1,319 / 2,083
弱肉強食の島編
白牛将のその後
しおりを挟む
レナは聖剣の類も魔法金属で構成されている事を思い出し、だからこそ何百年も扱われても簡単に壊れない事を知る。最もカラドボルグのように魔法金属製の武器でも限界を迎えると壊れたり、錆びつく事はあるため、決して万能ではない。
「よし、薬はこれぐらいでいいかな……そうだ、そういえば白牛将の奴はどうしてる?」
「あ、兄貴か……兄貴の事が気になるのか?」
「え、いや気になると言えば気になるけど、どうかしたの?」
「……あの人はもう駄目だ」
白牛将の事を話題にすると何故かミノタウロス達は顔を伏せ、その態度にレナは不思議に思うが、とりあえずは白牛将の元まで案内してもらう。白牛将は現在は檻の中に閉じ込められており、逃げ出さない様に長の配下が見張りを行っている。
ミノタウロス達の案内でレナは白牛将が閉じ込められている檻の前に立つと、そこには随分と変わり果てた様子の白牛将の姿があった。いったい何があったのか、ほんの1日の間に白牛将は頬が痩せこけ、別人のように変わり果てていた。
「えっ……これが、白牛将……?」
「そうだ……信じられないと思うが、これがあの白牛将だ」
「…………」
見張りを行っているミノタウロスでさえも檻の中に閉じ込められている白牛将を見て戸惑いを隠せない様子であり、一晩の間に何が起きたのか白牛将は以前と比べても覇気がなく、酷く落ち込んでいる様子だった。
「あ、兄貴……俺達も来ましたぜ」
「ほら、兄貴の好きな果物もあります。これを食べて元気を出してくださいよ!!」
「……ああ」
白牛将の部下達が話しかけても顔を一目見ると、すぐに視線を逸らす。その様子を見て元部下達も困り果て、一方でレナも白牛将の変わり様に動揺する。
「な、何でこんな姿に……変な物でも食べたの?」
「いや、捕まってからはこいつは何も食べていない。だが、前にもこんな状態に陥る事はあった」
「前の時……?」
「ああ、まだこいつが子供だった頃、同世代の子供を痛めつけて調子に乗っていたんだ。子供の頃からこいつは腕っぷしが強かったからな。だが、調子に乗り過ぎて長に喧嘩を挑んだこいつは一方的に返り討ちにされた。まあ、長も子供が相手だから手加減はしただろうが……初めて敗北したこいつは今のように落ち込んでしばらくは何も出来なかった」
「へ、へえっ……」
「しかも今回の相手は長ではなく、人間のお前に負けたからな。もうこいつは立ち直れないかもしれない」
どうやらレナに完膚なきまでに敗北した事で白牛将は自信を完全に失ってしまったらしく、相手が同じ牛人族ならばここまで落ち込む事はなかっただろうが、一方的に見下していた他の種族に負けた事で白牛将は心が折れたらしい。
弟分の黒牛将が死んだ事も既に伝わっており、何だかんだで黒牛将の事は白牛将も気にかけていたので彼の死も重なって白牛将は更に落ち込んでいた。この様子ではもう立ち直る事も出来ないかもしれず、彼の部下達も今の彼の姿を見て諦めていた。
「兄貴……もう兄貴は駄目かもしれない」
「そうだな……こんな様子じゃ、もう長になるとか言い出せないだろうな」
「となると俺達はどうすればいいんだ……?」
「ハルナの姐さんには付きまとうなと言われたし、ダークエルフの奴等に従うのも癪だしな……そうだ、これからはレナの兄さんの事を兄貴にするか!!」
「それは止めろ、スカー辺りにでも付いていけ」
自分の事を兄貴と呼び出そうとするミノタウロス達に対してレナは一蹴し、簡単に自分達の兄貴分を変えるような奴等を信用は出来なかった。それにスカーは長からの信頼も厚く、元々は白牛将や黒牛将に次ぐ存在のため、彼にミノタウロス達を任せる方が都合が良かった。
これからレナ達は竜人族の里へ向かうつもりのため、出発前に白牛将を何とかしなければならないと思っていた。もしもレナ達が不在の時に白牛将が再び反旗したら抑えられる人間がいないので心配していたが、この様子では逆らう気力も残っていない。
後顧の憂いはなくなった事でレナは竜人族の里に向かう事に集中し、とりあえずは今夜訪れるはずの竜人族とどの様に交渉するべきか考える。アイリスによれば他の部族と違って一番に話が通じやすい相手であり、嘘を吐かずに現在の島の状況を伝えれば強力してくれるとは聞いているが、流石に相手もレナが人間だと知れば警戒する可能性はあった。
(この島に暮らす種族は人間から大陸を追い払われたそうだし、俺が人間だと知られると警戒されるかもしれない。まあ、それを知った上でアイリスも大丈夫だと言ってるんだから大丈夫だとは思うけど……交渉の時はちゃんと気を配らないとな)
今夜の間に竜人族が食料を引き取りに飛竜なる竜種に乗って訪れるため、それまでの間にレナは準備を進めて置く。竜人族が訪れる前にアイリスと交信を行い、どのように交渉を進めるのか助言を受けた後、遂に夜を迎えた――
「よし、薬はこれぐらいでいいかな……そうだ、そういえば白牛将の奴はどうしてる?」
「あ、兄貴か……兄貴の事が気になるのか?」
「え、いや気になると言えば気になるけど、どうかしたの?」
「……あの人はもう駄目だ」
白牛将の事を話題にすると何故かミノタウロス達は顔を伏せ、その態度にレナは不思議に思うが、とりあえずは白牛将の元まで案内してもらう。白牛将は現在は檻の中に閉じ込められており、逃げ出さない様に長の配下が見張りを行っている。
ミノタウロス達の案内でレナは白牛将が閉じ込められている檻の前に立つと、そこには随分と変わり果てた様子の白牛将の姿があった。いったい何があったのか、ほんの1日の間に白牛将は頬が痩せこけ、別人のように変わり果てていた。
「えっ……これが、白牛将……?」
「そうだ……信じられないと思うが、これがあの白牛将だ」
「…………」
見張りを行っているミノタウロスでさえも檻の中に閉じ込められている白牛将を見て戸惑いを隠せない様子であり、一晩の間に何が起きたのか白牛将は以前と比べても覇気がなく、酷く落ち込んでいる様子だった。
「あ、兄貴……俺達も来ましたぜ」
「ほら、兄貴の好きな果物もあります。これを食べて元気を出してくださいよ!!」
「……ああ」
白牛将の部下達が話しかけても顔を一目見ると、すぐに視線を逸らす。その様子を見て元部下達も困り果て、一方でレナも白牛将の変わり様に動揺する。
「な、何でこんな姿に……変な物でも食べたの?」
「いや、捕まってからはこいつは何も食べていない。だが、前にもこんな状態に陥る事はあった」
「前の時……?」
「ああ、まだこいつが子供だった頃、同世代の子供を痛めつけて調子に乗っていたんだ。子供の頃からこいつは腕っぷしが強かったからな。だが、調子に乗り過ぎて長に喧嘩を挑んだこいつは一方的に返り討ちにされた。まあ、長も子供が相手だから手加減はしただろうが……初めて敗北したこいつは今のように落ち込んでしばらくは何も出来なかった」
「へ、へえっ……」
「しかも今回の相手は長ではなく、人間のお前に負けたからな。もうこいつは立ち直れないかもしれない」
どうやらレナに完膚なきまでに敗北した事で白牛将は自信を完全に失ってしまったらしく、相手が同じ牛人族ならばここまで落ち込む事はなかっただろうが、一方的に見下していた他の種族に負けた事で白牛将は心が折れたらしい。
弟分の黒牛将が死んだ事も既に伝わっており、何だかんだで黒牛将の事は白牛将も気にかけていたので彼の死も重なって白牛将は更に落ち込んでいた。この様子ではもう立ち直る事も出来ないかもしれず、彼の部下達も今の彼の姿を見て諦めていた。
「兄貴……もう兄貴は駄目かもしれない」
「そうだな……こんな様子じゃ、もう長になるとか言い出せないだろうな」
「となると俺達はどうすればいいんだ……?」
「ハルナの姐さんには付きまとうなと言われたし、ダークエルフの奴等に従うのも癪だしな……そうだ、これからはレナの兄さんの事を兄貴にするか!!」
「それは止めろ、スカー辺りにでも付いていけ」
自分の事を兄貴と呼び出そうとするミノタウロス達に対してレナは一蹴し、簡単に自分達の兄貴分を変えるような奴等を信用は出来なかった。それにスカーは長からの信頼も厚く、元々は白牛将や黒牛将に次ぐ存在のため、彼にミノタウロス達を任せる方が都合が良かった。
これからレナ達は竜人族の里へ向かうつもりのため、出発前に白牛将を何とかしなければならないと思っていた。もしもレナ達が不在の時に白牛将が再び反旗したら抑えられる人間がいないので心配していたが、この様子では逆らう気力も残っていない。
後顧の憂いはなくなった事でレナは竜人族の里に向かう事に集中し、とりあえずは今夜訪れるはずの竜人族とどの様に交渉するべきか考える。アイリスによれば他の部族と違って一番に話が通じやすい相手であり、嘘を吐かずに現在の島の状況を伝えれば強力してくれるとは聞いているが、流石に相手もレナが人間だと知れば警戒する可能性はあった。
(この島に暮らす種族は人間から大陸を追い払われたそうだし、俺が人間だと知られると警戒されるかもしれない。まあ、それを知った上でアイリスも大丈夫だと言ってるんだから大丈夫だとは思うけど……交渉の時はちゃんと気を配らないとな)
今夜の間に竜人族が食料を引き取りに飛竜なる竜種に乗って訪れるため、それまでの間にレナは準備を進めて置く。竜人族が訪れる前にアイリスと交信を行い、どのように交渉を進めるのか助言を受けた後、遂に夜を迎えた――
0
お気に入りに追加
16,510
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜
ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……?
※残酷な描写あり
⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。
ムーンライトノベルズ からの転載です。
西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~
雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。
元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。
※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。
孤独な令嬢は狼の番になり溺愛される
夕日(夕日凪)
恋愛
アルファポリス様より書籍化致しました!8月18日が出荷日となっております。
第二部を後日更新開始予定ですので、お気に入りはそのままでお待ち頂けますと嬉しいです。
ルミナ・マシェット子爵家令嬢は、義母と義姉達から虐待を受けながら生きていた。しかしある日、獣人国の貴族アイル・アストリー公爵が邸を訪れ…。「この娘は私の番だ。今ここで、花嫁として貰い受ける」
そう言われその日のうちに彼に嫁入りする事になり…。今まで愛と幸せを知らなかった彼女に突然の溺愛生活が降りかかる…!
モブだった私、今日からヒロインです!
まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。
このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。
そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。
だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン……
モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして?
※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。
※印はR部分になります。
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで
あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。
連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。
ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。
IF(7話)は本編からの派生。
【完結】淫魔なのに出乳症になってしまった僕の顛末♡
虹色金魚 (旧 怪盗枝豆 )
BL
娼館で男妾として働く淫魔で、かわいい系美少年のラミュカ(♂)は、ある日突然おっぱいからミルクが出てきてしまった!!お客には喜ばれるが心の中では嵐が吹き荒れる。
そんなラミュカに、同期で友人の同じく淫魔のロゼが、魔界の病院を紹介してくれた。
そこでの診察結果は…………
※実はかわいいものが大好き美しい悪魔先生(カタリナ)×かわいい系淫魔ラミュカ
※ラミュカ(受)が出乳症という病気(?)になって、男の子なのにおっぱいからミルクが出て来て困っちゃうお話です。
※ラミュカは種族&お仕事上客とエッチをガッツリしてます。
※シリアスではありません。
※ギャグです。
※主人公アホかと思います。
※1話だいたい2000字前後位です。
※こちらR-18になります。えっちぃことしてるのには☆印、えっちしてるのには※印が入っています。
※ムーンライトさんでも掲載しています。
※宇宙のように広いお心でお読みください※
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。