上 下
2,037 / 2,083
蛇足編

閑話 《黄金鎧の封印》

しおりを挟む
――マリアの手によって回収された黄金鎧(ビキニアーマー)は密かに冒険都市に送られ、ハヅキ家の秘宝を隠し通すためにマリアは苦難する。


「やはりレナに預けるのは駄目ね……もしも姉さんが黄金鎧のことを知ったらレナに出させようとするわ。優しいあの子が母親の頼みを断れるとは思えないわ」
「それならば拙者の国、和国に預けるのはどうでござるか?マリア殿の頼みならばヨシテル将軍も快く引き受けてくれるでござる」
「あの伊達男に借りを作るのは癪に障るわね」
「伊達男……」


持ち帰った黄金鎧を前にしてマリアは困り果て、彼女は氷雨のギルドの秘密の地下室に黄金鎧を保管していた。本音を言えば最上級魔法で消し去りたいが、流石に先祖が造り上げた家宝を破壊するような真似は避けたい。

黄金鎧をアイラの手に届かぬ場所に封じる方法を考え、一番の方法はレナのような収納魔法(空間魔法)の使い手に黄金鎧を預けるか、あるいは収納石などの魔道具に預けて封印することである。しかし、この黄金鎧は見た目通りに相当な重量を誇り、巨人族でも簡単には持ち上げられない。


「しかし、恐ろしく重い鎧でござるな……ここまで運ぶのは苦労したでござる。伝承では羽根のように軽いと伝わっているそうでござるが、実際はかなり重かったでござる」
「もしかしたら何らかの仕掛けで装着しないと軽くならないのかもしれん。装備しない限りは重い鎧のままだとすれば、これだけの重量の物体を異空間に収める収納咳となると簡単には用意できません」
「分かっているわ。だから悩んでいるのよ」


一般に発売されている収納石は重量が100キロ程度の物しか収納できず、黄金鎧は100キロ以上の重さを誇るので預けることができなかった。市販の物よりも効果が高い収納石を用意するのも時間が掛かり、収納石の類で黄金鎧を保管するのは難しい。


「いっそのこと、誰かに預けたらどうでござる?リンダ殿ならば着こなせるかも……」
「それは駄目よ。もしも姉さんがレナのところに遊びに来たら黄金鎧に気付いてしまうわ。この黄金鎧はハヅキ家の紋章が刻まれているのだからすぐに正体に勘付かれる」
「ならばヨツバ王国の国王に事情を話して預けるのは……」
「そんなことをしたらハヅキ家の恥を話すようなものでしょう!!代々の当主がこんな物を着ていたなんて……」
「は、恥と言わずとも……」


珍しくマリアは取り乱し、そんな彼女をカゲマルとハンゾウは宥める。黄金鎧を封印する一番の方法はアイラの手の届かない場所に封じることなのだが、良案は思いつかない。


「いったいどうすれば……こんなことをしている間にも姉さんに嗅ぎつかれてしまうかもしれないわ」
「まさか、それはないでござるよ。黄金鎧のことは誰にも話していないし、そもそもここは氷雨の関係者以外は入れないでござる」
「その通りです。いくらアイラ殿でもここまでは……」
「いいえ、姉さんを舐めてはいけないわ。すぐそこまで来ているかもしれない……はっ!?」
「マリア殿?」


マリアは顔色を青くして振り返ると、何者かの足音が鳴り響いた。この場所には誰も立ち寄ることを禁じているはずなのに足音が聞えてきたことに驚き、カゲマルとハンゾウは慌てて身構える。


「ば、馬鹿な!?」
「まさか本当にアイラ殿がここまで!?」
「……いえ、違うわ」


警戒する二人に対してマリアは安心した表情を浮かべ、現れたのはシュンだった。彼は秘密の地下倉庫の前にいる3人に気付いて腕を上げた。


「おう、嬢ちゃん。ここにいたのか」
「シュン!?何故貴様がここに……」
「いきなりどうしたのでござるか?」
「いや、実は嬢ちゃんに用があってな」
「……驚かせないで頂戴」


シュンの顔を見て3人は安堵したが、次の彼の言葉に固まってしまう。


「実はアイラの嬢ちゃんがここに来てるんだよ。なんでもマリアの嬢ちゃんに会いに来たとか……とりあえずは嬢ちゃんの部屋で待たせているけどどうする?」
「ね、姉さんがここに!?」
「ど、どうするのでござる!?」
「落ち着け、まだ鎧のことは気づかれていないはずだ!!」


こんな時にアイラが訪れたことに全員が慌てふためき、事情を知らないシュンは不思議に思う。彼は奥の倉庫に視線を向け、黄金鎧の存在に気が付いて驚いた。


「な、何だこの鎧!?まさか嬢ちゃんの趣味……」
「はあっ!!」
「ぎゃああっ!?」
「シュン殿!?」
「シュン!?」


マリアは無詠唱で強烈な光の魔弾を放ち、それを受けたシュンは吹き飛ぶ。それを見たハンゾウとカゲマルは焦るが、一番追い詰められていたのはマリアだった。彼女は全身から汗を流し、姉がすぐ傍まで来ていることに動揺を隠せない。

吹き飛ばされたシュンは目を回しながら床に倒れ、しばらくの間は起きそうになかった。その横をマリアは通り過ぎると、虚ろな瞳で杖を握りめながらぶつぶつと呟く。


「姉さんに気付かれる前に何とかしないと……良いことを思いついたわ、黄金鎧なんて元々存在しなかったのよ。事故で壊れたことにしましょう。私の最上級魔法で溶かし尽くせば……」
「マリア殿落ち着いて!!」
「杖を置いて下さいマリア様!?」


暴走しかけるマリアをハンゾウとカゲマルは必死に引き留め、とりあえずはアイラの元へ向かうことにした。




※アイラ「何故かしら、身体がぴりぴりするわ……まさか、この近くに極上のビキニアーマーが!?」
カタナヅキ「壁|д゚)エエッ……」
しおりを挟む
感想 5,087

あなたにおすすめの小説

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。