種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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学園編

事件

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廊下を駈け出すゴンゾウの肩に乗りながら、レノは滅多に見れない高度からの風景に少し興奮していると、すぐに生徒会室に辿り着く。ゴンゾウは鼻息荒く、まるで扉を壊さん限りに生徒会室に入り込むと、既にいつもの生徒会のメンバーが集まっていた。

深刻そうな表情のアルトの前に、何が起きているのか分からないという風に首をかしげているポチ子、そして険しい表情で彼女の横に立つリノンが居た。


「ん……ゴンゾウ、連れてきてくれたか」
「レノ?」
「あっ!レノさんっ」


ポチ子がすぐに子犬のように耳と尻尾を振りながら、レノの元に駆け付ける。その後ろからアルトとリノンも付いてくる。レノは自分に縋り付くポチ子の頭を撫でやり、リノンに目を向けると、彼女はアルトに一度視線をやり、彼が頷くのを確認して話し始める。


「実は……厄介な件に巻き込まれてしまってな……その、今回も協力を頼みたい」



――リノンの話によると、最近この学園内で不審な事件が多発しているという。その事件というのは、複数の生徒が身体中の「魔力」を吸い尽くされ、気絶するというものだ。


最初の被害者は7年生の女子生徒であり、偶然に放課後の学園内の廊下で彼女が倒れているのを教員が発見し、すぐに介抱したという。この女子生徒を最初に、次々と連日で放課後の学園内で魔力切れを起こした生徒達の姿が見つかり、学園側も警備員を増員し、生徒会のメンバーにも協力してもらっているが、結果は芳しくない。

今回の事件は数か月前の「マドカ」が引き起こした際と重なる点があり、学園側も必死になる。また、あのような惨事を引き起こすわけには行かない。そのため、学園側は生徒会の面々に人員を増加し、見回りを強化するように伝えたらしいが、



「僕はこれ以上、生徒会の人員を増やすことは反対なんだ」



ある程度のリノンの話を聞き終えると、アルトの方が口をはさむ。どうやら、学園側の人員の増加に反対のようだ。


「何で?」
「何でって……いいかいレノ、生徒会ではない君には分からないだろうけど、この学園の生徒会は言ってみれば選ばれた者しか勤まらないんだ」
「選ばれた……?」
「生徒会に選ばれた人間は、必ず何らかの分野に優れた人間だけなんだ……」
「人間?でもポチ子とゴンゾウは……」
「わぅん?」
「ぬうっ?」
「い、いやっ……そういう意味じゃなくて……と、ともかく優れた者しか入れない存在なんだ。断っておくが、僕は別に自慢しているわけじゃない」


アルトはどう説明すればいいのか考える素振りを見せながら、


「僕たち生徒会の人間は学園の風紀を守る他に、学園側の指示を受けて色々な任務を行っている。詳しい内容は部外者である君には話せないけど……危険な仕事だ」
「危険……」
「それに僕たちのような「実行委員」を志望する人間は、生徒会に入る前に様々な試験を受けて、教員や僕たちの前で実力を示さないといけないんだ。分かるだろ?」
「……なるほど」


彼の言いたいことは分かるが、レノには彼が自分達が苦労して入った生徒会に、何の覚悟も出来ていない人間を入れたくないとも聞こえる。実際にレノの予想は半分当たっている。アルトは学園側の指示とはいえ、無闇に生徒会に相応しくない輩を入れたくはない気持ちもある。一方で、リノンたちは複雑そうな顔で彼を見つめていた。


「アルト……君の気持は分かるが……今は私情を挟むべきだろう」
「そうですね……私もリノンさんに賛成です」
「人、増える、いいこと」


アルトの言葉も分からなくはないが、彼らはこれ以上被害者が出さないというなら、生徒会の人員を増やすのは賛成らしい。3人が賛成していることにアルトは顔を険しくし、しかし、すぐに苦い表情を浮かべて、


「分かった……だが本格的に生徒会に居れるのではなく、臨時的なメンバーを募集しよう」
「そうだな……もしも集めた人員の中で、生徒会に相応しい人間が居ればそのまま入ってもらおう」
「わぅんっ……そうですね、入ってほしいですねぇ……」
「うん」


アルト以外の3人の視線がレノに集中し、彼は後ろを振り返るが誰も居ない。間違いなく、自分を見つめている。が、レノは誤魔化すようにアルトに視線をやり、


「そ、それで俺を呼び出した理由は?」
「あ、ああ……君は転送魔法を使えるだろう?その力を貸してほしい」
「またか……」
「す、すまない……」


あの「マドカ」が襲来した夜にレノが「転送魔法」を使ったことは知られており、彼は度々その「転送魔法」を見込んで厄介ごとを頼まれる。

転送を使えば一瞬で視界の範囲内ならば移動が可能であり、1メートル範囲内ならどんな物でも持ち運べることが可能であり、1日に3回しか使えないというのは厳しいが、それでも同じ学園内で転送を使えるのはレノだけであり、前々から彼は生徒会に誘われていた。

が、本人としては「魔石」を利用した「転送」はあまり人前で使いたくは無いし、それに勘の良い者ならレノの腕に刻み込まれた紋様に気付かれてしまう可能性もある。


――だが、今回の件はレノも気になる点があり、


「いいよ、受ける」


この件を最期に学園を去ることを決意し、了承した――
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