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弱肉強食の島編

白牛将のその後

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レナは聖剣の類も魔法金属で構成されている事を思い出し、だからこそ何百年も扱われても簡単に壊れない事を知る。最もカラドボルグのように魔法金属製の武器でも限界を迎えると壊れたり、錆びつく事はあるため、決して万能ではない。


「よし、薬はこれぐらいでいいかな……そうだ、そういえば白牛将の奴はどうしてる?」
「あ、兄貴か……兄貴の事が気になるのか?」
「え、いや気になると言えば気になるけど、どうかしたの?」
「……あの人はもう駄目だ」


白牛将の事を話題にすると何故かミノタウロス達は顔を伏せ、その態度にレナは不思議に思うが、とりあえずは白牛将の元まで案内してもらう。白牛将は現在は檻の中に閉じ込められており、逃げ出さない様に長の配下が見張りを行っている。

ミノタウロス達の案内でレナは白牛将が閉じ込められている檻の前に立つと、そこには随分と変わり果てた様子の白牛将の姿があった。いったい何があったのか、ほんの1日の間に白牛将は頬が痩せこけ、別人のように変わり果てていた。


「えっ……これが、白牛将……?」
「そうだ……信じられないと思うが、これがあの白牛将だ」
「…………」


見張りを行っているミノタウロスでさえも檻の中に閉じ込められている白牛将を見て戸惑いを隠せない様子であり、一晩の間に何が起きたのか白牛将は以前と比べても覇気がなく、酷く落ち込んでいる様子だった。


「あ、兄貴……俺達も来ましたぜ」
「ほら、兄貴の好きな果物もあります。これを食べて元気を出してくださいよ!!」
「……ああ」


白牛将の部下達が話しかけても顔を一目見ると、すぐに視線を逸らす。その様子を見て元部下達も困り果て、一方でレナも白牛将の変わり様に動揺する。


「な、何でこんな姿に……変な物でも食べたの?」
「いや、捕まってからはこいつは何も食べていない。だが、前にもこんな状態に陥る事はあった」
「前の時……?」
「ああ、まだこいつが子供だった頃、同世代の子供を痛めつけて調子に乗っていたんだ。子供の頃からこいつは腕っぷしが強かったからな。だが、調子に乗り過ぎて長に喧嘩を挑んだこいつは一方的に返り討ちにされた。まあ、長も子供が相手だから手加減はしただろうが……初めて敗北したこいつは今のように落ち込んでしばらくは何も出来なかった」
「へ、へえっ……」
「しかも今回の相手は長ではなく、人間のお前に負けたからな。もうこいつは立ち直れないかもしれない」


どうやらレナに完膚なきまでに敗北した事で白牛将は自信を完全に失ってしまったらしく、相手が同じ牛人族ならばここまで落ち込む事はなかっただろうが、一方的に見下していた他の種族に負けた事で白牛将は心が折れたらしい。

弟分の黒牛将が死んだ事も既に伝わっており、何だかんだで黒牛将の事は白牛将も気にかけていたので彼の死も重なって白牛将は更に落ち込んでいた。この様子ではもう立ち直る事も出来ないかもしれず、彼の部下達も今の彼の姿を見て諦めていた。


「兄貴……もう兄貴は駄目かもしれない」
「そうだな……こんな様子じゃ、もう長になるとか言い出せないだろうな」
「となると俺達はどうすればいいんだ……?」
「ハルナの姐さんには付きまとうなと言われたし、ダークエルフの奴等に従うのも癪だしな……そうだ、これからはレナの兄さんの事を兄貴にするか!!」
「それは止めろ、スカー辺りにでも付いていけ」


自分の事を兄貴と呼び出そうとするミノタウロス達に対してレナは一蹴し、簡単に自分達の兄貴分を変えるような奴等を信用は出来なかった。それにスカーは長からの信頼も厚く、元々は白牛将や黒牛将に次ぐ存在のため、彼にミノタウロス達を任せる方が都合が良かった。

これからレナ達は竜人族の里へ向かうつもりのため、出発前に白牛将を何とかしなければならないと思っていた。もしもレナ達が不在の時に白牛将が再び反旗したら抑えられる人間がいないので心配していたが、この様子では逆らう気力も残っていない。

後顧の憂いはなくなった事でレナは竜人族の里に向かう事に集中し、とりあえずは今夜訪れるはずの竜人族とどの様に交渉するべきか考える。アイリスによれば他の部族と違って一番に話が通じやすい相手であり、嘘を吐かずに現在の島の状況を伝えれば強力してくれるとは聞いているが、流石に相手もレナが人間だと知れば警戒する可能性はあった。


(この島に暮らす種族は人間から大陸を追い払われたそうだし、俺が人間だと知られると警戒されるかもしれない。まあ、それを知った上でアイリスも大丈夫だと言ってるんだから大丈夫だとは思うけど……交渉の時はちゃんと気を配らないとな)


今夜の間に竜人族が食料を引き取りに飛竜なる竜種に乗って訪れるため、それまでの間にレナは準備を進めて置く。竜人族が訪れる前にアイリスと交信を行い、どのように交渉を進めるのか助言を受けた後、遂に夜を迎えた――
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