上 下
1,432 / 2,083
真・最終章 七魔将編

聖水香

しおりを挟む
「おいおい、いきなり現れて何を言い出すんだ嬢ちゃん。あんた、見た所だとまだガキじゃねえか」
「失礼な、確かに若い時の肉体を再生してもらいましたが私の実年齢は貴方の何倍も生きてるんですよ」
「あん?何言ってんだ、俺はこう見えても100才近くだぞ」
「シュン……彼女の言っている事は本当です。この御方は私たちよりも年上ですよ」
「んな馬鹿な……」


ホネミンとは初対面のシュンは彼女の言葉が信じられず、外見だけを見るとホネミンはまだレナ達とそう変わらない年齢の少女にしか見えない。尤もシュンの師匠であるハヤテは彼よりも年上なのにホネミンよりも幼い容姿であるため、彼女が自分よりも年上である可能性は否定する事はできない。

しかし、いくらエルフといっても数百歳も年齢を重ねれば容姿も老いるのは避けられない。だからこそホネミンの場合も本当にシュンよりも何倍もの時を生きていれば容姿は年老いているはずだが、彼女の場合は特殊な事情で若い肉体を保っている。


「私の場合は色々とあって肉体は若くなりましたが、こう見えてもここにいる誰よりも年上なんですよ。ほらほら、目上の人に対して敬意を表してください。肩揉んでお茶を用意して貰いましょうか」
「な、何だこの図々しい嬢ちゃんは……」
「言動はどう見ても子供にしか思えんが……」
「ま、まあ……性格はともかく、彼女の言う言葉は嘘ではありません。この御方の腕は確かです」


自己紹介を終えたホネミンは偉そうにふんぞり返るが、その態度にシュンとロウガは胡散臭い表情を抱くが慌ててリンダが間に割って入る。彼女はティナの護衛役としてレナの屋敷に共に暮らしており、時々遊びに訪れるホネミンとも対話した事があった。

彼女の事情はレナから直接聞かされており、最初の頃はリンダもまさかエルフ王国(ヨツバ王国が建国される前の時代に存在した国家)の英雄として歴史に名前を刻んでいた人物がホネミンだと知った時は衝撃を受けた。正直に言えば最初の頃はほら吹きの少女だとしか思えなかったが、レナが嘘を吐く理由はないし彼女が骸骨姿だった時の姿もリンダは知っているため、認めざるを得なかった。

ちなみにホネミンが肉体を取り戻したのは彼女自身が肉体を再生させる薬を使用したと説明し、巨塔の大迷宮に存在するアンドロイドに強力して貰って肉体を再生した事は伏せている。話した所で信じて貰える内容ではなく、この世界の人間にはそもそもアンドロイドの存在を説明する方が難しい。


「まあ、おふざけはここまでにしておいて……怪我人の治療のためには聖水を必要としているんでしょう?微力ながら私も聖水の生産を手伝いますよ」
「そいつは有難いけど……聖水を作れるのは教会の人間だけじゃないのかい?」
「私が作るのはただの聖水ではありません、従来の聖水よりも効果の高い聖水……その名前も聖花香です」
「せ、聖……花香?」


聞いた事もない名前の薬に全員が戸惑うが、ホネミンによれば現在の聖水を利用した怪我人の治療はあまりにも非効率らしく、単純に聖水を浸らせた包帯を呪詛で侵された人間に巻き付けるだけでは完治まで時間が掛かり過ぎる事を指摘する。


「今の治療法だと呪詛を浄化する前に必ず体力が持たずに大半の人間が死んでしまいます。既に死亡者もいるのでは?」
「……ああ、あんたの言う通りだよ。治療中だった人間も何人か死んでいる、体力が持たなかったんだろうね」
「聖水を利用して呪詛を浄化させるまでは良いんです。ですけど、その肝心の呪詛を祓う方法が問題があるんですよ。包帯をただ巻き付けるだけで呪詛を完全に浄化するには時間が掛かり過ぎますし、何よりも無駄に聖水を消費します」
「そこまで言うのなら嬢ちゃんは何かいい方法があるのかよ?」
「私の話をちゃんと聞いてたんですか?あるからこうして偉そうに振舞ってるんですよ」
「お、おう……それ、自分で言うのか?」


胸を張ってあからさまに偉そうな態度を取るホネミンにシュンはたじたじであり、何故だか知らないが彼はホネミンに強く出る事はできなかった。普段の彼ならばこの緊迫した状況で偉そうに語り掛ける少女を見れば流石に苦言の一つや二つは告げるのだが、ホネミンの場合は異様な雰囲気を纏っていてどうにも逆らえない。


「話を戻しますが私がこれから作り出す聖水香は文字通りにただの薬ではありません。聖水を原料とした香薬です」
「香薬?」
「この世界には……あ、いや、この国では馴染みのない薬かもしれませんが、聖水さえ用意してくれるのであればすぐに製作できます」
「は、はあ……その薬はどれくらいで造り出せるんですか?」
「聖水と私が用意した特別な薬草を利用すれば1日で作り上げる事はできます。後は大勢の患者を集められる場所を用意して下さい、大丈夫ですか?」
「……分かった、ならうちのギルドを好きに使っていいよ」
「ギルドマスター!?本気ですか!?」
「どうせこのまま治療を続けても助かるのか分からないんだ、なら賭けてみるしかないだろう?」


バルの言葉に受付嬢は驚くが、彼女はレナの仲間であるホネミンを信じて彼女に呪詛に侵された人間達の治療を託した――
しおりを挟む
感想 5,087

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)
ファンタジー
陸奥さわこ 3*才独身 父が経営していた居酒屋「酒話(さけばなし)」を父の他界とともに引き継いで5年 折からの不況の煽りによってこの度閉店することに…… 家賃の安い郊外へ引っ越したさわこだったが不動産屋の手違いで入居予定だったアパートはすでに入居済 途方にくれてバス停でたたずんでいたさわこは、そこで 「薬草を採りにきていた」 という不思議な女子に出会う。 意気投合したその女性の自宅へお邪魔することになったさわこだが…… このお話は ひょんなことから世界を行き来する能力をもつ酒好きな魔法使いバテアの家に居候することになったさわこが、バテアの魔法道具のお店の裏で居酒屋さわこさんを開店し、異世界でがんばるお話です

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。