上 下
2,045 / 2,083
蛇足編

特別編 《レナがもしも女の子に転生してたら》

しおりを挟む
――バルトロス王国の第一王女として生まれたレナは城から追放されることはなく、王城での生活を許された。理由としては第一王子として生まれていた場合ならば王位を継承する権利があるが、女子として生まれた場合は王位継承権は与えられない。国王は娘が不遇職として生まれたことを残念に思うが、追放はせずに王城で暮らすことを許す。


「どうしたレナ!!そんなへっぴり腰では私には勝てないぞ!?」
「ううっ……ナオ姉様、もう疲れたよ」


レナは義理の姉であるナオに剣の稽古をつけてもらい、ナオは腹違いとはいえ初めてできた妹のレナを可愛がっていた。彼女はレナを連れて兵士達の稽古に混ざり、その様子を他の将軍は微笑ましく眺める。


「今日もナオ王女がレナ王女を扱いていますな」
「あの二人は本当に仲が良いですな。まるで本物の姉妹のようだ」
「それに比べて双子の妹さん達はわがままで手を焼かされますがな……」


ナオの実妹である双子は理由を付けて剣の稽古をサボることが多く、真面目に剣の稽古を受けるのはレナだけだった。そのせいでナオは他の妹の分までレナを鍛え抜く。


「レナ、職業など関係ない!!頑張った分だけ人は強くなれるんだ!!頑張って頑張って頑張り抜いた人間だけが大成するんだ!!」
「姉様……俺は魔術師なんだから魔法の勉強をした方がいいと思うけど」
「こら、また俺と言ってるぞ!!お前は女の子なんだから女の子らしくしろ!!」
「ひぃいっ!?」


ナオはレナの一人称を聞いて説教し、女性らしく振舞うように注意を行う。彼女なりにレナの将来を心配しての行動だが、心は男性であるレナにとっては女性らしく振舞うのは困難だった。


『今日も大変ですね。わざとおちこぼれのふりをするのは』
『仕方ないよ。俺が目立ち過ぎると命を狙われるんだし……』


実を言えばレナは実力的には既にナオにも劣らぬ能力を身に着けていた。だが、それを敢えて隠して生活を送る。理由としては第一王女のナオよりも目立ち過ぎると色々と問題があり、もしも不遇職のレナよりもナオが劣っていると知られれば彼女の立場が危うい。

長年にわたって王子が生まれないせいでバルトロス王国の王位継承権はナオに託される可能性が高く、そんな中でレナがナオよりも優秀なことを知られれば彼女を王位に就かせようとする派閥から危険視されて排除される可能性もあった。それを避けるためにレナは実力を隠して生きている。


『今は耐えるしかありませんよ。生き残るためには身に着けた力は決して誰にも知られないように気を付けてください』
『分かってる……でも、いつまで耐えればいいの?』
『そこは何とも言えませんね』


レナは実力を隠しながら生活する日々に嫌気がさすが、もしもレナの真の実力を知られれば彼女は瞬く間に殺されてしまう。それを避けるためには今は耐え凌ぎ、自由を得るまで耐え抜くしかない。


『この国はいずれ王妃の手に落ちます。その前にレナさんは能力を磨いて脱出する準備を整えてください』
『どうにか止めることはできないの?』
『無理ですね。もうこの国の支配者は国王ではありません。王妃が支配者と化しています』


既に王妃は王国内の権力を掌握しており、彼女に対抗できる存在は冒険都市のマリアだけだった。だが、そのマリアもアイラを人質に取られている状況では何も出来ない。アイラは王城内で暮らしており、それは逆に言えばアイラの命は王妃が握っている。

仮にレナ一人が逃げ出した場合、残されたアイラを王妃が逃すはずがない。だからレナは王妃がこの国を完全に掌握する前に家族と共に逃げる必要があった。そのためにレナは実力を磨き、何時の日か訪れる王妃が国を手にする時まで耐え凌ぐ。


『王妃から逃れたらとりあえずはヨツバ王国へ向かいましょう。レナさんもハヅキ家の血筋ですから受け入れてくれるでしょう』
『ヨツバ王国か……エルフの国だっけ?』
『そうです。いくら王妃でもヨツバ王国には手を出せませんからね。まあ、ヨツバ王国の中にも王妃と繋がっている輩はいるでしょうが、ハヅキ家に保護されれば下手に手だしされることはありません』
『だといいけど……』


バルトロス王国が王妃の手中に収まったとしてもヨツバ王国に亡命すればレナの命は助かるはずだった。アイラは元々はハヅキ家の一員であり、彼女と共にヨツバ王国に逃げ切ればレナは生き延びられる。但し、その場合はレナはハヅキ家の跡取りとして暮らさなければならない。


『ヨツバ王国に行けばレナさんはきっと跡取りとして教育を受けることになりますね。もしかしたら婚約者もすぐに用意されるかも……』
『ん?何かいった?』
『いいえ、何も……』


アイリスは敢えてレナにとっては不都合な情報は伝えず、今は生き延びるために彼女のサポートに徹した――





※レナが女の子に生まれていたらバルトロス王国は王妃に掌握されるバッドエンドルートは確実です。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

番に奪われる前に、僕だけの君にしてもかまわない?

五珠 izumi
恋愛
僕とアリアは家が隣どうしの所謂幼なじみだ。いつか彼女と結婚したいと思っていた。しかし、年頃になった彼女に『番』が現れてしまって…。 このお話は『義弟の婚約者が私の婚約者の番でした』という作品の中に出てくる、義弟の前世のお話です。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。