に「嵐」を纏わせた移動術、
ダァンッ!!
「瞬脚」と名付けた移動術は一瞬で10メートル近くの距離を跳躍し、さらに空中で何度も繰り返して地面に向けて「駆け出す」。
ダァンッ!!ダァンッ!!
「もうちょい……」
吹き荒れる嵐に身を守るように腕を交差しながら、「瞬脚」を何度も使用して方向転換し、そのまま地上に向うが、
「ぐっ……あぁっ!!」
ビュォオオオオオッ……!!
下方かの凄まじい乱気流に、体勢を崩して「瞬脚」が途切れる。このままでは確実に墜落死だが、レノは魔石を使用し、
「転送!!」
ビュンッ――!!
周りの空間ごと、放浪島の上空に移動し、先ほどの崖の上に降り立つ。
ダァアンッ!!
「……無理か」
流石に「瞬脚」の連続使用で、地上まで降下するのは不可能だと判断し、ここからどうするかと座り込むと、
「――馬鹿ですかあなた……」
突然、後方から声を掛けられ、振り向くと、
「……お前か……」
「お久しぶりですね」
そこには白髪の女性が立っており、最初にこの島で出会った「人間」だ。彼女は強風が吹き荒れる中、ゆっくりとレノの元に近づき、
「山岳地帯を抜け出したと思えば……こんな所でスカイダイビングですか?余裕ですねぇ」
「……何だと?」
彼女の言葉が引っ掛かり、睨み付けると、「アイリィ」はレノの隣に座り込み、
「この島から抜け出したいなら……協力してあげましょうか?」
「兵隊……?」
下の様子を見下ろすと、どういう訳か馬に乗った無数の兵士と魔術師のようなフードを被った集団が確認でき、どうやら先ほどまでいた「北部山岳」に向かっているようだった。
最初はこの島の囚人たちを管理する警備兵の集団かとおもったが、それにしては1人1人の兵士の鎧が豪勢であり、魔術師も上質のローブに幾つもの魔石が取り付けられた杖を掲げている。幸い、こちらには誰も気づいておらず、あちらからではグリフォンが飛んでいる事は確認できても、誰かが乗っているとは思わないだろう。少しは気になったが、すぐにレノは当初の目的地に向かう。
――この兵士と魔術師の集団は、先ほどレノが打ち倒した「黒狼」の討伐に送り込まれた「バルトロス王国」の精鋭部隊である。
たった一匹の魔物に対して随分と大げさな行動だと思われるが、これ以上に「黒狼」に生態系を乱されるのは王国にとっては非常に大打撃であり、何としても討伐しなければならない。しかし、既に「黒狼」はレノの手によって討伐され、今頃は森の魔獣たちに骨1つ残さずに喰われているだろう。
彼らは無駄骨を喰う形になるが、レノはそれを知らずに目的地である放浪島の「東部監獄」に向けて移動する。
――空中を浮かんでいる「放浪島」は、周囲を激しい崖に覆われている。そのため、囚人たちが地上に戻るためにはまずこの崖を越えなければならないが、どちらにしろ地上とは遠く離れた空中であり、飛び降りたら確実に死亡する高度だ。
また、この放浪島は常に空を飛行しており、必ずしも大陸を横断している状態ではなく、海上を飛んでいる可能性もある。さらにグリフォンやペガサスもこの島を離れるのを嫌がる傾向があり、どうしても島の外部に降り立とうとはしない。
そこでレノはある考えが浮かび、上手く行くかは不明だが、用意を済ませるとグリフォンに島を取り囲む断崖絶壁に向かわせる。
ビュオォオオオオッ!!
「くっ……」
「クェエエエエッ!!」
上空が徐々に吹き荒れ、だんだんとグリフォンの速度が落ちてくるが、レノは目的地の「渓谷」を視認する。「東部監獄」から大分離れた場所に存在しており、現実世界での「グランドキャニオン」に匹敵する大きさだ。
何とかグリフォンに振り落されないようにしがみ付きながら、崖の頂点に辿り着くと、そこから先は崖の上に降り立つ。グリフォンが心配げに見つめてくるが、着いてくる様子はなく、最後に彼にレノは頭を撫でやり、
「元気でな……」
「クエェエエエエッ……」
寂しそうな鳴き声を上げて、グリフォンは羽根を羽ばたかせ、そのまま上昇すると、山岳地帯に向けて飛行する。瞬く間に後姿が小さくなり、ついには見えなくなるまで離れると、レノは崖の上を歩み始め、遂に辿り着く。
「……すごいな……」
ゴォオオオオオオッ!!
「放浪島」の最端部、渓谷の頂点から外部を見下ろすと、現在は高度数千メートルの位置で飛行しており、雲を掻き分けて移動している。目を凝らしてみると、雲の隙間から地面らしきものが霞んで見える。が、下からは凄まじい強風が吹き荒れ、飛び降りるにしてもそのまま何処かへと吹き飛ばされそうだ。
現在の正確な高度は分からないが、だいたいの距離感は掴めた。ならば、実行するのみ。レノは覚悟を決めて、黒狼との戦闘でも使用した両足に「嵐」を纏わせた移動術、
ダァンッ!!
「瞬脚」と名付けた移動術は一瞬で10メートル近くの距離を跳躍し、さらに空中で何度も繰り返して地面に向けて「駆け出す」。
ダァンッ!!ダァンッ!!
「もうちょい……」
吹き荒れる嵐に身を守るように腕を交差しながら、「瞬脚」を何度も使用して方向転換し、そのまま地上に向うが、
「ぐっ……あぁっ!!」
ビュォオオオオオッ……!!
下方かの凄まじい乱気流に、体勢を崩して「瞬脚」が途切れる。このままでは確実に墜落死だが、レノは魔石を使用し、
「転送!!」
ビュンッ――!!
周りの空間ごと、放浪島の上空に移動し、先ほどの崖の上に降り立つ。
ダァアンッ!!
「……無理か」
流石に「瞬脚」の連続使用で、地上まで降下するのは不可能だと判断し、ここからどうするかと座り込むと、
「――馬鹿ですかあなた……」
突然、後方から声を掛けられ、振り向くと、
「……お前か……」
「お久しぶりですね」
そこには白髪の女性が立っており、最初にこの島で出会った「人間」だ。彼女は強風が吹き荒れる中、ゆっくりとレノの元に近づき、
「山岳地帯を抜け出したと思えば……こんな所でスカイダイビングですか?余裕ですねぇ」
「……何だと?」
彼女の言葉が引っ掛かり、睨み付けると、「アイリィ」はレノの隣に座り込み、
「この島から抜け出したいなら……協力してあげましょうか?」
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