上 下
1,184 / 2,083
ダイン 監獄都市編

ざまあみろ!!

しおりを挟む
「な、何だこれは……!?」
「へへっ……」


ガルルは自分の身体に巻き付いた影の触手に戸惑い、咄嗟に引き剥がそうとするが触れることが出来なかった。厳密に言えば触れようとした瞬間に押し退けられてしまい、力ずくで振りほどく事も出来ない。

影魔法は闇属性の魔力の力を影に送り込み、その影を実体化させる事で相手を拘束したり、あるいはステータスを下げる効果を持つ。この実体化した影はあらゆる物理攻撃を受け付けず、仮にゴンゾウがギガンのような特別な力を持つ巨人族でも力では振りほどけない。


「くそっ、こんな物……うおおっ!?」
「あ、兄貴!?」
「いったい何をっ!?」


影魔法によって拘束されたガルルは強制的に引き寄せられ、拘束された右腕を突き出す。その行為に取り巻きの男達は戸惑うが、彼等も影魔法で拘束されているので止める事が出来ない。その結果、ガルルが突き出した拳は看守の一人の頭に叩きつけられた。


「うおおっ!?」
「えっ……あだぁっ!?」
「き、貴様!!何の真似だ!!」
「おい、大丈夫か!?」


ガルルは引き寄せられた拍子に兵士の一人の後頭部に拳を叩きつけてしまい、殴りつけられた兵士は倒れ込んで意識を失ってしまう。巨人族に殴りつけられれば無事では済まず、他の者が慌てて介抱する。その隙に倒れていたと思われたダインは杖を地面から離すと、ガルルと彼の配下を拘束していた影魔法が解除される。


「うわっ!?あ、あれ……急に体が楽になったぞ?」
「動けるようになった……」
「どうなってるんだいったい?」
「貴様等ぁっ!!囚人の分際でよくもやってくれたな!!」


気絶してしまった兵士を担ぎ上げながら兵士達はガルルを睨みつけ、彼の配下の者達にも怒りの表情を浮かべた。状況的には急にガルルが殴りつけてきた妖にしか見えず、彼等は武器を構えた。


「ガルル!!貴様、我々に手を出すとはいい度胸だな!!今回ばかりは許さんぞ!!」
「ま、待て!!今のは俺の仕業じゃ……」
「何を言っている!!貴様が殴りつけてきたんだろうが!!この目ではっきりと見たぞ!!」
「違う!!本当に俺の仕業じゃ……」
「そいつが殴りかかってきたんだよ!!皆も見てただろ!?なあ!?」


兵士の言葉を聞いてガルルは慌てて弁明しようとするが、その言葉を待ってましたとばかりにダインが大声で騒ぎ立てる。その声を聞いていた他の囚人達は驚いた表情を浮かべるが、確かにダインの言う通りに傍から見ればガルルが兵士に急に殴りかかったようにしか見えなかった。

ガルルはダインの顔を見て彼がわざとらしく口元に笑みを浮かべた事に気付き、ここでガルルはダインが自分に対して何かを仕掛けた事に気付く。自滅して倒れ込んだ時点でガルルはダインなど警戒する必要もないと判断したのが誤りであり、大勢の目の前で看守に殴りつけたのは非常にまずかった。


「……僕は見てましたよ、その男が急に後ろから殴りつけていたんです。皆さんも見ていたでしょう?」
「え?あ、ああ……そ、そうだな!!確かにそいつが急に殴りかかってきたんだ!!」
「儂もはっきりと見ていたぞ!!」
「ギギィッ(後ろから殴るなんて卑怯者め!!)」
『っ……!!』


ダインを介抱しようと駆けつけてきた他の者達も彼の言葉を聞いて意図を察すると、全員がガルルが殴りつけた事を強調した。その言葉を聞いた兵士達は怒りの表情を浮かべ、いくら影響力のある囚人であろうと、看守を殴りつけるのは許される事ではない。


「ガルル!!貴様は懲罰房行きだ!!文句は言わせんぞ!!」
「ま、待て!!俺は本当にやっていない、そのガキが何かしたんだ!!」
「はあっ!?僕が何をしたというんだよ?ちょっと足を滑らせて転んだだけだろ?なあ、皆?」
「お、おう……」
「確かに若いのは倒れていただけじゃな……」
「そうですね、そこの兵士さんにどんな恨みがあるのか知りませんけど、やり過ぎですよガルル?」
「き、貴様等……!!」
「ガルル!!貴様は三日間懲罰房行きだ!!」


兵士達は怒り心頭でガルルを取り囲むと、即座に彼を懲罰房まで誘導する。ガルルは弁明の暇すら与えられず、悔し気な表情を浮かべてダインを睨みつけた。普段のダインならば大男に睨みつけられれば怯えるところだろうが、今回は余裕の笑みを浮かべて舌を出す。


「しっかりと反省しろよ、このデカブツ!!」
「貴様ぁっ……覚えていろよ、その顔は忘れないからな!!」
「さっさと来い!!これ以上に問題を起こせば容赦せんぞ!!」


兵士に連れていかれるガルルに対してダインは笑うと、その様子を見てドルトンとマサルは引き気味だったが、ミイネは初めて満面の笑顔を浮かべてダインの方を叩く。


「あはははっ!!いい気味ですね、ガルルの奴は僕も手を焼いてたんですよ!!」
「うわっ……お前、そんな笑顔も出来たのか。びっくりしたぞ」
「これが笑わずにはいられませんよ。でも、これから大変ですよ」
「え?」


ダインはミイネの言葉を聞いてどういう意味なのかと尋ねようとした時、ここでガルルの配下が自分に対して睨みつけている事に気付く。自分達の親分が連れていかれた事で彼等はダインに憎々し気な表情を浮かべていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

孤独な令嬢は狼の番になり溺愛される

夕日(夕日凪)
恋愛
アルファポリス様より書籍化致しました!8月18日が出荷日となっております。 第二部を後日更新開始予定ですので、お気に入りはそのままでお待ち頂けますと嬉しいです。 ルミナ・マシェット子爵家令嬢は、義母と義姉達から虐待を受けながら生きていた。しかしある日、獣人国の貴族アイル・アストリー公爵が邸を訪れ…。「この娘は私の番だ。今ここで、花嫁として貰い受ける」 そう言われその日のうちに彼に嫁入りする事になり…。今まで愛と幸せを知らなかった彼女に突然の溺愛生活が降りかかる…!

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

【完結】淫魔なのに出乳症になってしまった僕の顛末♡

虹色金魚 (旧 怪盗枝豆 )
BL
娼館で男妾として働く淫魔で、かわいい系美少年のラミュカ(♂)は、ある日突然おっぱいからミルクが出てきてしまった!!お客には喜ばれるが心の中では嵐が吹き荒れる。 そんなラミュカに、同期で友人の同じく淫魔のロゼが、魔界の病院を紹介してくれた。 そこでの診察結果は………… ※実はかわいいものが大好き美しい悪魔先生(カタリナ)×かわいい系淫魔ラミュカ ※ラミュカ(受)が出乳症という病気(?)になって、男の子なのにおっぱいからミルクが出て来て困っちゃうお話です。 ※ラミュカは種族&お仕事上客とエッチをガッツリしてます。 ※シリアスではありません。 ※ギャグです。 ※主人公アホかと思います。 ※1話だいたい2000字前後位です。 ※こちらR-18になります。えっちぃことしてるのには☆印、えっちしてるのには※印が入っています。 ※ムーンライトさんでも掲載しています。 ※宇宙のように広いお心でお読みください※

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。