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世界の異変編

シズネとゴウライ

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「――お~い、シズネ!!肉が焼けたぞ!!」
「うるさいわね……そんな大声を出さなくても聞こえてるわよ」


夜の草原にて火を焚いてボアの肉を焼く女性が二人存在した。それは青の剣聖と破壊剣聖と謳われるシズネとゴウライであり、二人は焚火を挟んで向かい合う形で座り込む。現在の二人がいる場所は冒険都市からそれほど離れてはいない場所に存在し、どうにか戻ってくる事が出来た。

先日の転移に巻き込まれた後、人里から離れた山奥に二人とも飛ばされ、仕方なく都市に戻るまで合流する事にした。シズネとしてはゴウライと行動など昔ならば考えられなかったが、闘技祭の試合を通して彼女に対する恨みはもうない。


「シズネよ、もっと肉を食べんか!!食べないと大きくなれないぞ!!」
「誰の胸が小さいのよ!?」
「いや、胸の話はしていないが……」


シズネとゴウライは焼いた肉を嚙り付き、二人とも冒険者と傭兵なので旅には慣れている。お互いに肉を頬張りながらも周囲の警戒は怠らず、草原のような凹凸がなくて身を隠せる場所が少ない環境では常に警戒しなければならない。


「全く、それにしても大変な目に遭ったな。まさか転移した先が牙竜の巣とは……」
「何が大変よ、貴方が牙竜を狩り尽くすと言い出さなければこんなに戻るのが遅くならなかったわよ」
「はっはっはっはっ!!竜種を見るとどうしても挑まずにはいられなくてな!!」


偶然なのか二人が転移した先は竜種である牙竜の住処だったらしく、二人の帰還が遅れたのは牙竜の討伐を二人で行ったからである。流石の剣聖二人でも相手が竜種の群れとなると手こずったが、どうにか討伐を果たした。

最初の頃は誰かが迎えに来てくれるかと思ったが、自分達が何処に転移したのかも分からないのに迎えを待つよりも自力で戻った方が良いと判断し、右も左も分からぬ状態で彷徨っていたが、どうにかゴウライが以前にも訪れた場所に辿り着き、冒険都市への帰り道を思い出す。


「さあ、明日は冒険都市に戻れるぞ。今日はしっかりと休んでおけ!!」
「ええ、そうさせてもらうわ……見張りの時間が来たら起こしてちょうだい」
「ああ、分かったぞ。そうだ、何なら膝枕してやろうか?」
「……甲冑が痛そうだから嫌よ」


昔のシズネならばゴウライの一挙一動が目障りで怒鳴り散らしていたかもしれないが、先日の試合の勝負を通してシズネはゴウライへの怒りや恨みを晴らした。今はもう彼女に対する復讐心はなく、父親が討たれた件に関しても武人として戦い抜いたのだと納得はした。

シズネは身体を横にさせて休もうとした時、不意に直感で嫌な予感を抱く。それはゴウライも同じだったらしく、彼は背中の大剣に手を伸ばすとシズネも白百合に手を伸ばす。


「……気づいたか?」
「ええ、嫌な気配を感じるわ……でも、この感じは前に覚えがある」


即座にシズネとゴウライは起き上がると、互いに背中を合わせて防御を固める。その直後、草原の方から近づく影が存在し、その正体がシズネとゴウライが先日に見かけたばかりの存在だと知る。



――ガァアアアッ!!



草原に出現したのは「牙竜」であり、竜種の中では下位種に認定されているが、その獰猛さと素早さは火竜にも勝ると恐れられている牙竜が草原に出現した。その光景を見たシズネとゴウライは一瞬だけ驚くが、すぐに臨戦態勢に入った。


「牙竜か!!」
「どうしてこんな所に……まさか、生き残りがいた?」


先日に牙竜の群れを掃討したにも関わらずに牙竜が自分達の前に現れた事にシズネとゴウライは驚くが、すぐに戦闘の準備を整える。相手が牙竜程度ならこの二人が力を合わせれば敵ではない、しかし牙竜の背中には何者かが乗り込んでいた。

牙竜は二人の前で急停止すると、その背中に乗っていた者が降り立つ。その姿を見たシズネとゴウライは驚き、赤色の皮膚に鬼のような角を生やした大男が現れる。


「貴様は……!?」
「……七魔将!!」
「…………」


二人の前に現れたのは先日に王都の地下で遭遇した七魔将の「鬼人将オウガ」であり、彼は二人を前に立つと圧倒的な威圧感を放つ。その威圧感を受けたシズネは冷や汗を流すが、ゴウライの方は嬉しそうな声を上げる。


「なんという凄まじい気迫……まるで竜種と相対したような気分だな!!」
「どうして貴方、嬉しそうなのよ……でも、こういう時は心強いわ」


ゴウライがオウガの気迫を受けて嬉しそうな声を上げる事にシズネは呆れるが、素直に彼女がこの状況で味方なのは心強い。地上最強の剣聖が味方であるという事だけは心強く、彼女が一対一の勝負でレナ以外に負けるなど想像も出来ない。

その一方でオウガは二人に視線を向けて黙って腕を組み、特に仕掛けてくる様子はない。いきなり自分達の前に現れたというのに何も話しかけてこない彼にシズネは疑問を抱くが、ゴウライは真っ先に尋ねる。
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