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S級冒険者編

九尾の居場所

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「というか、叔母様なら魔法の力とかで空を飛べたりとかしないの?」
「レナ、よく覚えておきなさい……魔法は万能ではないのよ」


レナの言葉にマリアはため息を吐きながら答えると、意外な事に彼女も空を飛ぶ魔法は扱えないらしい。だが、ここでレアはキラウが使用していた「ウィング」と呼ばれる神器の事を思い出す。


「そういえばキラウと最初に会った時、空を飛んでたよね。あんなのみたいに叔母様も空を飛べる魔道具とか持ってたりしないの?」
「……そうね、言われてみれば昔はそういう物を持っていた気がするわ。だけど、冒険者を引退してからその手の類の道具はもう他の人間に渡してしまったわ。今思えば少しでも残しておくべきだったわ」
「全く、この程度の山道でへばるなど森人族の名が泣くぞ!!」
「貴女のような体力バカのダークエルフと一緒にしないでちょうだい、全く……時々、姉さんが羨ましいわ。きっと姉さんならこの程度の山の一つや二つ登っても汗一つを掻かないでしょうね」
「確かに……否定できない」
「アイラ様ほどの武人ならば確かにこの程度の山道で音をあげる事は無いでしょう。まあ、あの方の場合は少々規格外ですが……」


マリアの姉であるアイラは若かりし頃はS級冒険者を勤め、引退した現在も現役の冒険者に負けない体力を誇る。実際に深淵の森から抜け出して王都に乗り込み、多数の兵士を打倒してレナに暗殺を命令した父親を殴り飛ばす程の力を持つ事を考えれば標高1000メートル程度の山など、ハイキング感覚で頂上まで辿り着くだろう。


『こうしてみるとマリアとアイラは本当に対照的な存在ですね。妹は魔法と知性、姉は武力と体力に特化してます。ちなみにレナさんはアイラの息子なのに御二人の間ぐらいの感じですね』
『なるほど、つまり俺は魔法と知性と武力と体力も併せ持つのか』
『間違ってはいませんけど、なんかその言い方はイラっと来ますね。まるで完璧超人じゃないですか』
『こっちだって努力してんだよ』


レナが幼少期から多数の技能を覚えられた要因はアイラの血を濃く受け継いでいた可能性が高く、ハヅキ家は代々が魔術師の家系なのでレナは魔術師として生まれたが、剣鬼と評される程に恐れられたアイラの血もしっかりと流れており、肉体的な強さは魔術師の中でも高かった。

魔法に関してもハヅキ家の血筋なので素質は高く、アイリスの適切な指導も受けたとはいえ、短期間で極める事に成功している。もしも普通の魔術師として生まれていた場合、必ずレナは皇太子として認められていただろう。最も結果的にはレナが皇太子にでもなろうとしたらイレアビトが存在を許すはずがないが。


「それにしても、まだ登るのかしら……流石に少し休憩をしたいわね」
「ですが、まだ中腹にも辿り着いていないと思いますが……」
「そうだぞ!!吾輩はすぐに帰って墓参りしたいのだ!!ここまできたら吾輩だけでも先に行くぞ!!」
「ゴウライ様、落ち着いてください!!九尾が得体の知れない存在である以上、迂闊に単独行動を取るのは危険です!!」
「しかしだな……もっと早く移動できないのか?それにそもそも九尾の奴は何処にいるのだ?」
「……既に私達は縄張りに入っていると思いますが、確かに現れる様子がないですね」


領主の話では討伐隊は山の麓に辿り着いた時点で攻撃を受けた事もあるらしいが、今の所はレナ達は麓どころか鉱山の中腹付近までは移動している。だが、一向に九尾が現れる様子が無くて不思議に思ったレナはアイリスに居場所を問う。


『アイリス、九尾の居場所は?』
『そう遠くない位置にいますよ。既にレナさん達の存在に気付いていますが、どうも魔獣の思考は読みにくいので何を考えているのか分かりませんね』


相手が人間ならばアイリスも思考を読み取って適切な指示を出せるが、動物や魔獣のような相手の場合はアイリスでも行動を予測する事は難しく、少なくとも九尾は既にレナ達の存在を把握している。だが、何故か襲ってくる様子がないという。


『どうして九尾は縄張りに入った俺達を襲わないんだろう?』
『あくまでも私の予測に過ぎませんが、九尾もレナさん達の存在の危険性を感じ取ったんじゃないでしょうか?魔獣種は人間よりも感覚が優れてますから気配に敏感なんです。もしかしたらレナさんやマリアの膨大な魔力を感じ取って警戒しているとか……』
『魔力ね……でも、このままだと埒が明かないな。こっちから仕掛けてみるか』
『気を付けて下さい、相手は竜種に匹敵する生物です。フェンリルのように上手く倒せるとは限りませんからね』
『分かった、気を付けるよ』


アイリスから九尾の詳しい位置を聞いたレナは風の聖痕を発動させ、鉱山に漂う風の精霊を呼び寄せる。忘れがちだが風の聖痕を使えば精霊を通して周囲の状況を把握する事も出来るため、レアは風の精霊の力を借りて九尾の様子を伺おうとした。
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