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幼少編
試練
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「お前がここに連れ込まれた理由……分かるかのう?」
「い、いえ……」
「そう怯えるでない……取って食おうという訳じゃない、ただ、簡単な説明だけはしておこうかのう」
「族長……説明は私から……」
「別に良い……というか、お主の場合は話が長くなるから儂が話す」
「は、はあっ……」
カーテン越しにも関わらず、少女の声は室内によく響き、レノが何故今更このエルフの集落に連れ込まれたのかを説明を聞く。
――レノの「母親」である「レイア」はこの集落の出身のエルフ族であり、次の族長候補と謳われる程に優秀な「戦士」だった。
この場合の「戦士」とは、集落の敵となる魔物や種族を排除するために造られた護衛であり、レイアは全ての戦士の中でも指折りの猛者だった。だが、彼女は唐突にこの集落から失踪し、数年の月日が流れた。集落の人間は彼女が死んでしまったか、森を出て旅立ったという噂が流れたが、ある日の晩に彼女は帰ってきた――その腕に赤ん坊を抱いた状態だった。
当然だが集落のエルフ達は全員が激高した。この集落の掟では許可なく森の外に出ることも、ましてや他の集落のエルフと交わることも族長の許可を得ない限りは厳しく禁止されているにも関わらず、よりにも寄って他種族の血を交えたハーフエルフであり、当然だが大きな問題となる。
集落の者達はどこのエルフの子供を宿したのかを問いただしたが、彼女は頑なに答えず、一方的に子供を預けると姿を消すと、数日後に死体となった彼女の亡骸が森の奥地で発見されたという。死因は衰弱死であり、彼女の身に何が起きたのかは不明だった。
仕方なく、深淵の森の里の者達は「レイア」が死亡してしまったことを悲しむ暇もなく、ハーフエルフの赤ん坊のレノをどうするかを族長に相談する。そして、彼女はレノを一旦、族長の知り合いの人間の女性に預けることを告げる。
その知り合いの女性こそ、孤児院を経営している「ビルド」であり、彼女に預けることが最良の方法だと族長は判断した。後の出来事はレノの赤ん坊の時の記憶通りであり、フレイに連れられてレノは孤児院に送られ、8年間もの時を過ごした――
「お母さんは……死んだんですか?」
「そう言う事になるのう……が、これも運命だと諦めてくれ」
「族長、そんな言い方は……!」
「抑えろフレイッ!」
幼いレノに母親の死を告げ、しかし「運命」だから受け入れろという族長の言葉にフレイが反応するが、すぐに「長老」が抑え込む。レノとしてはどう反応すればいいのか分からない。自分の母親がエルフであり、しかも自分を生んだ日に死亡していたなど、色々と思うところはあるが、
「あの……」
「ん?なんじゃ?」
「母は……その、誰と……」
「父親の事か……すまんが、それは儂も分からん。少なくとも獣耳が生えておらんところ、獣人族ではなかろうし……身体もそれほど大きくは無いから「巨人族」ではない。鱗も見当たらんところ見ると、「人魚族」ではないのは分かり切っておるし……恐らくは人間か魔人族じゃろう」
「そうですか……」
少なくとも、まだ父親の方は生きている可能性はある。しかし、何故「レイア」は突然この森から姿をけし、自分を身ごもってこの森に戻ってきたのかが気になる。
「これから僕は……どうなるんですか?」
「ふむっ……本来なら、女として生まれていたら儂の息子の側室にでもするところじゃったが……男として生まれたのならば戦士としての試験を与えよう」
「試験……?」
「うむ。お主は知らないだろうが、エルフの男は生まれた瞬間から「戦士」としての素質を調べられる。少しばかり血を抜いてな……お主も生まれたばかりの頃に調べた結果、一応は素質が発見された」
「はあっ……?」
「我々の間では、8歳になった時点である試験を受ける掟となっている。この試験を乗り切れば、1人の戦士として認められ、逆に失敗した場合は森から追放されるのじゃ」
「族長……まさか、レノに「魔獣契約の儀式」を行わせる気か!?」
フレイの驚愕の声が室内に響き渡り、今度は長老も絶句していた。
「その通りじゃが?この儀式は必ず全てのエルフが受けなければならん。これは数千年にも渡る掟じゃからな……例外はない」
「そんな無茶な……レノはまともに魔法も剣も使えないんだぞ!?」
「だからこそ、しばらくの猶予は与えよう。契約の儀式は1週間後、この森の南東にて行われる。これは決定事項じゃ……逃げることは許されん」
族長の言葉に異様な重圧が入り、反論しようとしたフレイと長老は押し黙ってしまう。レノは「魔獣契約」という新しい単語に首をかしげるが、2人の反応を見る限り、途轍もなく危険な儀式なのだろう。
「この1週間の間に、魔法を覚えるのも良し。剣を習うのも良し。但し、武器は弓と剣しか使用することは許されん」
「そんな無茶な……魔法も剣も1週間で習得できるものじゃないだろ……」
「儂とて酷なことを伝えているのは承知している……しかし、これは掟なのじゃ。いくら族長であろうと、庇いきれんこともある」
「い、いえ……」
「そう怯えるでない……取って食おうという訳じゃない、ただ、簡単な説明だけはしておこうかのう」
「族長……説明は私から……」
「別に良い……というか、お主の場合は話が長くなるから儂が話す」
「は、はあっ……」
カーテン越しにも関わらず、少女の声は室内によく響き、レノが何故今更このエルフの集落に連れ込まれたのかを説明を聞く。
――レノの「母親」である「レイア」はこの集落の出身のエルフ族であり、次の族長候補と謳われる程に優秀な「戦士」だった。
この場合の「戦士」とは、集落の敵となる魔物や種族を排除するために造られた護衛であり、レイアは全ての戦士の中でも指折りの猛者だった。だが、彼女は唐突にこの集落から失踪し、数年の月日が流れた。集落の人間は彼女が死んでしまったか、森を出て旅立ったという噂が流れたが、ある日の晩に彼女は帰ってきた――その腕に赤ん坊を抱いた状態だった。
当然だが集落のエルフ達は全員が激高した。この集落の掟では許可なく森の外に出ることも、ましてや他の集落のエルフと交わることも族長の許可を得ない限りは厳しく禁止されているにも関わらず、よりにも寄って他種族の血を交えたハーフエルフであり、当然だが大きな問題となる。
集落の者達はどこのエルフの子供を宿したのかを問いただしたが、彼女は頑なに答えず、一方的に子供を預けると姿を消すと、数日後に死体となった彼女の亡骸が森の奥地で発見されたという。死因は衰弱死であり、彼女の身に何が起きたのかは不明だった。
仕方なく、深淵の森の里の者達は「レイア」が死亡してしまったことを悲しむ暇もなく、ハーフエルフの赤ん坊のレノをどうするかを族長に相談する。そして、彼女はレノを一旦、族長の知り合いの人間の女性に預けることを告げる。
その知り合いの女性こそ、孤児院を経営している「ビルド」であり、彼女に預けることが最良の方法だと族長は判断した。後の出来事はレノの赤ん坊の時の記憶通りであり、フレイに連れられてレノは孤児院に送られ、8年間もの時を過ごした――
「お母さんは……死んだんですか?」
「そう言う事になるのう……が、これも運命だと諦めてくれ」
「族長、そんな言い方は……!」
「抑えろフレイッ!」
幼いレノに母親の死を告げ、しかし「運命」だから受け入れろという族長の言葉にフレイが反応するが、すぐに「長老」が抑え込む。レノとしてはどう反応すればいいのか分からない。自分の母親がエルフであり、しかも自分を生んだ日に死亡していたなど、色々と思うところはあるが、
「あの……」
「ん?なんじゃ?」
「母は……その、誰と……」
「父親の事か……すまんが、それは儂も分からん。少なくとも獣耳が生えておらんところ、獣人族ではなかろうし……身体もそれほど大きくは無いから「巨人族」ではない。鱗も見当たらんところ見ると、「人魚族」ではないのは分かり切っておるし……恐らくは人間か魔人族じゃろう」
「そうですか……」
少なくとも、まだ父親の方は生きている可能性はある。しかし、何故「レイア」は突然この森から姿をけし、自分を身ごもってこの森に戻ってきたのかが気になる。
「これから僕は……どうなるんですか?」
「ふむっ……本来なら、女として生まれていたら儂の息子の側室にでもするところじゃったが……男として生まれたのならば戦士としての試験を与えよう」
「試験……?」
「うむ。お主は知らないだろうが、エルフの男は生まれた瞬間から「戦士」としての素質を調べられる。少しばかり血を抜いてな……お主も生まれたばかりの頃に調べた結果、一応は素質が発見された」
「はあっ……?」
「我々の間では、8歳になった時点である試験を受ける掟となっている。この試験を乗り切れば、1人の戦士として認められ、逆に失敗した場合は森から追放されるのじゃ」
「族長……まさか、レノに「魔獣契約の儀式」を行わせる気か!?」
フレイの驚愕の声が室内に響き渡り、今度は長老も絶句していた。
「その通りじゃが?この儀式は必ず全てのエルフが受けなければならん。これは数千年にも渡る掟じゃからな……例外はない」
「そんな無茶な……レノはまともに魔法も剣も使えないんだぞ!?」
「だからこそ、しばらくの猶予は与えよう。契約の儀式は1週間後、この森の南東にて行われる。これは決定事項じゃ……逃げることは許されん」
族長の言葉に異様な重圧が入り、反論しようとしたフレイと長老は押し黙ってしまう。レノは「魔獣契約」という新しい単語に首をかしげるが、2人の反応を見る限り、途轍もなく危険な儀式なのだろう。
「この1週間の間に、魔法を覚えるのも良し。剣を習うのも良し。但し、武器は弓と剣しか使用することは許されん」
「そんな無茶な……魔法も剣も1週間で習得できるものじゃないだろ……」
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