上 下
2,054 / 2,083
蛇足編

積み重ねてきた戦闘経験

しおりを挟む
「ふんっ、仲間がいなければ何もできない闇魔導士が大口を叩くじゃないかい?」
「仲間がいなければ役に立たない……それは僕がレナで出会う前の話だ!!」
「何!?」


ダインは影魔法を発動させると自分の身体に影を纏わせ、強制的に身体を動かして突っ込む。自らの肉体を影で操作することで普段ならばできない動作を行い、まるでレナの「縮地」の如くミヤに迫る。


「うおおおっ!!」
「ぐあっ!?」


足の裏から足首、膝、股関節、腹部、胸、肩、肘、腕の順番に身体を回転及び加速させ、勢い良く拳を叩き込む。レナが得意とする「弾撃」を再現しながらミヤに強烈な一撃を叩き込んだ。


(馬鹿なっ!?こんなガキに……)


まるで格闘家の如く動いて攻撃を仕掛けてきたダインにミヤは戸惑うが、ダイン自信も影で無理に身体を酷使したせいで限界が迫っていた。ミヤの憑依術は死体や生物に取り付いて内側から支配して身体を動かすのに対し、ダインの場合は身体に影を纏わせて無理やりに動かしている。だから肉体の負担も大きく、無理やりにレナの動作を再現したせいで身体中が悲鳴をあげた。


(痛い痛い痛い!?死ぬ、マジで死ぬ!?)


表面上は冷静を装いながらもダインは涙を堪える程に激痛を感じており、それでもミヤの前では弱音を吐かない。自分の攻撃で吹き飛んだミヤに大して追撃の手を緩めない。


「シャドウバイト!!」
「ぐっ……舐めるな!!」


自分の影から黒色の狼の頭部を作り出したミヤに目掛けて放つ。このシャドウバイトは古代遺跡から発見した古文書で会得した影魔法であり、黒狼に噛みつかれると闇属性の魔力を流し込まれて普通の人間なら能力が低下する。しかし、相手が闇属性の魔法の使い手ならば通じない。だが、黒狼に噛みつかせて動きを封じることはできるはずだった。

ミヤは迫りくる黒狼に対して咄嗟に杖を床に付くと自分の身体を反転させ、地面を伝って近付いてくる黒狼を回避する。そのまま空中に跳び上がったミヤはダインに目掛けて突っ込む。


「くたばりなっ!!」
「……遅いんだよっ!!」


ダインは空中から迫るミヤに対して黒狼を引き戻して鞭の形へと変化させた。実体化させた影の鞭で空中に浮かんだミヤの足を拘束し、壁に目掛けて突っ込ませる。


「シャドウウィップ!!」
「があっ!?」
「ダ、ダインさん!!」
「よし、押してるよ!!」
「その意気だ!!」
「チュチュッ(やったれ!!)」


冷静に影魔法で相手を拘束して攻撃を仕掛けるダインの姿に他の仲間達は歓声を上げるが、ダインにとってはミヤなど恐れるに値しない。彼はこれまでにレナと共に戦ってきたことで様々な敵と相対してきた。


(こんな奴、ミドルやゴウライと比べたら全然怖くないんだよ!!)


王都でレナが倒した大将軍のミドルや闘技祭で戦ったゴウライと比べればミヤが操る人間など脅威ではなく、完全に敵の動きを見切っていた。ミヤはダインの噂は耳にしていたが予想以上の強さに焦りを抱く。


「このガキ……調子に乗るなっ!!」
「うわっ!?」


本来ならば引き剥がすことができないはずのダインの影をミヤは掴み、自分も影魔法を駆使してダインの影を掴み取る。影魔法の使い手同士の戦いでは実体化させた影は術者の精神力で強弱が決まり、ミヤは自信の肉体に影を纏う。


「死ねぇっ!!」
「舐めんなっ!!そんなちゃちな影魔法で……僕に勝てると思うなよ!?」
「何っ!?」


ミヤが影魔法で造り出した影人形よりも二回りは大きい影人形をダインは作り上げ、彼女の影人形を殴り飛ばす。影人形が殴られた際にミヤも一緒に吹き飛び、壁に激突して白目を剥く。


「がはぁあああっ!?」
「うわっ!?な、何か出たぞ!?」
「まずい!?皆それに触れるなよ!!」


壁にミヤが操っていた人間が叩きつけられた際、口元から黒色の霧を吐き出した。それを見たダインはいち早く正体に気が付き、吐き出されたのはミヤの魂の一部だった。呪術師は自分の魂を利用して敵に憑依するため、男が吐き出した黒霧が他の人間が吸い込むと操られる可能性があった。

黒霧は人の顔の形に変化するとおぞましい声を上げながら無茶苦茶に飛び回る。ミヤは死霊石に自分の魂の一部を封じていたため、遠くにいる本体の彼女の元に戻れずに辺りを飛び回る。それを見てダインは影人形を繰り出して動き回る魂を掴む。


「とっとと消えろぉっ!!」
『いぎゃあああっ!?』


影人形が建物の窓に黒霧を翳すと、太陽の光を浴びた途端に黒霧は消えていく。闇属性の弱点と同じく呪術師の魂は光を当てると消滅し、影人形の手に収まったミヤの魂は消滅した――






――同時刻、バルトロス王国の領地内に存在する隠れ家にてミヤは一人で血反吐を吐き散らす。ダインによって魂の一部が消滅されたことにより、彼女の肉体に大きな負荷が掛かる。


「がはぁっ!?げほっ、げほっ……あ、あの小僧……!!」


憎しみの光を両目に宿しながらミヤは悔しがり、まさか子供の頃に散々に痛めつけたダインに自分の分身がやられるなど夢にも思わなかった。しかし、彼女は口元に笑みを浮かべる。
しおりを挟む
感想 5,089

あなたにおすすめの小説

最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された「霧崎ルノ」彼を召還したのはバルトロス帝国の33代目の皇帝だった。現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が帝国領土に出現し、数多くの人々に被害を与えていた。そのために皇帝は魔王軍に対抗するため、帝国に古から伝わる召喚魔法を利用して異世界から「勇者」の素質を持つ人間を呼び出す。しかし、どういう事なのか召喚されたルノはこの帝国では「最弱職」として扱われる職業の人間だと発覚する。 彼の「初級魔術師」の職業とは普通の魔術師が覚えられる砲撃魔法と呼ばれる魔法を覚えられない職業であり、彼の職業は帝国では「最弱職」と呼ばれている職業だった。王国の人間は自分達が召喚したにも関わらずに身勝手にも彼を城外に追い出す。 だが、追い出されたルノには「成長」と呼ばれる能力が存在し、この能力は常人の数十倍の速度でレベルが上昇するスキルであり、彼は瞬く間にレベルを上げて最弱の魔法と言われた「初級魔法」を現実世界の知恵で工夫を重ねて威力を上昇させ、他の職業の魔術師にも真似できない「形態魔法」を生み出す―― ※リメイク版です。付与魔術師や支援魔術師とは違う職業です。前半は「最強の職業は付与魔術師かもしれない」と「最弱職と追い出されたけど、スキル無双で生き残ります」に投稿していた話が多いですが、後半からは大きく変わります。 (旧題:最弱職の初級魔術師ですが、初級魔法を極めたら何時の間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。