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外伝 ~ヨツバ王国編~

レベル80

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レナはゆっくりと自分の掌を見つめ、右手に握りめる退魔刀を持ち上げる。今までよりも大剣が軽く感じられ、全身から魔力を迸る感覚が広がる。自分自身の肉体の変化にレナはゆっくりと呟く。


「ミドルの奴も、こんな感じだったのかな……お前等、もう動いていいよ」
『っ……!?』


七影はレナの言葉を聞いた瞬間に全員が距離を開き、冷や汗を流す。レナに声を掛けられるまで感じていた圧迫感が消え去り、同時に言いようの知れない恐怖を抱く。緑影の暗殺者として幾度も修羅場を乗り越え、恐怖を克服してきた彼等だが、目の前に立つレナを見るだけで身体の震えが止まらない。

彼等の様子を見てレナは無意識に発動させていた「威圧」のスキルを解除した事に気付き、この状況で眠気が抑えきれずに欠伸を行う。そのレナの行動に七影は自分達を侮っているのかと怒りを抱き、意を決した一人がレナに向かおうとした。


「貴様!!」
「うるさい」
「えっ……」


背後から仕掛けようとした青年の容姿をした七影が短剣を振り翳した瞬間、レナは振り返りもせずに退魔刀を無造作に振り払い、青年を吹き飛ばす。その光景を見た他の人間たちはあまりの攻撃速度にレナに近付こうとした青年が唐突に吹き飛んだようにしか見えず、青年は屋敷の中に突っ込んで意識を失う。


「ぐあっ……!?」
「何っ!?」
「馬鹿なっ……」
「お前等もうるさい」


吹き飛ばされた青年の姿を見て少年と少女の姿をした七影が声を漏らすが、そんな彼等に対してレナは退魔刀を握り締めていない方の腕を動かし、目にも止まらぬ速度で手刀を放つ。一瞬の出来事で少年も少女も反応すらできずに地面に倒れ込む。

残された4人の七影は一瞬にして倒された仲間達に動揺し、下手に動くことが出来ない。少しでも口を開こうとすれば倒された3人のように同じ末路を迎えるのは間違いなく、残された七影は視線を交わしてどのように対処するべきかを相談する。


(まともに戦えば勝ち目はない……だが、人質さえとれば形成は逆転する)
(3人が時間を稼ぎ、1人が人質を確保すればまだ勝機はある)
(ならば一番ティナ王女と距離が近いお前が行け、時間稼ぎは我等が行う)
(分かった……油断するなよ)


長年の付き合いで視線だけで七影はお互いの考えを読み取る事が出来るため、3人が囮役を担い、最後の1人が屋敷の中に存在するティナを人質として利用する作戦を立てる。既に七影はカレハ王女から最悪の場合はティナの抹殺の命令を受けてはいるが、彼等は王族である彼女を殺すつもりはなく、あくまでも保護という名目で彼女を誘拐するつもりだった。

しかし、七影の3人が敗れた以上は手段は選べず、残った4名はティナ王女を拘束して人質として利用し、この場を逃げる事を決めた。勿論、人質に利用するとしてもティナに危害を加えるつもりはなく、あくまでも彼等は彼女を連れ帰るためにここへやってきた。しかし、最悪の場合は任務の遂行のために仲間を犠牲にしてでもティナを王都へ連れ帰るという覚悟を決めていた。


(次に奴が口を開いた時が合図だ)


七影はレナの様子を伺い、口元に視線を集中させる。そしてレナがゆっくりと唇を開いた瞬間、3人が同時にレナへ向けて武器を振り翳し、1人は屋敷へ向けて駆け出そうとした。


『辻切――!?』


七影の3人の声が重なり、全員が同時に戦技を発動させようとした瞬間、レナの身体が消え去る。それと同時に屋敷の方角から何かが地面に叩きつけられるような音が鳴り響き、攻撃を仕掛けようとした状態で3人は視線を向けると、そこには何時の間にか一瞬で屋敷の前に移動していたレナが人質確保のために駆け出した若い男性の姿をした七影の頭を掴み、地面に顔面をめり込ませる光景が映し出される。


「バレバレだよ、あんた等の作戦」
「がはぁっ……!?」
「馬鹿なっ!?」
「何時の間に……!?」
「縮地か……!?」


まるで瞬間移動したかのように場所を移動したレナに残された3人の七影は後ずさり、そんな彼を見てレナは地面にめり込ませた男性を手放すと、退魔刀を上段へ掲げた。距離が空いているにも関わらずに大剣を構えたレナに七影は訝しむが、そんな彼等に向けてレナは風の聖痕の力を発揮させる。

レナの退魔刀には魔術痕が刻まれ、魔力を送り込む事で魔法剣へと変化させる事が出来た。しかも風の聖痕を利用して風の精霊を呼び集める事で風属性の魔力を強化させると、刀身に風を纏わせてレナは振りぬく。


「はあっ!!」
『ぐあああっ!?』


退魔刀を横薙ぎに振り払うだけで強烈な衝撃波が発生し、そのまま吹き飛ばされた残りの七影は屋敷を取り囲む壁に叩きつけられ、白目をむいて倒れ込む。その様子を確認したレナは退魔刀に纏わせた風を消失させると、その場に膝を付く。その様子を見て慌てて屋敷からティナ達が駆け込み、魔獣達も押し寄せる。


「兄貴!?どうかしたんですか!?」
「まさか、怪我を!?」
「大丈夫!?」
「ウォンッ!?」
「キュロロッ!?」


膝を付いたレナに全員が心配そうな表情を浮かべると、レナは腹部を抑えながら一言だけ呟く。


「お腹、空いた……」


その言葉を聞いたティナ達は呆気に取られたが、よくよく考えればずっと眠っていたレナは食事を一切していない事を思い出し、慌てて彼女達はレナを屋敷の中へ運び込む――
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