上 下
1,032 / 2,083
真・闘技祭 予選編

レナとハルナ

しおりを挟む
「――雷光!!」
「っ!?」


電流を帯びた状態でハルナは加速すると、目にも止まらぬ速度で移動を行う。その速度は一流の武芸者が扱う「縮地」をも凌駕し、言葉通りに「雷光」の如き速度で彼女はレナの元へと迫る。普通の人間ならば彼女が瞬間移動でもしたかのようにレナの前に移動したかのように見えただろう。


(このままぶっ飛ばして……!?)


レナに対して攻撃を仕掛けようとしたハルナだったが、拳を振りかざす直前でレナの瞳がはっきりと自分の姿を捉えている事に気付く。彼の紅色に変色した瞳は確かにハルナの姿を映し、更にレナは加速した状態のハルナに向けて退魔刀を振りかざす。

加速状態の自分に対して正確に退魔刀を振り抜いてきたレナに対し、異様な危機感を抱いたハルナは後方へ跳躍して回避を行う。振り抜かれた退魔刀は地面に衝突した瞬間、強烈な衝撃が地面に伝わり、もしもハルナが回避していなければ一撃で吹き飛んでいただろう。


(こいつ、俺の動きが見えてるのか!?)


ハルナは信じられない表情を浮かべ、彼女が「雷光」を発動させた状態で自分の動作を捉えた人間など今までに一度も遭遇した事がなかった。過去に何人かの武芸者と戦った事はあるハルナだが、誰一人として彼女の速度には追いつけず、目で捉える事すらも出来なかった。

退魔刀を振り抜いたレナは黙ってハルナを見つめ、しっかりとその瞳で彼女の姿を捉える。レナに睨みつけられたハルナは言いようの知れない恐怖を抱き、剣鬼の気迫に飲まれる。


(……もう一度だ!!)


レナが本当に自分の動作を見切っていたのかを確かめるため、ハルナは再び加速して今度は回り込むように動く。加速中のハルナはあらゆる現象が「スローモーション」のように見えるのだが、高速で動く自分に対してレナは視線を外さず、回り込もうとしたハルナの後を追うように首を動かす。


(間違いない、こいつ俺の動きが見えているんだ!!)


混乱や動揺というよりも歓喜に近い感情を抱き、ハルナは間違いなく本気で動く自分の姿を捉えたレナに対して期待感を抱く。今まで彼女は様々な相手と戦ってきたが、自分の動作を完全に見切った存在など出くわした事はなかった。

世界各地を旅してきたハルナはそれなりに有名な武芸者や、危険種指定されている魔物と戦ってきた事もある。しかし、どんなに有名な武芸者も凶悪な魔物も彼女の敵ではなく、海の王と言われている「海竜リバイアサン」でさえもハルナからすればデカいだけで特に大したことはない魔物にしか感じなかった。


(やっと見つけた!!)


生まれて初めて自分の速度に付いてこれる存在を発見したハルナは足を止めると、改めてレナと向かい合う。その一方でレナの方は突如として立ち止まったハルナに対して冷や汗を流し、剣鬼の力を以てしても彼女の動きを目で追うのが限界でとてもついていけなかった。


(何だこいつ……こんな早い奴、今までに見た事がない)


剣鬼の力を完全に開放すればレナの思考速度も強化されてスローモーションのように相手の動きを捉えられるのだが、その剣鬼の目を以てしてもハルナの場合は目で追うのが限界だった。残念ながらレナの身体能力では限界まで上昇させてもハルナの移動速度には付いてこれず、先ほどの攻撃も結局は動きを捉えることが出来ても肝心の攻撃が遅すぎて当てる事も出来ない。

レナはハルナこそが「雷の聖痕」の所有者である事を改めて確信し、そうでもなければ彼女の馬鹿げた移動速度が説明出来ない。レミアに任せて先に闘技場に向かったが、そのレミアを置いてハルナが先に現れた事にレナは不安を抱く。


(レミアは敗れたのか?いや、聖痕の力を感じ取れるから少なくとも意識はあるはず……という事はハルナが勝負の最中に抜け出してきた?どっちにしても……厄介な奴が現れたな)


自分よりも遥かに高い移動速度を誇るハルナに対してレナは警戒心を高め、一瞬でも彼女の姿を見失わないように見つめると、ここでハルナの胸元に浮かんでいる紋様に気付く。ハルナは露出度の高い服装をしているため、胸元も大きく開いていた。

女性の胸をじろじろと見るのは失礼ではある事は理解しているが、レナはハルナの胸、性格に言えば谷間の上の部分に「雷」を想像させる紋様が浮かんでいる事に気付く。それを見てレナは彼女の身体に宿る「雷の聖痕」かと思い、試しに風の聖痕を発動させてみる。


(聖痕を使えばきっと相手も何かを感じ取るはず……あれが本物の紋様ならハルナも何か反応があるはずだ)


唐突に右手を伸ばしてきたレナにハルナは不思議そうな表情を浮かべるが、レナは風の聖痕を発動した瞬間、ハルナの胸元の聖痕も光り輝き、彼女は驚いた表情を浮かべた。


「んっ……この感じ、まさかお前も?」
「そうか、やっぱり君も……」


ハルナは先ほど遭遇したレミアのようにレナからも聖痕の力を感じ取り、お互いが聖痕の所有者である事を知る。しかし、それを知った所でハルナのやるべき事は変わらず、彼女はむしろレナが聖痕の所有者である事を知って嬉しそうな表情を浮かべた。同じ聖痕の所有者同士、親近感を抱いたように笑顔を浮かべる。
しおりを挟む
感想 5,089

あなたにおすすめの小説

最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された「霧崎ルノ」彼を召還したのはバルトロス帝国の33代目の皇帝だった。現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が帝国領土に出現し、数多くの人々に被害を与えていた。そのために皇帝は魔王軍に対抗するため、帝国に古から伝わる召喚魔法を利用して異世界から「勇者」の素質を持つ人間を呼び出す。しかし、どういう事なのか召喚されたルノはこの帝国では「最弱職」として扱われる職業の人間だと発覚する。 彼の「初級魔術師」の職業とは普通の魔術師が覚えられる砲撃魔法と呼ばれる魔法を覚えられない職業であり、彼の職業は帝国では「最弱職」と呼ばれている職業だった。王国の人間は自分達が召喚したにも関わらずに身勝手にも彼を城外に追い出す。 だが、追い出されたルノには「成長」と呼ばれる能力が存在し、この能力は常人の数十倍の速度でレベルが上昇するスキルであり、彼は瞬く間にレベルを上げて最弱の魔法と言われた「初級魔法」を現実世界の知恵で工夫を重ねて威力を上昇させ、他の職業の魔術師にも真似できない「形態魔法」を生み出す―― ※リメイク版です。付与魔術師や支援魔術師とは違う職業です。前半は「最強の職業は付与魔術師かもしれない」と「最弱職と追い出されたけど、スキル無双で生き残ります」に投稿していた話が多いですが、後半からは大きく変わります。 (旧題:最弱職の初級魔術師ですが、初級魔法を極めたら何時の間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。