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真・闘技祭 本選編

聖痕に相応しい者

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「――なるほど、遂にコトミンは秘密を明かしたんですね」
「やっぱり知ってたか、この悪戯天使め」
「当然じゃないですか、私を誰だと思ってるんですか?世界を管理する天使ですよ」


闘技祭の一回戦を終えて就寝したレナだったが、この日の晩にアイリスと夢の世界で彼女と話を行う。この世界ではありとあらゆる物が用意できるため、二人はこたつを挟んで向かい合う。アイリスはみかんを口にしながらもコトミンの事を話す。


「コトミの家系は人魚族の中でも特別でしてね、代々勇者に仕える一族だと自負してたんですよ。ですけど、今から10年ほど前に流行り病が発生して彼女以外の方はお亡くなりになられました。コトミンは故郷を去った本当の理由は母親に託された最後の願い、水の聖痕の所有者を探し出すためですね」
「コトミンにそんな過去があったなんて……でも、その割には本人は割と楽しく遊び暮らしていたように見えるけど」
「まあ、使命を忘れてレナさんたちと楽しく過ごしていたのは間違いないですね。そもそも何の手がかりも無しに聖痕の所有者を探し出せというのが無理難題な話です」
「でも、コトミンはシズネの母親が自分の母親の妹だとは知ってたけど、どうしてシズネやシズネの母親に会いに行こうとしなかったの?」


アイリスによるとコトミンは手がかりもない状態で聖痕の所有者を探していたというが、本人はシズネの母親が自分の母親の妹、つまりは叔母である事は知っている風に話していた。仮にも叔母の存在を知っているのならば会いに向かってもおかしくはないのだが、その辺は複雑な事情があるらしく、アイリスは説明を行う。


「コトミンもお母さんから叔母の存在は聞いていましたよ。だから最初に会いに行こうとしましたが、叔母の居場所までは知らなかったんです。何しろ人間と結婚するために一族から追放されましたからね。結局、やっと叔母の居場所が分かった時には既に死亡していました」
「そうだったのか……」
「自分と同じ一族である叔母が水の聖痕の所有者である可能性が一番高かったのに、出会う前に死んでしまったと知ったコトミンの落ち込みぶりは凄かったですよ。もう3日ぐらいは川の中に沈んでました」
「あのコトミンが……でも、シズネの事は知らなかったの?」
「この頃のシズネは王妃の傘下でしたからね、彼女が何処で何をしているのか情報は伏せられていました。行く当てもなく、聖痕の所有者の手がかりも掴めないコトミンは途方に暮れていた所、レナさんに吊り上げられてペットとして生きていく事を決意しました」
「あ、あの時か!!」


レナは最初にコトミンと出会った時の事を思い出し、あの時は変わった少女だとは思っていたが、当時のコトミンは自分の目的を見失い、途方に暮れていた頃にレナと出会ったという。自分の役目を果たせず、落ち込んでいた所をレナに拾い上げられ、彼に付いて生きていく事を決意した。

その後のコトミンは一族の使命の事など忘れ、レナ達と共に楽しく暮らしていこうとした。だが、シズネと出会ってから彼女は妙に気にかかり、そしてシズネ本人から話を聞いて彼女が自分の従妹だと知った。これまでにその事情を話さなかったのはコトミンも迷っていたからであり、この話をすれば今の関係が崩れるのではないかと恐れていた。


「コトミンもああ見えて悩んでいたんですよ。もしも自分の家系の事を話せばシズネはどう思うか、それにレナさん達にもどう思われるのか不安だったんです。だけど、彼女は決意しました。シズネのため、それに母親のために水の聖痕は正当な後継者に渡すべきだと……」
「そうか……あいつも悩む事があるんだな」
「まあ、目を覚ましたらレナさんもコトミンに変に気を遣わず、いつも通りに接して下さい。それが一番ですよ」
「分かったよ。それよりもコトミンは水の聖痕の欠片を渡したけど、身体に異変はないのか?」
「そうですね、ずっと身体に宿していた能力が消えたんですから全く影響がないというわけではないでしょう。恐らく、前みたいに水を利用した回復魔法の効果は落ちてしまうでしょう」
「そうなのか……コトミンの回復魔法があれほど凄かったのは水の聖痕の力でもあったわけか」


これまでにコトミンの回復魔法のお陰でレナ達は助けられてきたが、水の聖痕の欠片を失った彼女はもう能力的には普通の人魚族と変わらなくなった。もう以前ほどの回復魔法は期待できないが、別にレナとしては構わなかった。回復魔法が使えなくなったとしてもコトミンは大切な人である事に変わりはない。


「これで聖痕の所有者はは全員集まりましたね」
「そうだな……ん?一応?」
「いえ、気にしないでください。それよりも問題はここからですよ、レナさんは今の自分が風の聖痕を使いこなしていると思っていますか?」
「……いや、全然だな。前よりは使えるようにはなったと思うけど、とても他の人間のように使いこなせる気がしない」


アイリスの言葉にレナは首を振り、自分の聖痕に視線を向けた。祖母から託された大切な能力ではあるが、レナ自身は聖痕を扱いこなせてはいなかった。
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