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蛇足編

砂漠の帆船

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――魔王を異空間に封印した後、レナは砂船を回収して岩山へ帰還した。ティナ達はレナが設置した黒渦が消えたので彼の身を心配していたが、無事に彼が戻ってきたので安堵する。そして事情を聞いて驚いた。


「まさか砂漠にそのような怪物がいたとは……やはり、私も同行するべきでした」
「へえ~黒色のスライムさんなんて見た事ないからちょっと見て見たかったな~」
「勘弁してよ……封じ込めるのに結構大変だったんだから」
「クゥ~ンッ」


黒色のスライムのような金属生命体に襲われた事を話すとリンダは悔し狩り、ティナは残念そうに呟く。もしもリンダが同行していれば彼女は格闘家なので魔王にも対抗できたかもしれない。だが、魔王は肉体を変幻自在に変える事ができるのでリンダでも敵わなかっただろう。

魔法の力を使わずともリンダはサイクロプス程度の魔物を打ち倒せる腕力と技術を誇るが、魔王の場合はオリハルコンを上回る硬度にスライムのように自由に変形する能力を持ち、さらに敵の能力を吸収する力を持つ。リンダの能力を奪われていたら厄介であり、レナは一人で戦えたからこそ勝てたと言える。


「その魔物は封じ込めたという事ですが、これからどうされるつもりですか?」
「う~ん……ずっと異空間に閉じ込めるのも有りかと考えたけど、永久に異空間を漂わせるのも可哀想な気がするし、何とかしてみるよ」
「何とかって?」
「例えば……神器で封じてみたり?」


ティナの言葉にレナは適当に答えたが、案外まともな提案なような気がした。神器チェーンで拘束された際に魔王は動きを封じられており、どうやら勇者の作り出した魔道具の類ならば魔王に抵抗できる可能性はあった。そして勇者関連の施設と言えば心当たりが一つだけあった。


「あいつに頼んでみようかな……」
「あいつ?誰の事?」
「いや、こっちの話だよ」


レナの脳裏に塔の大迷宮を管理する人物が思い浮かぶ、この世界で魔王を封じ込められる者がいるとすれば彼女以外に有り得ない。魔法の力を吸収する魔王を封じ込めるにはリーリスが最適だと判断し、王国に帰還後に彼女に魔王封印の件を頼む事を決めた。


「まあ、それよりも砂漠都市へ向かおうか」
「ですが砂船が直るまでは動けないのでは……」
「大丈夫、良い方法を思いついたから」
「良い方法?」


岩山にレナが帰還したのは自分が乗っていた砂船の小型船の修理を頼むだけではなく、とある改造を加えて貰うためだった――





――数時間後、レナはティナとリンダを乗せた状態で小型船に乗り込み、彼は風の精霊の力を借りて小型船に立てた帆に風圧を送り込んで移動を行う。


「いやっほうっ!!」
「やっほ~!!」
「や、やっほぉっ……」


レナが精霊の力を借りて砂船を動かし、それに乗ったティナは気持ちよさそうに声を上げる。リンダも恥ずかしそうに彼女と同じく声を上げ、その様子をレナは微笑ましく眺める。


(最初からこうすれば良かった。精霊に力を借りるだけなら大して魔力も消耗しないし、この速度ならすぐに辿りつけそうだ)


砂船は魔石の魔力を動力にして動かす乗り物だが、レナは風の精霊の力を借りる事で操作を行う。従来の砂船がモーターボートだとすればレナ達が乗っている砂船は風の力を借りて移動する帆船である。

砂船に乗り込んでいるのは純粋な森人族であるティナとリンダ、そして人間でありながら風の精霊の力を操れるようになったレナであり、風の精霊も思う存分に力を貸してくれる。大型の砂船を動かす程の力は流石に生み出せないが、小型船ならば三人乗りでも十分に移動できる力を発揮した。


「これ、すっごく楽しいよ!!もっと早く動かせる!?」
「ティナ様、落ち着いて下さい……きゃあっ!?」
「おっと、砂丘を乗り越える時はしっかり掴まった方がいいよ」


砂丘を移動する際は注意する必要があり、あまりに移動速度を上げ過ぎると砂丘を乗り越える際に跳んでしまう。リンダは必死に落ちないようにしがみつくが、ティナの方は船の先端で嬉しそうにはしゃぐ。


「わ~!!こんなに早い乗り物初めてだよ~!!」
「ティナ様、危ないですからしっかり掴まって下さい!?」
「大丈夫だよ~いつもミノ君やアインちゃんに担がれてるからこれぐらいの揺れなんて慣れっこだよ!!」
「なるほど、道理で乗り慣れているわけか」


ティナが初めて乗るはずの砂船で平気なのは普段から彼女がミノやアインを乗りこなしているからであり、普通の馬と違ってミノもアインも彼女を肩に乗せて移動を行う。そのために肩の上か落ちないようにティナは普段からバランスを取っており、そのお陰で彼女の体幹は自然と鍛えられて揺れる船の上でも平気らしい。

体幹に関してはリンダも十分に鍛えているはずだが、彼女は船などの乗り物は苦手なのか不安そうに乗り込んでいた。そんな様子を見てレナはリンダのために少しだけ移動速度を落とそうとした時、ティナが前方を指差す。
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