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蛇足編

閑話 《墓参り》

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――レナとの決闘を終えた後、バルは自分の母親の墓に訪れた。彼女が最後に墓参りに訪れたのは20年近く前の話であり、母親の仇を取るまではここへは来ないと誓ったが、もう母親を殺した男はこの世にいない。


「母さん……あたし、剣士を辞めちまったよ」


墓の前でバルは杯を置き、酒を注いで自分も飲む。実はバルの母親は下戸であまり酒には強くないが、たった一つだけ好きな酒があった。その酒はアルコール度数が低くてバルはあまり好みではないが、今日の酒は一段と美味しく感じた。


「母さんが剣を教えた時、剣士として一番嬉しい事は何だと聞いた事があったね」


子供の頃にバルは母親から剣を教わった時、剣士として最高の喜びは何か気になった。そこで母親に聞いてみると意外な答えが返ってきた。


「母さんはこう言ったね、自分の弟子が成長して自分を越えた時こそが剣士の本懐だって……正直、あの時のあたしは意味が分からなかったよ」


剣士を志したバルは何時の日か大業を為して世間に自分の名前を知らしめようと考えていた。誰もが認める最強の剣士になる事が彼女にとっては最高の夢だったが、彼女の母親は違った。剣士として大業を為すよりも自分の弟子を自分よりも強い剣士に育て上げる事が彼女の夢だと語る。

子供の頃のバルは母親の話を聞いても理解できなかったが、年を重ねて弟子を取った今ならばバルは母親の気持ちがよく分かった。バルは弟子であるレナが自分よりも強くなった事に最初は悔しく思ったが、今では誇りに思う。自分の弟子が世界でも指折りの剣士になったと考えればこれ以上に喜ばしい事はない。


「アイラさんも母さんと同じ考えだったのかね。そうだとしたらあたしは弟子失格だ……」


バルはアイラを師として崇めていた時期もあるが、結局はバルはアイラを越える前に彼女は冒険者を辞めてしまった。その事に対してバルは自分がやり遂げられなかった夢を弟子であるレナが叶えてくれた様に思った。


「母さん、あたしは剣士を辞めるよ……もう思い残す事はない。これからは自由に生きるよ」


剣士として生きていく事に誇りを持っていたバルだったが、弟子が自分を完全に越えた事を自覚すると彼女はもう剣士で居続ける事に理由を見出せず、これからは剣士以外の生き方を模索する事にした。そんな彼女を遠くから見つめる影があった。


「バルちゃん……立派になったわね」
「ええ、本当に……あの小生意気な娘がよくぞここまで育ったわね」


離れた場所でアイラとマリアが大きな花束を持って見守っており、実はこの日はバルの母親の命日だった。二人は命日になると必ず墓参りに訪れていたのだが、そんな事は知らないバルはしばらくの間は葉かの前で思い出話を語る――






※バルの母親は立派な剣士でした。実力的にはバルは母親を越えているので母親の夢は叶っています。
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