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蛇足編

精霊石の指輪の効果

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――時は少し前に遡り、レナがアルンの試練を突破して精霊石の指輪を受け取った時にアイリスとこのような会話をした。


『レナさん、その精霊石の指輪は絶対になくしたら駄目ですよ』
『え?別になくすつもりはないけど……』
『その精霊石の指輪は精霊を呼び寄せる効果があります。それを使えばレナさんは聖痕を宿していた時に扱えた能力も一時的に復活するはずです』
『そんなに凄いのこの指輪!?』


精霊石の指輪はただの装飾品ではなく、文字通りに精霊を呼び寄せる力を持つ。これを使えばレナが風の聖痕を宿していた時に扱えた能力の一部が再び再現できる。ただの人間でも精霊を扱える希少な指輪だという。

元から精霊に愛されているティナも同じ指輪を所有しているので彼女が精霊を呼び寄せると、普段以上に精霊が集まった。あまりに多くの風の精霊が集まったせいで竜巻のように二人を取り囲む風の渦巻が形成され、その精霊達の力を借りたレナは調査を行う。


「あの時のように……」


風の聖痕を宿していた時はレナは精霊の力を借りて「千里眼」の如く遠くの景色を見通すことができた。この世界では千里眼は実際に存在する能力だが、レナの場合は精霊を通して遠方の景色を確認する。使い方によっては千里どころかもっと先の景色も見ることができた。


(何処だ?何処にいる……見つけたぞ!!)


巨人族の兵士が草原を馬で駆け抜ける姿を目撃し、既に国境を離れていた。今から追いかけるとなると時間は掛かりそうだが、風の精霊を利用してレナは位置を特定すると魔力感知を発動した。


(よし、この状態だと魔力感知の範囲も広がっている!!)


レナの魔力感知は遠くにいる相手を見つけることは不向きだが、精霊の力を借りて魔力感知の範囲を大幅に伸ばすことができた。レナは巨人族の兵士が何処へ向かっているのかを把握し、皆に伝えた。


「逃げた兵士は北西の方角に向かって馬で走っている」
「何だと!?それは本当なのか?」
「どうしてそんなことが分かる!?」
「それはレナたんだからだよ~」


ゴウカと配下の兵士はレナの言葉を聞いて驚愕するが、ティナや他の仲間達は疑いもしない。シズネはレナが指し示した北西の方角に視線を向けて地図を取り出す。


「北西の方角というと……谷があるわね。名前はルノの谷よ」
「ルノ?それって冒険都市の名前じゃ……」
「ルノはこの国でも英雄として扱われている。遥か昔、巨人国を荒し回った竜種をルノが谷で討伐した。それ以来に谷はルノの谷と呼ばれるようになった」
「へえ~」


ルノの谷は遥か昔に帝国の英雄と謳われたルノが竜種を屠った場所らしく、彼は帝国に所属しながら世界各地で問題解決をしてきた。そのために帝国以外の国でも英雄として崇められており、巨人国もルノを崇拝している。

大昔にルノが竜種を屠った谷は現在は立入禁止されており、この場所には近付くことは何百年も禁じられていた。理由は不明だが噂ではルノは竜種を倒したわけではなく、この谷に竜種を封じ込めたのではないかと言われている。だから封印を解かれないように何人も近づくことを許さない。


「まさか闇組織の拠点はルノの谷だというのか!?くそっ、神聖な地を侵略者共に汚されたか!!」
「何百年も誰も立ち寄っていない谷……確かに隠れ家としてはこれ以上に絶好な地はないわね」
「どうしますか?追いかけますか?」
「う~ん……」


巨人族の兵士がルノの谷にある方角へ向かっているのは確かだが、追いかけるにしても随分と距離が離れてしまった。ウルやアインがいれば急いで追いかけることもできたかもしれないが、生憎とレナ達は現在は足となる魔獣を従えていない。


(リーリス辺りに連絡してウルを派遣してもらう手もあるけど、それでも時間が掛かり過ぎるし……俺一人で向かって空間魔法で皆を呼び寄せる手も使えないな)


空間魔法を利用した移動法はレナが他の魔法を一切扱えなくなるので危険が高く、そもそも追いかける手段がなければ意味はない。レナは困っているとティナが何かを思いついたように肩を叩く。


「あ、そうだ!!それならこういう方法はどうかな?」
「どういう方法?」
「えっとね、前にヨツバ王国でレナたんがスラミンちゃんと一緒に……」


ティナの提案した内容を聞いたレナは呆気に取られた。とんでもない移動法ではあるが今の状況なら実現できるかもしれない。


「確かにそれなら方角と距離を見誤らなければ何とかなるかも……」
「待ちなさい!!本気で言ってるの!?」
「そ、それはいくら何でも無謀では……」
「大丈夫、スラミンだけじゃなくてヒトミンもいる」
「「ぷるるんっ!!」」


ティナが思いついた移動法はスラミンとヒトミンにも大きな負荷を与えることになるが、成功すれば一気に距離を縮めるられる。だが、失敗したら最悪の場合は大怪我を負う危険な移動手段だった。
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