不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません？

魔人編

シャドウ家の闇

「そ、そんな馬鹿な……爺は確かに僕の親父は死んだと言ってたぞ！？」
「それは違うな……お前の父親は優秀な男だった。オウネンは自分の肉体が限界を迎えた時、お前の父親の肉体を奪うつもりだった事は聞いているな？」
「え、それは……」


ダインはブラクの言葉を聞いてオウネンとのやり取りを思い出す。確かにオウネンはダインの父親の肉体を奪う予定だったが、自分よりも先に死んでしまったため、仕方なくダインの肉体を狙ったと語っていた。だが、ブラクによるとダインの父親は死んでいなかったという。


「お前の父親……ダルトンは優秀な呪術師だった。オウネンには劣るが、次の当主の候補に上がる程に有能な男だったらしいな。しかし、優秀過ぎるが故にダルトンはオウネンの計画に気付いた」
「け、計画？」
「そう、オウネンの奴は自分の肉体を放棄し、自分の子孫の肉体を奪おうとしている事をな。オウネンは知っていたのかは知らないが、肉体の憑依は決して簡単な方法ではない。特に自分とは関係ない赤の他人に憑依する場合、失敗する可能性が高かった」


ブラクによると自分の魂を別の人間の肉体に憑依させる方法は途轍もなく危険な方法らしく、失敗すれば命を落とす可能性も十分に有り得た。そこでオウネンは肉体の憑依を成功させるため、彼は自分の子孫の肉体を狙ったという。


「肉体の憑依を行う際、最も成功しやすいのは親族だ。特に自らが血を分けた子供や孫、ともかく子孫の類は肉体の憑依が成功しやすい。だからオウネンはお前の父親とお前自身を狙っていた」
「そ、そんな……じゃあ、くそ爺は最初から僕と親父に憑依するために生かしていたのか？」
「そうでもなければあの男が子供を残すはずがない。人間不信の奴が子供を作ったのはあくまでも自分自身のため、愚かな弟だ……」


オウネンは子供を作った理由はあくまでも自分が死を迎えようとした時、別の肉体に憑依するためであり、子供に対して愛情を抱いたことはない。オウネンは自分の兄であるブラクさえも裏切り、彼から闇の聖痕を奪い取った。だが、オウネンの誤算はダインも彼の父親も彼の想像以上に優秀な存在に育っていた事である。


「オウネンの最大の失敗は他者を侮り、自分の子孫をただの道具だとしか認識していなかった事だ。道具が何をしようとどうでもいい、肉体を入れ替える時が来るまではオウネンは本当にお前達の事をただの道具だとしか思っていなかったんだろう」
「……確かに爺は僕に対して無関心だった。けど、親父は違うだろ！？親父は昔から爺に色々と教わったと言ってたぞ！！」
「それはお前の親父が奴と同じく、呪術師だからだ。いくら新しい肉体に憑依すると言っても、肉体の移動先がクズでは使い物にならない。そう考えたオウネンはお前の父親を育てたのだ。一流の呪術師に育て上げた後、自分がその肉体を奪った時、その力を使いこなすためにな……」
「……何なんだよ、あの爺は……！！」


ダインはオウネンの計画を聞かされ、彼が思っていた以上にオウネンという存在は他者に対して愛情などの感情を抱かない存在だと思い知る。ダインの目から見ればオウネンも父親も同じように思っていたが、その父親すらもオウネンは道具に思っていなかった事に衝撃を受けた。

自分だけではなく、他の人間の事もオウネンは道具程度にしか認識していなかった事、しかも自分の兄であるブラクさえも裏切り、彼から闇の聖痕を奪った。オウネンという男はどれだけ他人と繋がりを持たず、自分のためだけに生きてきたのかと思うと哀れに思う。誰も信用せず、自分だけの力で生き延びようとした結果、結局は彼が侮っていたダインに敗れて身を亡ぼすという末路を迎えている。


「オウネンは自分のためにお前の父親を育て上げた。だが、そのせいでダルトンはオウネンの計画を知った。優秀な呪術師に育て過ぎたせいでオウネンの企みに気付いたダルトンは急いで逃げ出した。皮肉にも奴は呪術師の力を利用して自分の死を偽装し、あのオウネンでさえも完全に騙された……だが、結局はこの儂の新しい肉体の生贄になったがな」
「……本当に何なんだよ、お前兄弟は！？僕の人生を何処まで狂わせるつもりだ！？」
「ダイン……落ち着きなさい」


全ての話を聞き終えたダインは頭を抱え込み、自分の家系がどれほど呪われているのかと嘆く。オウネンが子供を作った理由、その兄のブラクが自分の父親の肉体を奪った、それだけでもダインは精神的に追い詰められてしまう。






※ダインの家系の設定は物語初期から考えていました。彼はレナと同様にあるいはそれ以上に過酷な運命の人間です。