上 下
1,998 / 2,083
蛇足編

アルンの試練

しおりを挟む
「ティナ!!しっかりとこれを持つんだぞ!!」
「わわっ!?」
「では僕は先に待ち合わせ場所に行かせてもらう!!さらばだ!!」
「待てこらっ!!」
「ま、まあまあ、落ち着いて下さい」
「どうかアルン王子様のわがままにお付き合いください」


勝手に去ろうとするアルンをレナは追いかけようとしたが、側近の緑影二人が間に割って入る。いきなり試練と言われても納得できるはずがないが、ティナは受け取った砂時計を見てあることに気が付く。


「あ、これって……レナたん!!」
「ティナ?どうかした?」
「この砂時計、お母様が作ってくれた砂時計だよ!!」
「え?ティナのお母さん?」


ティナの母親は既に亡くなっているはずだが彼女によるとアルンが持ち出した砂時計は彼女の母親の物らしく、それを聞いてアルンは伝えた。


「ティナのいう通り、それは僕達の母が残した大切な砂時計だ」
「そんな物をどうして……」
「言っただろう。これは試練だ、その砂時計は大切な母上の形見だ!!それを壊せば僕だって無事では済まない!!もしも壊したら父上から僕は厳しい罰を受けるだろう!!しかし、それでもこの砂時計以外に試練に扱う道具は相応しい物はない!!」
「兄様!?」


アルンが大切な母親の形見を持ち出したのは彼なりに覚悟を決めたことを証明するためであり、もしも砂時計を壊せば父親からどれほどの重い罰を課せられるか分からない。しかし、自分が罰を受けようとアルンは兄としてティナの婿となる人物を見定める必要があった。


「僕の部下達にはその砂時計を全力で壊すように指示を出している!!もしも砂時計が壊れれば父からも妹達からも軽蔑されるだろう……だが、その砂時計が壊されるということはお前はティナを守り切れなかった証拠だ!!妹の大切にしている品を守り切れないようなら婿の資格はない!!」
「……自分が無茶苦茶なことを言っているのは分かってるんですか?これは貴方にとっても大切な代物でしょう?」
「それでもやらなければならない!!お前もティナのことを本当に愛しているのなら何としても守り切って見せろ!!ティナも、母上の形見もな!!」
「兄様……」


レナはアルンが母親の形見を持ち出してまで自分に試練を与えようとしていることに最初は気でも狂ったかと思ったが、アルンは本気でレナがティナに相応しい男かどうか見極めようとしていた。そのためには自分が家族から軽蔑されようと構わず、大切な妹に嫌われるような真似をしてでもレナを試そうとしていた。

アルンの覚悟を感じ取ったレナは何も言えず、黙って彼を見送ることにした。側近の二人もアルンと共に立ち去り、残されたティナは大切そうに砂時計を抱きしめる。


「レナたん……兄様の試練、受けてくれる?」
「はあっ……分かったよ。何があろうと俺が守ってみせるからね」
「うん!!」


ティナはレナの言葉を聞いて嬉しそうな表情を浮かべ、そんな彼女の笑顔を見てレナは断れるはずがなかった。渡された地図を確認して目的地までの距離を確認し、砂時計を確認してどれほどの余裕があるのかを確かめる。


(砂の量から計算して猶予はあと10分くらいかな。普通に歩いて行っても間に合わない、走ったとしてもぎりぎりだな……)


砂時計が落ち切るまで10分程度だと確認し、試しに砂時計をさかさまにしてもアルンのいう通りに砂は元に戻ることはなく一定の方向に砂が流れ続けた。それを見てレナはティナにしっかりと砂時計を守るように促す。


「ティナ、絶対に砂時計を離したら駄目だよ」
「わ、分かった!!胸に挟んでおくね!!」
「うん、まあ……そこが一番安全かな?」


持ち前の巨乳を生かしてティナは胸に砂時計を挟み、それを見てレナは砂時計が圧縮されて壊れないか心配する。もしもこの場にシズネが居たらどのような反応をするのか少し気になったが、胸に隠すという手段は悪くない。

恐らくはアルンは自分の部下を待ち伏せさせてレナ達を待ち構えているが、ティナの胸に砂時計が挟まっていたら男性の部下は手を出しにくい。アルンがティナのことをどれほど大切に想っているのかは周知の事実であり、そんなティナの胸元に挟まれている砂時計に手を出そうとすれば後が怖い。


(あの王子ならティナを直接狙う様な真似はさせないだろ。仮にティナを狙ってきたとしても……俺が守り切れば問題ない)


この試練はティナをレナが守り切れるかどうか確かめる試練のため、もしかしたらアルンはティナにも攻撃を仕掛けるように部下に命じている可能性もある。勿論、本気で彼女を傷つけるような真似はしないだろうがそれでもレナを試すためにティナに狙いを定める可能性はある。その場合はレナは自分だけではなく、ティナを守り切らなければならない。

考えている間にも時間は過ぎていくためレナはティナを連れて動き出す。北の城壁まで距離は2、3キロは離れており、急がねば間に合わない。レナ一人ならば余裕で辿り着けるが今回はティナを守りながら移動しなければならないので慎重に進む必要があった。
しおりを挟む
感想 5,087

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)
ファンタジー
陸奥さわこ 3*才独身 父が経営していた居酒屋「酒話(さけばなし)」を父の他界とともに引き継いで5年 折からの不況の煽りによってこの度閉店することに…… 家賃の安い郊外へ引っ越したさわこだったが不動産屋の手違いで入居予定だったアパートはすでに入居済 途方にくれてバス停でたたずんでいたさわこは、そこで 「薬草を採りにきていた」 という不思議な女子に出会う。 意気投合したその女性の自宅へお邪魔することになったさわこだが…… このお話は ひょんなことから世界を行き来する能力をもつ酒好きな魔法使いバテアの家に居候することになったさわこが、バテアの魔法道具のお店の裏で居酒屋さわこさんを開店し、異世界でがんばるお話です

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。