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魔人編

暴走転移

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「くたばれぇっ!!」
「ぐおっ!?」
「ブラク!?」


ハルナの拳が繰り出され、ブラクの悲鳴が上がる。その声を聞いてガイアは驚いて振り返ると、そこには水晶札を手にしたブラクに対してハルナが拳を突き出していた。但し、彼女の拳の先には水晶札が存在し、発動の直前で水晶札は破壊されてしまう。

その光景を目にしたレナはかつて冒険都市で起きた出来事を思い出し、過去にも水晶札が破壊された際、暴走して水晶札の周囲に存在した物は強制転移された事を思い出す。それは他の者も知っており、マリアとダインが声をかける。


「まずい!!」
「飛ばされるぞ!!」
「皆、すぐに離れなさ……」


しかし、言葉を言い終える前に水晶札は光り輝き、広間に存在する者達は水晶札から放たれた閃光によって飲み込まれ、次々と姿を消す、この際にレナとシズネは腕を伸ばし、互いの腕を取ろうとした。


「レナ!!」
「シズネ!!」


二人の腕が重なる寸前、光は完全に広間を飲み込み、全員が姿を消した――





――水晶札の暴発によって広間内に存在した全員が姿を消した後、光を失った水晶札は地面に散らばり、やがて暗闇と静寂に包まれる。これでもうこの地下には石像が一体も存在せず、ただの暗黒空間と化したかに思われた。


「……く、くくくっ……はっはっはっ!!」


だが、暗黒空間の中から笑い声が響き渡り、暗黒空間の中に亀裂が生じると、空間魔法を駆使してブラクだけが姿を現す。彼は笑みを浮かべ、事前に作り出していた空間魔法の亀裂に視線を向ける。

ブラクは転移すると見せかけ、実はこの地下空間の別の場所に事前に空間魔法で築き上げた「亀裂」を用意しており、転移の直後に自分自身は空間魔法を利用してこの場所に移動する。既に冒険都市に残しておいた空間魔法の亀裂は解除しており、一瞬にしてブラクは空間魔法の性質を利用してこの場所へと戻っていた。


「愚か者共が……自ら自滅しおったか」


最初からブラクの目的は水晶札で逃げる事ではなく、レナ達を排除するために水晶札を敢えてわざと破壊したのだ。水晶札を破壊すれば転移が暴走して周囲の者達が強制的に転移させられるという情報は彼も掴んでおり、それを利用して敢えてハルナの攻撃をわざと受けた。

かなりの危険な賭けだったが、作戦は成功して彼だけはこの場所に戻る事が出来た。ガイアは転移に巻き込まれてしまったが、彼の悪運と生命力はブラクもよく知っており、簡単に死ぬような存在ではないと確信していた。そんな事よりもブラクは自分の影の中に取り込んだ石像たちを再び取り出すと、封魔札に視線を向けてレナから奪った鏡刀を構える。



「待たせたな同胞たちよ……甦れ、七魔将の復活の刻だ!!」



鏡刀を構えたブラクは石像に張り付けられている封魔札に目掛けて刃を放つと、石像に結界を発動させていた封魔札が切り裂かれ、次々とブラクは石像に張り付けられた封魔札を切り裂く。彼の前には封魔札が剥がされた5体の石像が並ぶと、徐々に石化が解け始め、意識を取り戻す。


「……ふう、やっと動けるようになったか」
「う~ん……何か身体がだる~い」
「…………」


かつてはブラクとガイアと共に魔王の手先として世界中を恐怖に陥れた「七魔将」彼等全員が遂にメドゥーサの石化の魔眼から解放された。



――死人将ブラク、竜人将ガイア、鬼人将オウガ、紅血将アルドラ、牙狼将ガオウ、魔人将ラスト、かつて存在した魔眼将メドゥーサを除き、この時代に七魔将は完全な復活を果たす。魔王でさえも彼等の存在に手を焼き、恐れられていた存在が遂に復活してしまった。

オウガは自分の肉体を確かめるように拳を握りしめ、アルドラの方は身体を大きく伸ばす。ガオウの方は首を鳴らし、自由に動ける肉体を堪能する。実を言えばメドゥーサが倒された時、彼等は石像の状態でありながらも意識だけは戻っていた。しかし、封魔札の影響で身体は動けず、こうして復活するまでの間は何も出来なかった。



「……メドゥーサは死んだのか?」
「はい、その通りでございます」



他の者が久々に身体を動かして感覚を取り戻す中、魔人将のラストだけは冷静にブラクに振り返ると、ブラクはその場で膝を着く。他の3人の将も彼と同じように膝を着き、同じ七魔将の中でもラストだけは格が違う事を用意に想像させる。

ラストは自分の前に膝を着いた者達に腕を組み、石化されている間も意識はあったのでだいたいの事情を察していた。だが、念のためにラストはブラクに振り返り、尋ねた。


「魔王様はどうなった?」
「消えました。もうあの方はいません」
「そうか……」
「な~んだ、つまらないの。魔王様ったら、人間なんかにやられちゃったの?」
「口を慎め、アルドラ!!」


アルドラはブラクの言葉を聞いてつまらなそうな表情を浮かべ、その反応ブラクは叱りつける。だが、彼女は悪びれもせずに答えた。
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