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蛇足編

最後の依頼者は……

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「――残す依頼はあと一つか。ここまで長かったな……」


結婚式から数日後、レナが頼まれた以来は残すところあと一つとなった。どの依頼もS級冒険者にしか頼めない高難易度の仕事ばかりであったが、遂に最後の依頼が決まった。


「久々の冒険者稼業だったけど、やっぱり大変だな……さてと、最後の依頼人は誰かな?」


依頼書を片手にレナは依頼人の確認を行い、これまでの依頼の大半は知り合いだった。最後の依頼主も知り合いではないのかとレナは若干疑いながらも確認を行うと、依頼主の名前には信じられない名前が刻まれていた。


「えっ……!?」


依頼主の名前の項目にはレナにとっては忘れられない人物の名前が刻まれており、もうこの世にはいないはずの人間の名前が記されていた――





――依頼人の存在を確かめるためにレナは依頼書に記された住所に赴くと、そこはかつてレナが暮らしていた住居だった。今現在はレナは屋敷に暮らしているが、冒険者を始めたばかりの頃はコトミンやウルと共に暮らしていた家である。

現在は空き家となっているはずだが、レナは家の中に入ると誰かが住んでいる痕跡を確認した。緊張した様子で中に入ると、そこには見知った顔があった。


「……カノン?」
「ひっ!?ど、どうしてあんたがここに!?」


家の中に居たのはカノンであり、彼女はレナが入ってくると怯えた表情を浮かべて壁際に移動する。どうして彼女がここにいるのかとレナは疑問を抱くが、とりあえずは話を聞く。


「なんであんたがここに……王都から逃げ出したの?」
「ま、待って!!別に私だって脱走したくて脱走したわけじゃないわよ!?」
「ならどうして?」


カノンは罪を犯した罰として現在は王都の王城の使用人として働いているはずだが、そんな彼女がどうして冒険都市に存在するのかとレナは警戒する。しかし、カノンは別にバルトロス王国に逆らうために逃げ出したのではなく、彼女もここへ呼び出されたらしい。


「て、手紙が届いたのよ!!あいつの名前が書かれた手紙が届いて、それで怖くなってここへ来たのよ!!」
「手紙?まさか……」
「イレアビトよ!!この国を支配しようとしたあの女からの手紙よ!!」


イレアビトの名前をカノンは口にすると、レナはそれを聞いて驚いた。イレアビトはかつてレナが戦った王妃の名前であり、旧帝国の真の支配者にしてバルトロス王国の支配を計画した最悪の敵である。

世間では王妃の名前は「サクラ」として知れ渡っているが、それは偽名で本名は「イレアビト」だとレナはアイリスから知らされている。しかし、カノンはイレアビトの名前を知っていたらしく、そもそも彼女は一介の傭兵だったがイレアビトに協力したお陰で大将軍まで成り上がった。


「あ、あの女の名前が書かれた手紙が届いてそれでここへ来たのよ!!本当にそれだけよ!?」
「なら他の人間には知らせたの?」
「そ、そんな事ができるはずないじゃない!!あの女の手紙を受け取ったなんて言っても信じないし、それに手紙には他の人間に話せば命はないって……」
「イレアビトはもう死んだ。何をそんなに恐れて……」
「そ、そういうあんただってここへ何しに来たのよ!?どうせ私と同じで呼び出されたんでしょう!?あんただってあの女の名前を使う奴の事が気になったからここへ来たんでしょう!!」


カノンの言葉にレナは言い返す事はできず、最後の依頼人の名前はイレアビトと書かれていた。この名前を知る人間はそう多くはないはずであり、レナはどうしても気になって手紙に記された場所に訪れた。それはカノンも同じであり、彼女は心の底から恐怖した様子で身体を震わせる。


「あの女がもしも生きていたとしたら……あ、あいつに逆らったらどうなるのか、あんたには想像できる!?あいつは自分に歯向かう者には決して容赦しない……それは誰よりも私がよく知ってるのよ!!」
「どういう意味?」
「あ、あいつに逆らった人間を一番多く始末したのは……きっと私よ」


まだイレアビトが健在だった頃、カノンはイレアビトの命令で今までに数えきれない程の彼女の反逆者を始末した。大将軍といってもカノンはミドルやレミアと違って自由に行動しており、そもそもイレアビトがカノンに大将軍の地位を与えたのは自分に反抗心を抱く存在を始末するために過ぎない。

ミドルは忠実な部下ではあるが、彼は国を守る大将軍として多忙の身である。そのためにカノンは自分に歯向かう存在を消すためにカノンを雇い、彼女はミドルにはできない暗殺稼業を任されていた。


「い、今更隠すつもりはないから言うけど、あの女に言われて私は何十人も暗殺してきた……だけど、殺した後の始末はあいつが完璧に誤魔化したわ。だから今まで殺した人間の遺族から私が犯人だと気付かれた事もない」
「お前……」
「そ、そんな目で見ないでよ!?あんたに何が分かるのよ、私だって好きで殺したわけじゃない!!でも、あの女に逆らえば……」


カノンはかつて犯した殺人に関しては思う所はあったが、当時の彼女はイレアビトに心底恐れており、だからこそ逆らえなかった事を明かす。
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