上 下
870 / 2,083
S級冒険者編

レナとレミアの戦闘経験

しおりを挟む
「ナオ様、私は大将軍としてこれまで勤めてきました。今まではミドル大将軍が亡くなられ、カノン大将軍も将軍の地位から降ろされた以上は私が御二人の分の責務を果たす必要があります。今回の件は私に全てお任せください」
「いや、しかしだな……相手はS級冒険者を打ち倒す程の力を持つ相手だ。レミア大将軍の実力は知っているが、やはり一人では荷が重いのでは……」
「それはつまり、私の実力がS級冒険者に劣るという事でしょうか?」
「そ、そういう訳ではないのだが……」


レミアの言葉にナオは困った風にレナに視線を向け、ここまで彼女が頑なに単独での討伐を申し込むとは思わなかった。しかし、このままレミアを一人で行かせるわけにはいかず、レナもため息を吐きながら話に割り込む。


「レミア大将軍、少しいいですか?」
「なんでしょうか?レナ様も私だけでは九尾の討伐は不可能だと思っているのですか?」
「……今現在の情報では九尾の戦闘力は竜種に匹敵します。実際に戦ったムサシというS級冒険者の話なので信憑性は高いです」
「竜種……なるほど、確かにそれは恐るべき相手ですね」


九尾という魔物の名前は初めて聞いたレミアだが、相手が竜種に匹敵する力を持つ魔物と聞いては警戒心を抱かずにはいられない。だが、それでも大将軍の立場としてまずは自分から出向くのが当たり前だと彼女は主張する。


「しかし、いくら強大な相手であろうと我が国の領地を犯すようならば我が国の軍人が最初に対応するのが道理、ここは私にお任せ出来ませんか?」
「レミア大将軍の実力を疑うわけじゃないですけど、相手が竜種と同程度の戦闘力を所有しているのならば一人で挑むのは危険では?」
「一人ではありません、私も手勢は連れて行きます」
「竜種を相手に戦える人材をレミア大将軍は従えてるんですか?」
「……それはいくらなんでも我が配下に無礼ではないのですか?」


レナの言葉を聞いてレミアは表情を険しくさせるが、別にレナは意地悪でいったわけではなく、そもそも竜種と戦える力を持つ人間なんど滅多にいない。それこそ「剣聖」のような称号を持つ人間にしか対抗は出来ない。


「言っておきますけど、俺はこれまでに火竜以外にも様々な竜種と戦っています腐敗竜、地竜、白竜……ヨツバ王国では竜種ではないですが、それに匹敵する力を持つフェンリルも討伐しています」
「……それは本当なんですか?」
「そうなのかレナ!?」


災害の象徴である竜種と幾度も交戦したというレナの言葉にナオとレミアは驚きを隠せず、竜種と実際に戦ってその恐ろしさを知っているからこそ、レナはレミアを一人では行かせられなかった。


「レミア大将軍は過去に何度竜種を倒していますか?」
「獣人国から訪れた牙竜を1度だけ討伐した事があります。その時はミドル大将軍もご一緒でしたが……」
「その牙竜とやらは白竜やフェンリルと同程度の力を持ってるんですか?」
「それは……有り得ませんね」


牙竜は竜種の中でも「下位種」として扱われ、戦闘力は他の竜種と比べれば格段に落ちる。最も竜種である事は間違いなく、その戦力は複数の街を亡ぼせるほどの力を持つ。だが、レナが倒したフェンリルや最強の竜種である白竜と比べれば赤子に等しい存在である。

レミアはこれまでに単独で竜種に戦闘を挑んだ事はなく、それはレナも一緒だが最終的に竜種との戦闘ではレナが止めを刺した事もある。経験という点ではレナはレミアを勝り、そんなレナだからこそ竜種と同等の力を持つ九尾の存在の恐ろしさを語った。


「九尾と戦ったムサシもS級冒険者として功績を上げています。そのムサシが九尾の戦闘力が竜種に匹敵するといっているんです。そして俺は何度も竜種と戦ってきたからこそ、その恐ろしさがよく分かります」
「つまり、私が竜種との戦闘経験が少ない事から不安を覚えているのですか?」
「そういう事です。仮にも竜種と戦える人材なんてそう簡単には用意出来ません。レミア大将軍の配下がどの程度の力を持つのかは分かりませんけど、最低でも竜種と戦う場合は剣聖の称号を持つ実力者がいなければ話にもなりませんよ」
「……厳しい言葉ですね」


レナの言葉に対してレミアは悔し気な表情を浮かべるが、戦闘経験という点ではレナの方が圧倒的に上回っていた。レミアも相当な場数を踏んでいるのだろうが、レナは彼女以上の強敵と戦い続けている。だからこそ自分の手勢だけで九尾を討伐するというレミアの言葉を認めるわけにはいかなかった。


「レミア大将軍にも立場があると思いますけど、竜種と同じ力を持つと思われる九尾と戦う以上、万全の準備が必要だと思います。既に叔母様……いや、叔母のマリアも俺の他にゴウライを呼び寄せています」
「ゴウライ……それは破壊剣聖の事ですか?」
「おおっ!!あの噂に聞く破壊剣聖か!!それは心強いな!!」


ゴウライの名前が出た途端にナオは興奮気味に答えると、ここで今更ながらにレナはゴウライの中身を思い出す。ゴウライは普段は甲冑で身を隠しているが、その中身は絶世の美女と言っても過言ではない容姿をしている。しかし、どういう事なのかゴウライの容姿がナオと似ている事を思い出す。
しおりを挟む
感想 5,087

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)
ファンタジー
陸奥さわこ 3*才独身 父が経営していた居酒屋「酒話(さけばなし)」を父の他界とともに引き継いで5年 折からの不況の煽りによってこの度閉店することに…… 家賃の安い郊外へ引っ越したさわこだったが不動産屋の手違いで入居予定だったアパートはすでに入居済 途方にくれてバス停でたたずんでいたさわこは、そこで 「薬草を採りにきていた」 という不思議な女子に出会う。 意気投合したその女性の自宅へお邪魔することになったさわこだが…… このお話は ひょんなことから世界を行き来する能力をもつ酒好きな魔法使いバテアの家に居候することになったさわこが、バテアの魔法道具のお店の裏で居酒屋さわこさんを開店し、異世界でがんばるお話です

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。