上 下
817 / 2,083
外伝 ~ヨツバ王国編~

ダインの奥の手 闇魔導士、覚醒の時

しおりを挟む
「これが本当の影魔法よ……シャドウ・バインド!!」
「なっ!?」
「か、壁から鎖がっ!?」


影魔法によって構成された壁から「鎖」の形をした無数の影が出現すると、レナを身体に巻き付こうとした。咄嗟に回避を行おうとしたレナだが、キラウの意思で自由に操作できるらしく、いくら躱しても鎖は執拗に追いかけてきた。


「蒼炎……うわっ!?」
「捕まえたわっ!!」


蒼炎刀を発動して鎖を切ろうとしたレナだったが、先に鎖が右足に絡みつき、床に倒れてしまう。それを見たキラウは即座に杖を掲げて追撃を加えようとしたが、その前にダインがキラウに向けて影魔法を放つ。


「シャドウ・バイト・ケルベロス!!」
「何っ!?」


キラウに向けてダインの影から放たれた三つ首の狼の頭部が食らいつき、集中力を乱されたキラウはレナの身体を拘束していた影の鎖を解除してしまう。彼女は忌まわしそうに自分の身体に噛みついたダインの影魔法を引き剥がす。通常、影魔法は実体を持っていても物理攻撃は一切通用しないのだが、同じ闇属性の魔術師ならば影魔法にも干渉する事が出来る。

倒れたと思われたダインは苦痛の表情を浮かべながらも立ち上がり、キラウと向き合う。その姿を見てキラウは普段の彼女ならば忌々しく思うところだが、身体を焼き尽くされる苦痛を味わいながらも自分に立ち向かうダインに動揺を隠せない。


「貴方……まだ歯向かう気?」
「当然だ……僕はもう、お前に屈したりしない!!もう二度と、僕の目の前で仲間を失ってたまるかっ!!」
「ダイン殿……」


魔の草原でのキラウが襲撃した際、ダインは闇の聖痕の暴走によって倒れ、意識を失っていたからこそキラウの石化の魔眼から逃れることが出来た。しかし、もしも自分が意識を失わず、闇の聖痕の反応から何かが近づいてくる事を他の人間に教えていれば仲間達を石化させられずに済んだかもしれないと思っていた。

目の前でゴンゾウやシズネ、他にも多くの仲間を石像と化した光景を目の当たりにしたダインは絶望した。もしもコトミンやハンゾウが無事でなければ彼の心は折れていたかもしれない。だが、逆にそれがダインの覚悟を固めた。もう二度と仲間を失わないため、ダインは秘策を実行する。


「行くぞキラウ!!」
「正面から……!?舐めるな人間がっ!!」
「ダイン殿、それは無謀でござる!!」


魔法も発動させずに正面から迫りくるダインにキラウは怒りを浮かべ、彼女は迫りくるダインに向けて杖を構えた。しかし、その行動を予測していたかのようにダインは杖を手放して自分の胸元に手を押し当てると、とっておきの奥の手を発動させた。


「シャドウ・コントロール!!」
「これで終わりよ!!ダークフレ……!?」


キラウが黒炎を生み出してダインの身体を今度こそ焼き尽くそうとした時、ダインは自分の身体に影を纏わせると、信じられない速度で加速してキラウに接近した。その速度は忍者であるハンゾウさえも上回り、そのまま空中に跳躍して杖を振り上げる。


「喰らえっ!!兜割りっ!!」
「なっ!?」
「ええっ!?」
「剣士の戦技をっ!?」


まさか魔術師であるダインが剣士の戦技を、しかも空中から発動させるとは思わなかったキラウは慌てて自分の杖を構えるが、二人の杖は衝突した瞬間にどちらも折れてしまう。予想外の行動でキラウは反応が追い付かず、その間にもダインは折れた杖を握り締めて全力で叩き込む。


「技を借りるぞレナぁっ!!弾……撃ぃ!!」
「がはぁっ!?」
「そ、その技は……ダインさん、何時の間に兄貴の技をっ!?」


ダインは地面を両足で強く踏み込み、足の裏から足首、膝、股関節、腹部、胸、肩、肘、腕の順番に身体を回転及び加速させ、勢い良く拳を撃ち込む。それはレナだけが扱えるはずの戦技のはずだったが、見事にダインは使いこなしていた。

魔術師が繰り出すとは思えない痛烈な一撃にキラウはのけ反り、吸血鬼である彼女の肉体でさえも身体に響く重い一撃だった。この「弾撃」はレナが幼少時に作り出した戦技であり、元々は身体が小さくて力も弱かったレナが強力な魔物に対抗するために生み出した打撃技である。




――どうしてダインが剣士の戦技である「兜割り」そしてレナしか扱えないはずの「弾撃」を繰り出せたかというと、それはダインの影魔法に関係がある。ダインの影魔法は本来は相手の身体を拘束したり、あるいはステータスを低下させる性質を持つ。しかし、闇の聖痕を宿した頃からダインの影魔法は強化されていた。




現在のダインは影魔法の精度が向上し、更に魔力も大幅に上昇していた。そのお陰でダインはこれまで敵を拘束するだけではなく、影を全身に纏わせる事で自由自在に操作する事が出来るようになった。本来は敵を操作して戦わせる魔法として開発した「シャドウ・コントロール」だが、ダインは自分自身の肉体を影で操作して戦えるようになった。
しおりを挟む
感想 5,089

あなたにおすすめの小説

最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された「霧崎ルノ」彼を召還したのはバルトロス帝国の33代目の皇帝だった。現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が帝国領土に出現し、数多くの人々に被害を与えていた。そのために皇帝は魔王軍に対抗するため、帝国に古から伝わる召喚魔法を利用して異世界から「勇者」の素質を持つ人間を呼び出す。しかし、どういう事なのか召喚されたルノはこの帝国では「最弱職」として扱われる職業の人間だと発覚する。 彼の「初級魔術師」の職業とは普通の魔術師が覚えられる砲撃魔法と呼ばれる魔法を覚えられない職業であり、彼の職業は帝国では「最弱職」と呼ばれている職業だった。王国の人間は自分達が召喚したにも関わらずに身勝手にも彼を城外に追い出す。 だが、追い出されたルノには「成長」と呼ばれる能力が存在し、この能力は常人の数十倍の速度でレベルが上昇するスキルであり、彼は瞬く間にレベルを上げて最弱の魔法と言われた「初級魔法」を現実世界の知恵で工夫を重ねて威力を上昇させ、他の職業の魔術師にも真似できない「形態魔法」を生み出す―― ※リメイク版です。付与魔術師や支援魔術師とは違う職業です。前半は「最強の職業は付与魔術師かもしれない」と「最弱職と追い出されたけど、スキル無双で生き残ります」に投稿していた話が多いですが、後半からは大きく変わります。 (旧題:最弱職の初級魔術師ですが、初級魔法を極めたら何時の間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。