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真・最終章 七魔将編

情け

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「たいしたね……」
「貴女……どうして本気を出して戦わなかったの?」
「……あんな三流魔導士に従うぐらいなら死んだ方がマシだと思ったからよ」


アルドラにシズネは問いかけると、彼女は自分の身体が完全に凍り付く前に口を開く。しかし、その返答を聞いてもシズネは納得せず、本当にブラクに協力するのが嫌なのであれば自害もできたはずだった。


「嘘ね、その言葉は本心とは思えないわ。あの悪霊に従うのは嫌だというのは本当みたいだったけど、死にたくない理由はあるはずよ」
「……勘の鋭い娘ね」


シズネの言葉にアルドラは否定せず、彼女はため息を吐きながら空を見上げる。まだ冒険都市の上空は黒雲には覆われておらず、美しい青空が見えた。もう間もなく自分の身体が凍り付く事を悟った彼女は最後にシズネに本心を語る。


がいるからよ……これで満足かしら?」
「……ええ、素敵な答えね」


その言葉を最後にアルドラの身体は凍り付き、それを見届けたシズネは瞼を閉じた――





――同時刻、レナはダインと共にブラクの影に取り憑かれた死体人形の始末を行っていた。ダインが闇属性の聖痕を頼りにブラクの魔力を感知し、見つけ出したてはレナが対処を行う。


「レナ!!あいつだ、冒険者に化けてる!!」
「あれか……おい、待て!!」


ダインが街道を駆け抜ける冒険者集団を発見し、その内の一人を指差してブラクの影が憑依している事を見抜く。レナは発見した冒険者に向けて駆け出すと、右手に意識を集中させて殴りつける。


「弾撃っ!!」
「ぐはぁあああっ!?」
「うわっ!?」
「な、何だ!?」
「お、おい待て!!そいつはうちの冒険者で……えっ!?」


レナが殴りつけた冒険者の仲間達が唐突に殴りつけてきた彼に驚くが、殴り飛ばされた男は地面に倒れ込むと全身から黒い煙のような魔力が噴き出し、それを見たダインは影魔法を発動させる。


「逃がすか!!」
『ぐおっ!?』
「な、何だっ!?」
「何よこれ!?」


影魔法で「影人形」を作り出したダインは冒険者の身体から逃げ出そうとした「影」を拘束し、逃げられないようにしっかりと影人形で掴む。ブラクの影は実体を持たないが、同じ闇属性の魔法で構成された影魔法だけはブラクの影を捕らえる事ができた。

ダインの影人形がブラクの影を拘束し、その間にレナは冒険者の安否を確認する。しかし、残念ながら既に事切れていたらしく、彼は死んだ冒険者の仇を討つために拳を握りしめて「蒼炎」を纏う、先ほど殴りつけた時も直に触れないように手元に魔鎧術を発動させ、更に今度は武器に蒼炎を纏わせて魔刀術で止めを刺す。


「ダイン、投げて!!」
「おっしゃあっ!!」
『止めろぉおおおっ!?』


影人形が投球フォームでレナに目掛けて丸めた影を投げつけると、それに対してレナは魔刀術を発動させた退魔刀を振り下ろし、影を真っ二つに切り裂いた後に焼き尽くす。


「消えろっ!!」
『ぐぎゃああああっ!?』


闇属性に対抗するには聖属性の魔法が一番効果的だが、強い光を放つ火属性や雷属性ならば分裂したブラクの影も消し去る事ができた。ダインは巻き添えを喰らわないように影人形を解除させ、額の汗を拭ってレナに親指を立てる。


「やったな!!これでえっと……5人目だな!!」
「うん……けど、この人はもう……」
「お、おい!!あんた等、何なんだよ!?」
「うちの相棒に何が起きたの!?」
「ちょ、ちょっと……早く起きなさいよ」


冒険者達はブラクの影に取り込まれていた人物に縋りつくが、既に冒険者は亡くなっていた。ブラクが肉体を完全に操れるのは死んだ人間だけであり、仮に生きている人間の場合はオウガの時のように抵抗されて上手く肉体は操れない。

レナ達が発見した時から他の冒険者達と行動していた男性は既に死んでおり、彼等は味方が既に死んで肉体を乗り移られている事も気づかずに行動を共にしていた。仲間が死んでいる事に冒険者達は取り乱し、何が起きているのか理解できなかった。


「あ、あんた……確か、S級冒険者のレナさんだよな!?うちの仲間に何をしたんだ!!」
「それは……」
「答えろよ!!どうして俺の仲間が死んでるんだ!!あんたらのせいなのか!?」
「ち、違う!!僕達は……」
「や、止めなさいよあんた達……」


仲間がレナ達のせいで死んだと勘違いした冒険者の男達が騒ぎ出すが、たった一人の女性冒険者だけは死んだ味方を抱き上げながら涙を流す。


「さっき、こいつの身体から変なのが出てきたでしょ?あれが悪霊ゴーストか何かでこいつが乗っ取られてたんでしょ……そこの人達はそれに気づいて助けてくれた。そうでしょう?」
「なんで……なんでそんな事が分かるんだよ!?」
「分かるわよ……こいつの顔、見てよ。笑ってるわ……まるで楽になったみたい」


女性の言葉に全員が死んだ冒険者の顔を覗き込むと、確かに彼女の言う通りに冒険者は満足そうな死に顔を浮かべていた。恐らくは死んだ時に僅かに魂のが残り、ブラクに肉体を奪われて操られ続けて居た時は苦しんでいたのだろう。

しかし、レナ達のお陰で冒険者は最後に肉体を取り戻し、肉体に残された魂は天に召されたが最後の最後で自由を取り戻した事に感謝して笑って死んだのだと思われた。それを見た仲間達は彼の死に際は楽に逝けたと判断し、黙ってレナとダインに道を開ける。
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