上 下
843 / 2,083
S級冒険者編

剛剣を極めた剣士同士

しおりを挟む
ムサシが大剣を正面から構えるとレナは退魔刀を握り締め、横向きに構えを取る。二人は向き合うと空気が張り詰め、先に動いたのはムサシだった。彼女の大剣の方が間合いが長く、両腕の筋肉を肥大化させ、一気に振り下ろす。


「兜割り!!」
「っ!!」


瞬時にレナは「縮地」を発動させて回避すると、直後に地面に衝撃が走った。ムサシの振り下ろした大剣によって隕石が衝突したかのようなクレーターが作り出され、その様子を見たレナはまともに受けたら危なかったと判断すると、ムサシは大剣を引き抜いてレナに振り返る。


「なるほど、縮地を扱えたか……だが、それは私も出来る」
「えっ……うわっ!?」


レナの視界からムサシが姿を消すと、背後から危険を感じ取ったレナは咄嗟に身体を屈めると、後方から刃が突き出される。何時の間にか背後に移動していたムサシが攻撃を仕掛けた事に気付き、咄嗟にレナは前転を行ってムサシと向き合う。

驚くべき事にムサシも「縮地」を発動する事が出来るらしく、巨体でありながら凄まじい速度で移動を行える事を知ったレナは逃げるのを止め、正面から挑む。


「兜……砕き!!」
「ぐうっ!?」


ライオネルに繰り出した攻撃よりも鋭く重い一撃をレナはムサシに叩き込むが、彼女は大剣を構えて正面から受け切る。全力のレナの一撃を受け止めた事にハンゾウは驚き、マリアとカゲマルも感心した声を上げる。


「なっ!?レナ殿の攻撃を受け止めた!?」
「あの攻撃に耐え切るか……大した奴だ」
「実力は大将軍級ね」


退魔刀の一撃を受け止めたムサシはそのままレナと鍔迫り合いの形となり、どちらも渾身の力を込めて押し合う。体格的にも純粋な筋力はムサシが上回るが、レナも身体強化を発動させて限界まで筋力の強化を行うと、二人は同時に離れて戦技を放つ。


「回転撃!!」
「旋風!!」


轟音が鳴り響き、大剣同士が接触する度に周囲に振動が走る。横薙ぎに振り払われた二人の大剣が弾かれ、先に体勢を整えたのはレナの方だった。


「まだまだぁっ!!」
「くっ!?」


一度は殺された回転の勢いを復活させ、二撃目の攻撃を繰り出そうとしたレナに対してムサシは状態を反らして回避すると、彼女は大剣を振り翳す。


「ふんっ!!」
「うわっ!?」
「あの体勢から反撃を!?」


上半身を反らした状態でもムサシは大剣を振りぬいた事にレナもハンゾウも驚き、彼女の「体幹」が恐ろしい程に強い事を知る。体勢を整えたムサシは大剣を両手で握り締めると、足元に向けて振り翳す。


「土砂剣!!」
「うわっ!?」


振りぬかれた大剣の刃が地面に衝突した瞬間、地中の中の土の塊が放たれ、レナの元へ向かう。凄まじい勢いで迫りくる土塊に対してレナは大剣で防ぐ事に成功したが、初めて味わう戦技に戸惑う。この土砂剣というのは巨人族だけが扱う戦技であり、本来は攻撃用ではなくせいぜい敵の目晦まし程度の効果しか発揮しない。

しかし、目晦まし用の戦技であろうとS級冒険者のムサシが使用すれば立派な攻撃になり、地面から掘り返された土塊は岩石の砲弾の如く襲いかかる。大剣で防ぐ事に成功したレナではあるが、防御するのが限界で次のムサシの攻撃に反応が遅れてしまう。


「これで終わりだ……撃剣!!」
「っ……!?」
「まずい、避けろ!!」


ムサシはレナに接近すると、身体を捻じれさせながら全身の筋肉を利用した一撃を繰り出し、頭上からレナに大剣を振り下ろす。その光景を見たカゲマルは咄嗟に声を掛けるが、直後に激しい金属音が鳴り響く。


(勝った……!?)


最大の一撃を食らわせた事で勝利を確信したムサシだが、すぐに手元の感触に違和感を覚えた。彼女は自分の振り下ろした大剣に視線を向けると、そこには退魔刀でムサシの攻撃を受け止めたレナの姿が映し出される。


「馬鹿なっ……!?」
「……いってぇなっ!!」


瞳の色を「紅色」に変色したレナはムサシの大剣を正面から受け止めるだけではなく、逆に押し返して弾き返す。自身の攻撃を防がれたという事実にムサシは目を見開き、更にレナはそんな彼女に接近すると、片腕のみで退魔刀を振り翳す。


「加速剣撃、旋風!!」
「ぐあっ!?」


手元に紅色の魔力を宿した状態でレナは退魔刀の刃を振り払うと、刀身の中腹の部分でムサシの腹部に衝突させ、巨体を吹き飛ばす。3メートルを超える体格のムサシが10メートル近くは吹き飛ばされる光景にハンゾウ達は唖然とした表情を浮かべるが、その様子を確認したレナは瞳の色を元に戻すと退魔刀を肩に担ぐ。


「ふうっ……危なかった」
「ぐうっ……不覚」


地面に倒れたムサシは起き上がる事も出来ず、恐らくはあばら骨が何本から折れたのは間違いなかった。そんな彼女の元にレナは近づき、見下ろしながら感想を告げる。


「強かったよあんた……多分、俺の知っている人たちの中でも5番目ぐらい」
「……少なくとも私より強い人間が5人もいるという事か」


レナの言葉にムサシは悔しがるよりも呆れてしまい、彼女は世界には自分の知らない強者がまだまだ居る事を嫌でも思い知らされた。




※ちなみにレナの中での一番の強敵は「ミドル」です。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。