2,078 / 2,083
蛇足編
閑話 《ミレトの人生》
しおりを挟む
(母さんは本当に僕の絵を描こうとしたのかな……それとも、あの人の絵?)
空白の額縁を見てミレトは考え込み、自分かそれともレナの絵を描こうとしたのか考える。だが、いくら考えたところで答えを知っているのは死んだイレアビトだけだった。
(……もういいや)
ミレトは時の聖痕の影響で普通の子供よりも成長は早いが、精神的にはまだまだ子供である。だから難しいことを考え続けるのをやめ、彼は自分の母親に拘ることを止めた。これからは自分の人生を歩むために亡き母親のことを考えるのは止めた。
「アマネさん、カノンさん、僕はもう帰ります」
「は!?」
「帰るだと?いったい何処へ……」
「もうここには用はありませんから」
いきなりとんでもないことを言い出したミレトに二人は戸惑うが、最後にミレトは母親にそっくりなサクラと向き合う。彼女とイレアビトは外見は瓜二つだがミレトはサクラを初めて見た時から母親とは違うと思った。
「サクラさん、色々と教えてくれてありがとうございました」
「……まさか生きている内に甥と出会えるとは思わなかったわ」
サクラは虚ろな瞳でミレトを見下ろし、彼の元に近付いて抱きしめた。唐突に自分に抱きついてきたサクラにミレトは驚くが、不思議と嫌ではなかった。サクラは優し気な表情を浮かべながらミレトの頭を撫でる。
「貴方を縛る人間はもういなくなった。これからは自由に生きなさい」
「サクラさん……」
「叔母さんでいいわ」
自分を手駒として扱われていることを知りながらもサクラがイレアビトのために働いていたのは彼女を恐れていただけではなく、家族として姉のことを愛していた。サクラは姉の忘れ形見であるミレトを励まし、これからは彼の好きに生きる様に促す。
「ミレト、貴方に出会えて良かった」
「叔母さん……ありがとうございます。僕も貴方に出会えて良かったです」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?あんたまで行ったら私はどうすればいいのよ!?この国では指名手配犯なのよ!?」
「他国にでも逃げればいい……ここまでの報酬だ」
「きゃっ!?」
アマネは懐から小袋を取り出し、それをカノンに投げ渡した。いきなり渡された小袋にカノンは驚いたが、中身を見ると大量の金貨が入っていた。これだけあれば逃亡資金には十分であり、彼女は酷く混乱する。
「あ、あんた……こんな大金を持ってたの!?」
「王妃様の遺産が金目の物ではないことは分かっていた。だから後で文句を言われないように私が城から抜け出す際に金庫から盗んできた金を用意してやった。有難く思え」
「こ、この……まあいいわ」
莫大な遺産が手に入ると思い込んでいたカノンは怒りに震えるが、手元の小袋を見て機嫌を直す。彼女がミレトとアマネに付き合う理由はなくなり、早々に立ち去ることにした。
「私は行かせてもらうわ!!私もこれからは自由よ!!」
「逃亡犯が何を言っている……ミレト、私はここに残る。王妃様の遺産を守りたい。お前も困ったことがあったらここへ来い」
「ありがとうございます。でも、大丈夫です……僕は王都へ戻ります」
「王都へ?何をしに行くつもりだ?」
「やりたいことが決まったんです」
カノンは国外逃亡を決め、アマネは孤児院を守り、そしてミレトは王都へ戻る――
――王都へと帰還したミレトは兵士として志願した。彼の新しい目標は誰よりも尊敬して愛していた父親の「ミドル」の後を継ぎ、自分も大将軍となるべく冒険者の職を止めて兵士となった。
「ミレト!!しっかり付いて来い!!」
「遅れたらもう一周だぞ!!」
「は、はい!!」
他の兵士と共にミレトは訓練を行い、もう彼が王子であることに気付く人間はいない。それでもミレトは満足だった。これからは自分の意思で生きていけることに嬉しく思い、そして何時の日か父親やレナを越える武人になると誓う。
(僕の人生はここからなんだ!!)
この10年後、ミレトはバルトロス王国の大将軍へ就いた。歴史上では彼が王子である事実は記されず、父親を越える伝説の武人として語り継がれる――
※これにて不遇職の物語は完結とさせていただきます。ここまでお読みくださりありがとうございました!!
空白の額縁を見てミレトは考え込み、自分かそれともレナの絵を描こうとしたのか考える。だが、いくら考えたところで答えを知っているのは死んだイレアビトだけだった。
(……もういいや)
ミレトは時の聖痕の影響で普通の子供よりも成長は早いが、精神的にはまだまだ子供である。だから難しいことを考え続けるのをやめ、彼は自分の母親に拘ることを止めた。これからは自分の人生を歩むために亡き母親のことを考えるのは止めた。
「アマネさん、カノンさん、僕はもう帰ります」
「は!?」
「帰るだと?いったい何処へ……」
「もうここには用はありませんから」
いきなりとんでもないことを言い出したミレトに二人は戸惑うが、最後にミレトは母親にそっくりなサクラと向き合う。彼女とイレアビトは外見は瓜二つだがミレトはサクラを初めて見た時から母親とは違うと思った。
「サクラさん、色々と教えてくれてありがとうございました」
「……まさか生きている内に甥と出会えるとは思わなかったわ」
サクラは虚ろな瞳でミレトを見下ろし、彼の元に近付いて抱きしめた。唐突に自分に抱きついてきたサクラにミレトは驚くが、不思議と嫌ではなかった。サクラは優し気な表情を浮かべながらミレトの頭を撫でる。
「貴方を縛る人間はもういなくなった。これからは自由に生きなさい」
「サクラさん……」
「叔母さんでいいわ」
自分を手駒として扱われていることを知りながらもサクラがイレアビトのために働いていたのは彼女を恐れていただけではなく、家族として姉のことを愛していた。サクラは姉の忘れ形見であるミレトを励まし、これからは彼の好きに生きる様に促す。
「ミレト、貴方に出会えて良かった」
「叔母さん……ありがとうございます。僕も貴方に出会えて良かったです」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?あんたまで行ったら私はどうすればいいのよ!?この国では指名手配犯なのよ!?」
「他国にでも逃げればいい……ここまでの報酬だ」
「きゃっ!?」
アマネは懐から小袋を取り出し、それをカノンに投げ渡した。いきなり渡された小袋にカノンは驚いたが、中身を見ると大量の金貨が入っていた。これだけあれば逃亡資金には十分であり、彼女は酷く混乱する。
「あ、あんた……こんな大金を持ってたの!?」
「王妃様の遺産が金目の物ではないことは分かっていた。だから後で文句を言われないように私が城から抜け出す際に金庫から盗んできた金を用意してやった。有難く思え」
「こ、この……まあいいわ」
莫大な遺産が手に入ると思い込んでいたカノンは怒りに震えるが、手元の小袋を見て機嫌を直す。彼女がミレトとアマネに付き合う理由はなくなり、早々に立ち去ることにした。
「私は行かせてもらうわ!!私もこれからは自由よ!!」
「逃亡犯が何を言っている……ミレト、私はここに残る。王妃様の遺産を守りたい。お前も困ったことがあったらここへ来い」
「ありがとうございます。でも、大丈夫です……僕は王都へ戻ります」
「王都へ?何をしに行くつもりだ?」
「やりたいことが決まったんです」
カノンは国外逃亡を決め、アマネは孤児院を守り、そしてミレトは王都へ戻る――
――王都へと帰還したミレトは兵士として志願した。彼の新しい目標は誰よりも尊敬して愛していた父親の「ミドル」の後を継ぎ、自分も大将軍となるべく冒険者の職を止めて兵士となった。
「ミレト!!しっかり付いて来い!!」
「遅れたらもう一周だぞ!!」
「は、はい!!」
他の兵士と共にミレトは訓練を行い、もう彼が王子であることに気付く人間はいない。それでもミレトは満足だった。これからは自分の意思で生きていけることに嬉しく思い、そして何時の日か父親やレナを越える武人になると誓う。
(僕の人生はここからなんだ!!)
この10年後、ミレトはバルトロス王国の大将軍へ就いた。歴史上では彼が王子である事実は記されず、父親を越える伝説の武人として語り継がれる――
※これにて不遇職の物語は完結とさせていただきます。ここまでお読みくださりありがとうございました!!
0
お気に入りに追加
16,565
あなたにおすすめの小説
最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された「霧崎ルノ」彼を召還したのはバルトロス帝国の33代目の皇帝だった。現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が帝国領土に出現し、数多くの人々に被害を与えていた。そのために皇帝は魔王軍に対抗するため、帝国に古から伝わる召喚魔法を利用して異世界から「勇者」の素質を持つ人間を呼び出す。しかし、どういう事なのか召喚されたルノはこの帝国では「最弱職」として扱われる職業の人間だと発覚する。
彼の「初級魔術師」の職業とは普通の魔術師が覚えられる砲撃魔法と呼ばれる魔法を覚えられない職業であり、彼の職業は帝国では「最弱職」と呼ばれている職業だった。王国の人間は自分達が召喚したにも関わらずに身勝手にも彼を城外に追い出す。
だが、追い出されたルノには「成長」と呼ばれる能力が存在し、この能力は常人の数十倍の速度でレベルが上昇するスキルであり、彼は瞬く間にレベルを上げて最弱の魔法と言われた「初級魔法」を現実世界の知恵で工夫を重ねて威力を上昇させ、他の職業の魔術師にも真似できない「形態魔法」を生み出す――
※リメイク版です。付与魔術師や支援魔術師とは違う職業です。前半は「最強の職業は付与魔術師かもしれない」と「最弱職と追い出されたけど、スキル無双で生き残ります」に投稿していた話が多いですが、後半からは大きく変わります。
(旧題:最弱職の初級魔術師ですが、初級魔法を極めたら何時の間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。)
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。