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弱肉強食の島編

紅色の瞳

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「――ここだっ!!」
「ぐおっ!?」


上空から繰り出された戦斧に対してレナは退魔刀を振りかざすと、正面から受けるのではなく、横方向から叩き込む。踏ん張りが効かない空中に飛び込んだ事が仇となり、ギュウカクは体勢を崩して地面に衝突した。


「ぐはぁっ!?」
「ここまでだ!!」


レナは倒れ込んだギュウカクに向けて退魔刀を突きつけると、この際に無意識に剣鬼の力を発動させたせいか目元が紅色に輝いていた。その瞳を見た瞬間、ギュウカクは驚愕の表情を浮かべ、身体を震わせる。


「ば、馬鹿な……そ、その目はまさか!?」
「……?」
「客人、よくやった!!」
「後は任せろ!!」


自分の顔を見て怯えた表情を浮かべるギュウカクにレナは疑問を抱くが、即座に女戦士が駆けつけて倒れ込んだギュウカクを取り囲む。彼女達は縄の代用品なのか植物の蔓を取り出すと、ギュウカクを拘束した。

彼女達が用意したのはこの島に自生している植物の蔓であり、普通の縄よりも頑丈でミノタウロスでも簡単には引きちぎられない。拘束されたギュウカクは意外にも大人しく従う。


「ほら、こっちだ!!」
「うっ……くそっ、聞いてねえぞ……」
「何をごちゃごちゃ言っている!!さっさと来い!!」


ギュウカクは女戦士達に連れ出され、その様子を見たレナは安心した表情で退魔刀を背中に戻す。魔法は使えなかったがどうにか勝利する事に成功した。だが、思っていた以上に苦戦してしまう。


(魔法が使えないとやっぱりきついな……)


レナの戦法は魔法を頼りに仕切っていたため、魔法を封じられた状態では思うように戦えない。剛剣や合成魔術など扱えればここまで苦戦する事はなかったが、腕輪を解除しなければどうしようもない。


「さっきの奴、黒牛将とか言ってたな……何者なんだ?」
「客人、助かったぞ。お前は我々の命の恩人だ、礼を言う」
「え?いや、別に気にしなくていいよ……それよりもさっきの奴の事を教えてくれる?」


ここまでレナを連れてきた女戦士が話しかけてきたため、この際にレナはギュウカクの事を尋ねる。すると、彼女はギュウカクの正体と牛人族について教えてくれた。


「あいつの名前はギュウカク……牛人族の中では恐らくは三番手の男だ。あいつの父親が牛人族の長を務め、兄の方は白牛将を名乗っている」
「長、という事は一番偉い立場の人間……いや、牛人の息子だったのか」
「実力的には兄と父親には劣るが、それでも牛人族の中でも指折りの実力者だ。うちで対抗できるのはアンジュとサーシャぐらいなのに……客人は強いな」
「その客人というのは止めてくれない?レナでいいよ、レナで……」


女戦士の話によるとギュウカクは思っていた以上に牛人族の間では重要な立ち位置の人間らしく、牛人族の中でも三番手に位置する男だという。実力的には父親や兄には劣るらしいが、それでもダークエルフの女戦士達の中で対抗できるのは戦士長のアンジュとサーシャだけらしい。

黒牛将を名乗るギュウカクがここへ攻めてきたという事は既に牛人族はダークエルフの隠れ家を見つけた事を意味するが、攻め込んできたのはギュウカクだけなのが気にかかる。他に仲間はいないのかと思われた時、ここで聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「たくっ、何なんだよお前等!!人が眠っている時に騒ぎやがって……」
「ううっ……」
「ほら、さっさと歩け!!」
「ぐうっ!?き、貴様……」
「何が貴様だ、態度に気を付けろバカ牛共」
「ぐぐぐっ……!!」


声がした方向に振り返ると、そこには数体のミノタウロスを引き連れるアンジュ、サーシャ、ハルナの姿が存在した。3人ともレナがギュウカクと交戦している間に起きていたらしく、しかも既にギュウカク以外に遺跡に忍び込んだ牛人族を捕まえていたらしい。


「戦士長!!やっと見つけた!!」
「凄い、3人だけで捕まえたのか!?」
「流石は戦士長だ!!」
「静かにしろ、まだこいつら以外にも遺跡に入り込んだ奴もいるかもしれない!!油断するな!!」
「全員無事かどうか確かめて、誰も捕まっていないのかを調べて」
「あ~朝から動いて腹が減った……こいつら、食っていいのか?」
「ひいっ!?」


女戦士達はアンジュ達がミノタウロスを捕まえて戻って来た光景を見て騒ぎ立てるが、すぐにアンジュとサーシャは指示を出す。二人ともレナの前とは違って部下の前では落ち着いた態度で指示を出し、仲間の安全を確認する。

その一方で朝から激しく動いたせいかハルナの方は空腹を覚え、仮にも自分の同族であるミノタウロスに対して食欲を抱く。その様子を見ていたレナは慌ててハルナの元へ駆けつけ、頭を叩く。


「こら、仮にも同族だから食欲を抱くな!!」
「あいてっ!?」
「あ、旦那様!!」
「ここにいたのか、目が覚めたらいなかったから心配したぞ」


アンジュとサーシャはレナが現れると二人とも笑顔を浮かべてレナに抱きつき、惜しみなくその身体を押し付けてくる。レナはそんな二人の態度に困り果て、こうも積極的に自分にアピールを仕掛けてくる人間は今までいなかった。
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