上 下
1,087 / 2,083
真・闘技祭 本選編

最も敵に回してはいけない存在

しおりを挟む
「こんな所で何をしているのかしら?」
「っ……!?」


いつの間にか自分の近くに人が立っている事に気付いたサスケは反射的に短刀を引き抜き、攻撃を仕掛けた。しかし、確かに目の前に存在したはずの人物に対して彼は刃を振り抜いたのだが、空振りしてしまう。


「なっ!?」
「何処を見ているのかしらね、私はこっちよ?」


自分の攻撃が回避されたのかとハンゾウは焦りを抱くが、今度は背後から声を掛けられ、驚いた彼は咄嗟に振り返るがそこにも誰もいない。いったいどうなっているのかとサスケは混乱するが、彼は心を落ち着かせて周囲の様子を伺った。


(落ち着け、焦るんじゃない……忍者は取り乱さない)


瞬時に冷静になったサスケは気配感知を発動させ、周囲の状況を調べる。しかし、どういう事なのか近くからは人の気配は感じられず、誰も姿が見えない。だが、確かにサスケは聞こえてきた声に警戒心を抱き、短刀を構えながら臨戦態勢に入った。

敵が何処に隠れているのかとサスケは周囲を警戒していると、足音が鳴り響く。その足音が聞こえる方向に視線を向けると、そこには口元に手を伸ばした状態の「マリア」が現れた。この状況下でマリアが現れた事にサスケは唖然とするが、一方のマリアの方は口元で何事かを囁く。


「こうしてちゃんと顔を合わせるのは初めてかしら、王妃の忍者さん?」
「っ!?」


耳元に直接話しかけるように聞こえてきたマリアの声にサスケは戸惑い、自分の身に何が起きているのかと彼は恐怖した。そんなサスケに対してマリアはつまらなそうに口を手から話すと、ネタ晴らしを行う。


「どう、間近で話している様に私の声が聞こえたでしょう?風の精霊を利用した「伝風術」という名前の技術よ」
「な、何で……あんたがここにいるんだ?」
「簡単な話よ、この闘技祭の周辺一帯の風の精霊を呼び集めて貴方の位置を掴んだだけ、ただそれだけの話よ」


何事もないように答えるマリアに対してサスケは恐怖を抱き、彼女が告げた言葉は正直に言ってあまりにも異常だった。エルフは精霊魔法を得意とするといっても、自然豊かな土地ならばともかく、巨大な建物内でしかもたった一人で風の精霊を呼び集めるなど並の精霊魔導士の芸当では出来ない。

風の聖痕を所持していないにも関わらずにマリアは闘技場周辺の風の精霊を呼び集め、支配下に収めたという事実を知れば普通の魔術師ならが卒倒するだろう。恐らく、ヨツバ王国の長い歴史の中でもマリア程に魔術師としての才能に恵まれた存在はおらず、もしもハヅキがレナに託す前に死んでいたとすれば風の聖痕の継承者はマリアである事は間違いなかった。


「うちのギルドで働いている子に手を出したそうね。それだけではなく、貴方の目的はうちの甥というのは本当かしら?」
「ま、待て……いや、待ってくれ」
「待つわけがないでしょう。あの女の飼い犬というだけでも私にとっては貴方は排除対象よ」


マリアは冷たい視線をサスケに向け、武人とは違った雰囲気を醸し出すマリアにサスケは精神的に追い詰められていく。しかし、このまま逃げた所でサスケには後はなく、一か八かマリアを仕留められないかとサスケは考える。


(い、いくらこの女が強いといえど、所詮は魔術師だ……なら、接近戦からこちらが有利のはずだ)


どれだけ優れた魔術師であろうと魔法を発動する前に接近して倒せば問題ないと判断したサスケは背中に腕を回し、短刀を握りしめる。表面上は怯えた表情を浮かべてマリアの油断を誘いながらも、彼は隙をついてマリアに襲い掛かろうとした。しかし、そんな安易な考えは見抜かれていたように彼の背後から別人の声が掛けられた。


「あらあら、貴方がうちの息子と、その大切なお友達に手を出した悪い子かしら?」
「っ……!?」


足音もたてずに自分の背後から声をかけてきた相手に対し、反射的にサスケは短刀を振り抜翳す。しかし、その動作に対して背後に立っていた相手は短刀を繰り出した手首を掴み上げ、逆にサスケを地面へと押し倒す。


「ぐあっ!?」
「もう、やんちゃな子ね」
「姉さん、助かったわ。私一人だったら……殺しかねなかったもの」
「お、お前は……!?」


あっさりと自分を抑え込んだ人物にサスケは驚き、彼を抑えたのはマリアの姉のアイラだった。どうやら試合を終えて完全に治療を終えたらしく、彼女は普段着に戻った状態でサスケをあっさりと取り押さえた。

サスケも忍者として武器だけではなく、体術にも自信はあったのだが本職の格闘家であるアイラには手も足も出ず、彼女の力で抑え付けられてしまう。サスケは必死に振りほどこうとするが、まるで大人と子供なみの力の差があり、逆に抑えつけられた腕が折れかねない程に締め付けられる。


「ぎゃあああっ!?」
「あらあら、そんな情けない悲鳴を上げて……仕方のない子ね」
「姉さん、それ以上は駄目よ……お仕置きは私の方がしてあげるわ」
「ぐあっ……!?」


サスケはアイラが手刀を首筋に叩き込むと気絶し、そのまま彼女の肩に担ぎ込まれ、マリアと一緒に通路の奥へと消え去った――







※アイラ・マリア姉妹怖い……(´;ω;`)
しおりを挟む
感想 5,089

あなたにおすすめの小説

最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された「霧崎ルノ」彼を召還したのはバルトロス帝国の33代目の皇帝だった。現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が帝国領土に出現し、数多くの人々に被害を与えていた。そのために皇帝は魔王軍に対抗するため、帝国に古から伝わる召喚魔法を利用して異世界から「勇者」の素質を持つ人間を呼び出す。しかし、どういう事なのか召喚されたルノはこの帝国では「最弱職」として扱われる職業の人間だと発覚する。 彼の「初級魔術師」の職業とは普通の魔術師が覚えられる砲撃魔法と呼ばれる魔法を覚えられない職業であり、彼の職業は帝国では「最弱職」と呼ばれている職業だった。王国の人間は自分達が召喚したにも関わらずに身勝手にも彼を城外に追い出す。 だが、追い出されたルノには「成長」と呼ばれる能力が存在し、この能力は常人の数十倍の速度でレベルが上昇するスキルであり、彼は瞬く間にレベルを上げて最弱の魔法と言われた「初級魔法」を現実世界の知恵で工夫を重ねて威力を上昇させ、他の職業の魔術師にも真似できない「形態魔法」を生み出す―― ※リメイク版です。付与魔術師や支援魔術師とは違う職業です。前半は「最強の職業は付与魔術師かもしれない」と「最弱職と追い出されたけど、スキル無双で生き残ります」に投稿していた話が多いですが、後半からは大きく変わります。 (旧題:最弱職の初級魔術師ですが、初級魔法を極めたら何時の間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。