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蛇足編

砂漠の孤島

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「陸の孤島ならぬ砂漠の孤島か……なんて、呑気に言ってる場合じゃないな」


隕石の上にてレナは座り込み、試しに空間魔法を発動しようとしたが上手くいかない。発動した瞬間に黒渦が消散してしまい、異空間に繋がる事ができない。船も動かそうにも魔石が反応せず、完全に孤立してしまった。


「扱えるのは身体強化の魔法だけか……これは体内から肉体を強化しているから平気なのかな」


唯一に扱える魔法は身体強化のみであり、この魔法は体外に魔力を放出するわけではないので効果が無効化される事はない。但し、身体強化の魔法だけを使えても意味はない。


「どうすればいいのかな……救助が来るまで待つにしてもどれくらい時間が掛かるか分からないし……」


レナが乗り込もうとした砂船は修理をするまでに三日は掛かるらしく、他の砂船が偶然にも訪れる可能性は低い。そもそも他の砂船は獣人国との取引に利用されており、ここに来る可能性は低い。

隕石の周囲がクレーターである事も問題であり、仮にオールなどもあったとしても自力で移動する事は難しい。船を動かすためには魔石を発動させるしかないが、隕石の近くでは魔石は反応しない。


(魔法が使えないだけで魔力が奪われているわけじゃないから隕石から離れれば船は動かせると思うけど……問題は離れさせる方法だな)


小型船がある程度まで離れれば動かす事はできると思われるが、重要なのはどうやって離れるかだった。レナは手持ちの道具の中で役立ちそうな物は見当たらず、残念ながら精霊魔法も当てにはできない。


「アイリスのいう通り、この隕石があるせいか砂嵐も近付いてこないな……」


砂嵐から避難するためにレナは隕石に近付いたが、隕石の魔法無効化の効力のせいか砂嵐は訪れる様子がない。厳密に言えば砂嵐に含まれている風の精霊が隕石の力で消えてしまい、砂嵐は消失したという方が正しい。


「ふうっ……本当に困ったな」


ここが海の上ならば魚でも釣って食べ物を得られるが、生憎と砂海には食べられる魔物は滅多にいない。現れるとしたらサンドゴーレムやサンドフィッシュといった魔物ばかりであり、このままではレナは餓死するかあるいは熱中症で死んでしまう。


(流石に暑さも我慢できなくなってきた……ここから離れる方法を見つけないと本格的にまずいな)


隕石の上からレナは立ち上がり、砂海に視線を向けた。身体強化の魔法は使えるので一か八か、とある方法での脱出を試みる事にした。


「あれをやるしかないか……できるかな?」


レナが考えた方法とは砂海に降り立ち、身体が沈む前に高速移動で脱出するという手法だった。要するに右足が砂海に飲み込まれそうになったら左足を前に出して踏ん張り、逆に左足が飲み込まれそうになったら右足を踏ん張って前に進むという手段である。

この理屈ならば水の上でも移動できる事になるが、砂海の場合は水と違って身体が沈むのに数秒の時間は掛かる。実際に馬などの生物ならば短時間であれば砂海を移動できる事は実証されている。レナは気合を込めて頬を叩く。


「よし、行くか!!」


隕石の上に移動させた小型船に関しては後で回収する事を決め、レナは気合を入れて砂海に飛び込む。そして身体強化の魔法を発動させると、全速力でクレーターを駆け上がった。


「うおりゃあああっ!!」


全速力でレナはクレーターを駆け上がり、何としても坂の上を登り切るまで足を止めない。平坦な大地を走るよりも砂海を移動するのはかなりの体力を消耗するが、どうにかレナは坂を乗り越えた。


「よっしゃあっ!!」


坂を乗り越えたレナは体力が切れる前に魔法を発動できるか確認し、空中に氷塊を作り出す。氷塊を作り出した後はレナはその上に乗り込み、息切れしながらも無事に砂海から生還する事ができた。


「はあっ、はあっ……さ、流石にきつかった」


氷塊に乗り込んで安心したレナは今度は隕石の上に置いたままの小型船を回収するため、久々に神器チェーンを取り出す。この神器はレナの魔力に応じて鎖を自由に動かす事ができるため、それを利用してレナは氷塊に鎖を巻き付ける。

氷塊に鎖を巻き付けた後にレナはもう一度だけ隕石に移動を行い、その後は鎖と小型船を繋ぎ合わせる。後は鎖を引っ張って移動するだけであり、これがかなりの重労働だった。


「せぇのっ!!」


小型船に乗り込んだ状態でレノは鎖を引っ張り、どうにか隕石から離れる事に成功した。離れた位置にある氷塊ならば隕石の効果も受けず、魔法を維持する事ができる事が証明された。どうにか隕石から離れる事に成功すると、レナは心底疲れた表情を浮かべて小型船の上で横になる。


「あ~疲れた……とんでもない目に遭ったな」


自分から近づいたとはいえ、まさか魔法を無効化する隕石があるなど夢にも思わなかった。しばらくの間は小型船の上でレナは身体を休ませ、体力の回復に専念しようとした。
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