不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません？

蛇足編

誤解

「がああっ！！」
「おっと」
「おあっ！？」


狼頭の男は空中で鉤爪を繰り出した瞬間、レナは縮地を発動させて場所を移動する。男が放った鉤爪は空を切り、しかも移動したレナに足首を掴まれた。


「そぉいっ！！」
「ふげぇっ！？」
『ええっ！？』


両足首を掴まれた男は床に叩きつけられ、それを見ていた者達は驚きの声を上げる。男を床に落としたレナは背中を踏みつけ、逃げられないように抑えつけた。


「大人しくしろ」
「ぐぎぎっ……！！」
「抵抗するな！！」
「うぎゃあっ！？」
「そのまま取り押さえてください、麻酔で眠らせますから」


背中を踏みつけられながらも男は力を込めて起き上がろうとしてきたが、そんな相手にレナは足の裏に重撃を発動させる。重力によって抑えつけられた男はじたばたともがくが、どれだけ暴れようと抜け出せない。

男が取り押さえられている内にホネミンは近づき、彼女は注射器を取り出した。それを倒れている男の身体に突き刺し、中身を注入した。麻酔の効果で男はやがて動かなくなり、いびきをかいて眠り始めた。


「ふがぁああっ……」
「ふうっ……何だったんだこいつ」
「この人が殺人犯なんですかね？」
「た、助かった……」
「死ぬかと思ったぜ……」


転移台に乗っていた冒険者達は狼頭の男が取り押さえられたのを確認すると、レナ達の元へ近寄る。彼等がやってくるとレナは狼頭の男から離れ、何が起きたのかを尋ねた。


「この人は何なんですか？」
「す、すまねえ……迷惑を掛けたな」
「そいつは俺達の仲間なんだ」
「仲間？殺人犯じゃないんですか？」
「殺人犯？そうか、あんたらは隊長の死体を見たんだな？」
「隊長？」


冒険者達の話によればレナ達が大迷宮で発見した死体は冒険者達の隊長格だったらしく、彼等によれば狼頭の男は仲間で殺したのは別の人間だと語る――





――レナ達が遭遇した冒険者集団パーティは「青き旗」というらしく、冒険都市の牙竜に所属する冒険者だと発覚する。彼等は他の冒険者集団と共に組んで大迷宮を攻略する予定だったのだが、何故か出発前に冒険者の一人が待ち合わせ時間になっても訪れなかった。

時間を過ぎても現れなかった冒険者というのがテンらしく、彼女は合流時間に間に合わず、他の冒険者は彼女を置いて先に出発した。ちなみにテンは後から追いかけてきたが階層を間違えたため、砂漠で彷徨っている所をレナに救われた。

テンを除いた冒険者集団は第四階層を共に攻略するために行動を共にしていたが、休憩の時間を迎えた時に冒険者集団の隊長格を勤めていた男が仲間が渡した水筒を飲んだ途端に死亡した。その仲間とは金髪の女性であり、見た目は森人族にそっくりだったが実はサキュバスだと判明する。

大迷宮には外部の魔物は近寄れないが、魔人族は例外でサキュバスは冒険者に変装して同行していた者達を襲う。サキュバスの魅了の能力で狼頭の男は操られ、サキュバスと同行していた森人族の男も襲い掛かった。冒険者達は散り散りになって逃げ出すのが精いっぱいであり、ここまで辿り着いた冒険者は元々の人数の３分の１程度だという。


「あんたらのお陰で本当に助かったよ。もう少しで仲間に殺される所だった」
「たくっ、こいつ魅了なんかにかかりやがって……」
「仕方ねえよ、あのサキュバスの色気はやばかったからな」
「……なるほど、事情は分かりました」
「サキュバスか……」


途中で見つけた死体と捕まえた男の正体が判明し、やはりというべきか死んでいた男はレナ達を殺そうとした森人族の男の仲間が毒殺したらしい。謎は全て解決したように思えたが、まだこの階層にはサキュバスと生き残った冒険者がいるかもしれないという事だ。


「皆さんはどうするつもりですか？」
「すぐに戻って外の連中に注意してくるよ。サキュバスがいるなら男の冒険者はやばいからな……あんたも気をつけろよ、奴等の魅了の能力で操られたらこんな風になるからな」
「ぐぅうっ……」
「くそっ、こいつ呑気に寝やがって……俺達を殺そうとした事、絶対に後悔させるからな」


狼頭の男は他の仲間に連れられて転移台に運ばれ、この時に頭に身に付けていた狼の被り物が取れた。するとレナとホネミンは驚き、男の顔は見覚えがあった。


「あれ、この人……もしかしてレナさんによく突っかかる人じゃないですか？」
「いや、そんなはずは……この時代に生まれているはずがないよ」
「ん？あんたらこいつの事を知ってるのか？」
「いや、知り合いに少しに手て……名前は何ていうんですか？」
「こいつの名前はガオだよ」


ガオと呼ばれた男は眠りこけたまま起きる気配がなく、その様子をレナとホネミンは黙って見つめる。ガオという男性は未来の世界のガロと瓜二つの容姿をしており、恐らくだがミナの冒険者集団に所属するガロの父親だと思われた。




※まさかのあのキャラクターの父親登場！！