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蛇足編

閑話 《アイラとマリアの競争》

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――白竜に奪われたゴールドスライムを捕まえるためにマリアとアイラは後を追いかけた。マリアは風の精霊を利用して白竜の居所が塔の大迷宮だと突き止めて転移魔法で向かおうとした時、アイラも勝手に同行した。


「姉さん!!邪魔をしないで頂戴!!」
「いいえ、あのゴールドスライムは私が捕まえるわ!!」
「お、御二人とも落ち着いて下さい!!」
「そうだぞ嬢ちゃん達、喧嘩してる場合じゃないだろ!?」


塔の大迷宮の第四階層に辿り着いたアイラとマリアは口論を行う。二人はこの塔の大迷宮に挑んだ経験があり、現在は白竜の捜索のために各階層を探索していた。同行しているのはカゲマルとシュンであり、度々喧嘩をする二人を必死に止める。


「あのゴールドスライムは私が先に見つけたの!!だから私が捕まえるわ!!」
「いいえ、私が捕まえてあげるわ!!あのゴールドスライムを一目見た時から私が捕まえる運命だと気付いたの!!」
「何を言い出すのよ!?あのゴールドスライムは姉さんと何の関係があるの!?」
「言葉では言い表せないけど、とにかく私が捕まえないといけないと思ったの!!」
「いいから落ち着けよ!!ここに来てから何日たったと思ってるんだ!?」
「マリア様、今日はもう帰還した方が……」


第四階層を彷徨ってから数日が経過したが第五階層に繋がる出入口を発見できていなかった。レナ達ならばともかく、この第四階層の秘密を知らないマリア達では探し出すのは困難を極めた。

毎日塔の大迷宮に訪れては第五階層に繋がる転移台を探すが、結局は見つからずに引き返す日々を繰り返す。しかし、マリアもアイラも冒険者時代を思い出したようにたくましくなった。


「こうして一緒に探検するのも久しぶりね。昔が懐かしいわ」
「ええ、あの頃の姉さんは若くて美しかったわね」
「何ですって!?なら今の私は若くないというの!?マリアだって私と年齢は一緒でしょ!?」
「私はエルフだからいいのよ。姉さんも長寿の薬を飲んだらどう?」
「遠慮しておくわ。私は人間として生まれたのだから人間として生きていく……もしも私が死んだらレナのことはよろしくお願い」
「縁起でもないことを言わないで頂戴……それに姉さんに言われなくてもレナは私が守るわ」
「はあっ……よく喧嘩する癖に仲直りは早いんだけどな」
「おい、ここはさっき通った道じゃないのか?」


探索ちゅうにカゲマルは同じような通路を通った記憶があるが、マリアは風の精霊を通して確認を行う。どんなに複雑な構造の迷路だろうと風の精霊の力を借りれば一瞬で把握できた。


「確かにここは前にも通った道のようね。でも、私達が道に迷ったんじゃなくて迷路の構造が切り替わってここへ戻ってきたようだわ」
「たくっ、相変わらず面倒な迷宮だぜ。そういえばあのリーリスとかいう小娘はここに住んでるんだろう?」
「それはホネミンとかいう娘の話じゃないのか?」
「あれ、そうだっけ?あいつら似てるからややこしいな……」
「ほら皆!!喋ってないで行きましょう!!」


アイラが先行して迷路を突き進み、他の者達は迷宮を歩んでいく。しかし、実を言えばマリアは迷宮の秘密を解き明かしていた。


(マリア様、第五階層に繋がる隠し通路は既に見つけられたのでは……)
(勿論、もう目星は付いてるわ。でも姉さんを連れて行くわけにはいかないからしばらくは付き合ってあげましょう)
(流石は嬢ちゃんだな……よくこんな複雑な迷路を解き明かしたな)


マリアは既に第五階層に繋がる通路を発見していたが、アイラに悟られないように黙っていた。彼女と行動を共にしている限りは先にゴールドスライムを発見される可能性はなく、知らないふりをしながら同行する。

多忙なマリアがアイラと行動を共にする機会は滅多になく、彼女は昔の頃を思い出す。冒険者だった時代はアイラもマリアも一緒に行動しており、アイラが結婚する前までは二人は常に一緒だった。


(あの頃が懐かしいわね。バルとレナが居てくれたらもっと楽しかったかも)


バルも一時期はアイラとマリアと行動を共にしていたことがあり、彼女が今も冒険者を続けていたらS級冒険者に仲間入りしたのは間違いない。そんなことを考えて歩いていると、通路の奥から魔物が出現した。


「ゴォオオッ!!」
「ちっ、また現れやがったか!!」
「ブロックゴーレムか……御二人とも御下がりを!!」


通路からブロックゴーレムが姿を現わすとシュンとカゲマルは武器を抜いたが、それよりも早くにアイラは駆け出してマリアは魔法の準備を行う。


「崩拳!!」
「マジックアロー!!」
「ゴガァアアアッ!?」


アイラが中段突きを繰り出すのと同時にマリアは魔法陣を展開して魔弾を撃ちこみ、ブロックゴーレムは粉々に砕け散った。それを見てシュンとカゲマルは固まり、そんな二人にアイラとマリアは振り返る。


「何を止まっているの?早く行くわよ」
「ふふっ、大分訛っていた身体も調子を取り戻してきたわ。これならあと100体は余裕ね」
「……俺、冒険者が嫌になってきたぞ」
「……同じく」


現役冒険者であるシュンと護衛役のカゲマルは二人のあまりの強さに自分達の存在意義に頭を悩ませた――
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