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外伝 ~ヨツバ王国編~

フェンリルとの対峙

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――採掘場をレナ達が制圧をしてから数十分後、フェンリルに乗り来んだレイビは遂にオロナ鉱山へ辿り着き、道に倒れている赤獣の死骸の山を確認して表情を歪めた。


「くそっ……役立たず共が、やはりコボルト程度じゃ駄目か」


苦労して時間を掛けて作り出した赤獣達ではあったが、侵入者に返り討ちにされたコボルト達の姿を見てレイビは悪態を吐く。ある程度の力と知能は存在し、吸血鬼の血液で強化させたとはいえ、危険度はせいぜいレベル3程度の魔獣しか生み出せなかった。

コボルト以外に魔物使いが自在に操作出来るのはゴブリン程度しか存在せず、せめてホブゴブリンの上位種が手に入ればよかったのだが、生憎とゴブリンの上位種はアトラス大森林には生息しない。そもそもバルトロス王国よりも生息する魔物の危険度が高いアトラス大森林の南部では滅多にゴブリンは存在しない。


「グルルルッ……!!」
「どうしたフェンリル?何か嗅ぎつけたのか?」


山頂付近に存在する採掘場へ向かう途中、レイビを背中に乗せたフェンリルは立ち止まり、何かを警戒するように唸り声をあげる。その反応を見てレイビは不振に思い、周囲を調べると前方の道に不自然な岩が塞いでいる事に気付く。


「何だこの岩は……フェンリル、近づくなよ」
「ガアッ……」
「んっ……待て!!動くな!!」


道を塞ぐにしても乱雑に放置された大きな岩を見てレイビは警戒心を抱き、岩を避けて先に進もうとしたが、不意に地面に視線を向けてフェンリルを停止させる。岩を横切ろうとした際にレイビは地面の気付き、何か仕掛けられているのではないかと考えてフェンリルに命令を下す。


「フェンリル!!」
「ウォンッ!!」


フェンリルは右前脚を振り上げると岩の横の地面に向けて叩きつけた瞬間、地面と同じ模様の布が敷かれていた事が発覚し、布の下には大きな穴が形成されていた。穴の底には兵士から回収したと思われる槍が突き刺さり、もしも何も知らずに岩を横切ろうとしたらフェンリルは落とし穴に嵌っていただろう。


「はははっ!!何だこれは!?ガキが考えたような落とし穴だな、おい!!」
「グルルッ……!!」
「もういい、フェンリル先に急ぐぞ!!岩なんて飛び込せ!!」


罠を見抜いたレイビは上機嫌になり、子供じみた罠を用意した侵入者に笑い抑えきれない。フェンリルはレイビに指示に従って助走を付けて岩を飛び越えようとした時、寸前で立ち止まってしまう。


「ウォンッ!?」
「うおっ!?どうしたフェンリル!?」


命令も無しに立ち止まったフェンリルにレイビは慌てて背中から落ちないようにしがみ付くと、フェンリルは目の前に存在する山道を塞ぐ大岩の背後から感じられる気配に気付き、レイビの命令も待たずに攻撃を仕掛ける。


「ガアアッ!!」
「おいっ!?」


大岩に向けて爪を振り下ろすフェンリルにレイビは焦りの声を上げるが、岩が破壊される前に岩陰に身を隠していた3つの人影が出現し、空中へ飛び出す。その3人は全員が黒装束を身に纏い、両手にクナイを抱えていた。


「ちっ……気付かれたか」
「気配は完全に消していたはずでござるが……」
「臭いけしの香草も使っていたのに……」
「何だてめえらは!?」


現れた3人組に対してレイビは怒鳴り声をあげると、カゲマル、ハンゾウ、アヤメの忍者集団はフェンリルの背中に乗るレイビに向けて真っ先に攻撃を行う。


「「「乱れ撃ち!!」」」
「うおっ!?」
「ガアアッ!!」


3人は何処から取り出したのか大量のクナイをレイビに向けて投げつけ、それを見たフェンリルは咄嗟に主人を守るために跳躍を行い、距離を取る。無数のクナイが地面に突き刺さる光景を確認したレイビは冷や汗を流し、もしもフェンリルが反応していなかったら自分がクナイの餌食になっていた事を自覚する。

唐突に現れたカゲマル達に対してレイビは動揺を隠せず、フェンリルでさえも接近するまでは気付かない程の隠密能力を持つ3人組に警戒心を抱く。戦力的には自分達の方が圧倒的有利である事は理解しているが、レイビは敵を侮らず、冷静に考える。


(何だこいつらは……暗殺者か?いや、何処となくだが緑影と雰囲気が似ている。そういえばカレハ王女の話では王国に滞在していた緑影の部隊が王国に寝返ったとは聞いていたが……こいつら、どう見ても人間じゃないな)


カゲマル達の耳元を見て相手が人間であると見抜いたレイビは彼等が王国から訪れた冒険者の事を思い出し、よくよく観察すると少し前に自分が東聖将の領地に忍び込んだ時に使役した赤獣の目を通して確認した3人組だと知る。事前に契約を結んで使役化していた白虎の五感を通して敵の戦力は把握していたが、自分が訪れる事を予測して待ち伏せを仕掛けていたという事実に苛立つ。


(ちっ……舐めやがって、主人を殺せばフェンリルが暴れないと思っているのか?)


先ほどの3人の攻撃は間違いなくレイビを狙っており、彼等の目的はフェンリルではなく、フェンリルを使役しているレイビを狙っているのは明白だった。
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