1,287 / 2,083
弱肉強食の島編
紅色の瞳
しおりを挟む
「――ここだっ!!」
「ぐおっ!?」
上空から繰り出された戦斧に対してレナは退魔刀を振りかざすと、正面から受けるのではなく、横方向から叩き込む。踏ん張りが効かない空中に飛び込んだ事が仇となり、ギュウカクは体勢を崩して地面に衝突した。
「ぐはぁっ!?」
「ここまでだ!!」
レナは倒れ込んだギュウカクに向けて退魔刀を突きつけると、この際に無意識に剣鬼の力を発動させたせいか目元が紅色に輝いていた。その瞳を見た瞬間、ギュウカクは驚愕の表情を浮かべ、身体を震わせる。
「ば、馬鹿な……そ、その目はまさか!?」
「……?」
「客人、よくやった!!」
「後は任せろ!!」
自分の顔を見て怯えた表情を浮かべるギュウカクにレナは疑問を抱くが、即座に女戦士が駆けつけて倒れ込んだギュウカクを取り囲む。彼女達は縄の代用品なのか植物の蔓を取り出すと、ギュウカクを拘束した。
彼女達が用意したのはこの島に自生している植物の蔓であり、普通の縄よりも頑丈でミノタウロスでも簡単には引きちぎられない。拘束されたギュウカクは意外にも大人しく従う。
「ほら、こっちだ!!」
「うっ……くそっ、聞いてねえぞ……」
「何をごちゃごちゃ言っている!!さっさと来い!!」
ギュウカクは女戦士達に連れ出され、その様子を見たレナは安心した表情で退魔刀を背中に戻す。魔法は使えなかったがどうにか勝利する事に成功した。だが、思っていた以上に苦戦してしまう。
(魔法が使えないとやっぱりきついな……)
レナの戦法は魔法を頼りに仕切っていたため、魔法を封じられた状態では思うように戦えない。剛剣や合成魔術など扱えればここまで苦戦する事はなかったが、腕輪を解除しなければどうしようもない。
「さっきの奴、黒牛将とか言ってたな……何者なんだ?」
「客人、助かったぞ。お前は我々の命の恩人だ、礼を言う」
「え?いや、別に気にしなくていいよ……それよりもさっきの奴の事を教えてくれる?」
ここまでレナを連れてきた女戦士が話しかけてきたため、この際にレナはギュウカクの事を尋ねる。すると、彼女はギュウカクの正体と牛人族について教えてくれた。
「あいつの名前はギュウカク……牛人族の中では恐らくは三番手の男だ。あいつの父親が牛人族の長を務め、兄の方は白牛将を名乗っている」
「長、という事は一番偉い立場の人間……いや、牛人の息子だったのか」
「実力的には兄と父親には劣るが、それでも牛人族の中でも指折りの実力者だ。うちで対抗できるのはアンジュとサーシャぐらいなのに……客人は強いな」
「その客人というのは止めてくれない?レナでいいよ、レナで……」
女戦士の話によるとギュウカクは思っていた以上に牛人族の間では重要な立ち位置の人間らしく、牛人族の中でも三番手に位置する男だという。実力的には父親や兄には劣るらしいが、それでもダークエルフの女戦士達の中で対抗できるのは戦士長のアンジュとサーシャだけらしい。
黒牛将を名乗るギュウカクがここへ攻めてきたという事は既に牛人族はダークエルフの隠れ家を見つけた事を意味するが、攻め込んできたのはギュウカクだけなのが気にかかる。他に仲間はいないのかと思われた時、ここで聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「たくっ、何なんだよお前等!!人が眠っている時に騒ぎやがって……」
「ううっ……」
「ほら、さっさと歩け!!」
「ぐうっ!?き、貴様……」
「何が貴様だ、態度に気を付けろバカ牛共」
「ぐぐぐっ……!!」
声がした方向に振り返ると、そこには数体のミノタウロスを引き連れるアンジュ、サーシャ、ハルナの姿が存在した。3人ともレナがギュウカクと交戦している間に起きていたらしく、しかも既にギュウカク以外に遺跡に忍び込んだ牛人族を捕まえていたらしい。
「戦士長!!やっと見つけた!!」
「凄い、3人だけで捕まえたのか!?」
「流石は戦士長だ!!」
「静かにしろ、まだこいつら以外にも遺跡に入り込んだ奴もいるかもしれない!!油断するな!!」
「全員無事かどうか確かめて、誰も捕まっていないのかを調べて」
「あ~朝から動いて腹が減った……こいつら、食っていいのか?」
「ひいっ!?」
女戦士達はアンジュ達がミノタウロスを捕まえて戻って来た光景を見て騒ぎ立てるが、すぐにアンジュとサーシャは指示を出す。二人ともレナの前とは違って部下の前では落ち着いた態度で指示を出し、仲間の安全を確認する。
その一方で朝から激しく動いたせいかハルナの方は空腹を覚え、仮にも自分の同族であるミノタウロスに対して食欲を抱く。その様子を見ていたレナは慌ててハルナの元へ駆けつけ、頭を叩く。
「こら、仮にも同族だから食欲を抱くな!!」
「あいてっ!?」
「あ、旦那様!!」
「ここにいたのか、目が覚めたらいなかったから心配したぞ」
アンジュとサーシャはレナが現れると二人とも笑顔を浮かべてレナに抱きつき、惜しみなくその身体を押し付けてくる。レナはそんな二人の態度に困り果て、こうも積極的に自分にアピールを仕掛けてくる人間は今までいなかった。
「ぐおっ!?」
上空から繰り出された戦斧に対してレナは退魔刀を振りかざすと、正面から受けるのではなく、横方向から叩き込む。踏ん張りが効かない空中に飛び込んだ事が仇となり、ギュウカクは体勢を崩して地面に衝突した。
「ぐはぁっ!?」
「ここまでだ!!」
レナは倒れ込んだギュウカクに向けて退魔刀を突きつけると、この際に無意識に剣鬼の力を発動させたせいか目元が紅色に輝いていた。その瞳を見た瞬間、ギュウカクは驚愕の表情を浮かべ、身体を震わせる。
「ば、馬鹿な……そ、その目はまさか!?」
「……?」
「客人、よくやった!!」
「後は任せろ!!」
自分の顔を見て怯えた表情を浮かべるギュウカクにレナは疑問を抱くが、即座に女戦士が駆けつけて倒れ込んだギュウカクを取り囲む。彼女達は縄の代用品なのか植物の蔓を取り出すと、ギュウカクを拘束した。
彼女達が用意したのはこの島に自生している植物の蔓であり、普通の縄よりも頑丈でミノタウロスでも簡単には引きちぎられない。拘束されたギュウカクは意外にも大人しく従う。
「ほら、こっちだ!!」
「うっ……くそっ、聞いてねえぞ……」
「何をごちゃごちゃ言っている!!さっさと来い!!」
ギュウカクは女戦士達に連れ出され、その様子を見たレナは安心した表情で退魔刀を背中に戻す。魔法は使えなかったがどうにか勝利する事に成功した。だが、思っていた以上に苦戦してしまう。
(魔法が使えないとやっぱりきついな……)
レナの戦法は魔法を頼りに仕切っていたため、魔法を封じられた状態では思うように戦えない。剛剣や合成魔術など扱えればここまで苦戦する事はなかったが、腕輪を解除しなければどうしようもない。
「さっきの奴、黒牛将とか言ってたな……何者なんだ?」
「客人、助かったぞ。お前は我々の命の恩人だ、礼を言う」
「え?いや、別に気にしなくていいよ……それよりもさっきの奴の事を教えてくれる?」
ここまでレナを連れてきた女戦士が話しかけてきたため、この際にレナはギュウカクの事を尋ねる。すると、彼女はギュウカクの正体と牛人族について教えてくれた。
「あいつの名前はギュウカク……牛人族の中では恐らくは三番手の男だ。あいつの父親が牛人族の長を務め、兄の方は白牛将を名乗っている」
「長、という事は一番偉い立場の人間……いや、牛人の息子だったのか」
「実力的には兄と父親には劣るが、それでも牛人族の中でも指折りの実力者だ。うちで対抗できるのはアンジュとサーシャぐらいなのに……客人は強いな」
「その客人というのは止めてくれない?レナでいいよ、レナで……」
女戦士の話によるとギュウカクは思っていた以上に牛人族の間では重要な立ち位置の人間らしく、牛人族の中でも三番手に位置する男だという。実力的には父親や兄には劣るらしいが、それでもダークエルフの女戦士達の中で対抗できるのは戦士長のアンジュとサーシャだけらしい。
黒牛将を名乗るギュウカクがここへ攻めてきたという事は既に牛人族はダークエルフの隠れ家を見つけた事を意味するが、攻め込んできたのはギュウカクだけなのが気にかかる。他に仲間はいないのかと思われた時、ここで聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「たくっ、何なんだよお前等!!人が眠っている時に騒ぎやがって……」
「ううっ……」
「ほら、さっさと歩け!!」
「ぐうっ!?き、貴様……」
「何が貴様だ、態度に気を付けろバカ牛共」
「ぐぐぐっ……!!」
声がした方向に振り返ると、そこには数体のミノタウロスを引き連れるアンジュ、サーシャ、ハルナの姿が存在した。3人ともレナがギュウカクと交戦している間に起きていたらしく、しかも既にギュウカク以外に遺跡に忍び込んだ牛人族を捕まえていたらしい。
「戦士長!!やっと見つけた!!」
「凄い、3人だけで捕まえたのか!?」
「流石は戦士長だ!!」
「静かにしろ、まだこいつら以外にも遺跡に入り込んだ奴もいるかもしれない!!油断するな!!」
「全員無事かどうか確かめて、誰も捕まっていないのかを調べて」
「あ~朝から動いて腹が減った……こいつら、食っていいのか?」
「ひいっ!?」
女戦士達はアンジュ達がミノタウロスを捕まえて戻って来た光景を見て騒ぎ立てるが、すぐにアンジュとサーシャは指示を出す。二人ともレナの前とは違って部下の前では落ち着いた態度で指示を出し、仲間の安全を確認する。
その一方で朝から激しく動いたせいかハルナの方は空腹を覚え、仮にも自分の同族であるミノタウロスに対して食欲を抱く。その様子を見ていたレナは慌ててハルナの元へ駆けつけ、頭を叩く。
「こら、仮にも同族だから食欲を抱くな!!」
「あいてっ!?」
「あ、旦那様!!」
「ここにいたのか、目が覚めたらいなかったから心配したぞ」
アンジュとサーシャはレナが現れると二人とも笑顔を浮かべてレナに抱きつき、惜しみなくその身体を押し付けてくる。レナはそんな二人の態度に困り果て、こうも積極的に自分にアピールを仕掛けてくる人間は今までいなかった。
0
お気に入りに追加
16,534
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
断罪されているのは私の妻なんですが?
すずまる
恋愛
仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。
「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」
ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?
そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯?
*-=-*-=-*-=-*-=-*
本編は1話完結です(꒪ㅂ꒪)
…が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。