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最終章 王国編

イレアビトとレナ

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――時刻は少し前に遡り、遂にレナとダインは玉座の間へと辿り着く。レナは開いていたステータス画面を閉じると、全ての準備を整えてダインに頷く。ここまで来たら覚悟を決めたのかダインも頷き返し、身体の震えは止まっていた。


「開くよ……気を付けて」
「ああ……せぇのっ!!」


二人同時に扉を開くと、予想通りというべきか玉座の間には兵士の姿はなく、玉座に座り込む王妃とその傍で彼女の臣下のように控えるミドルの姿があった。ミドルはレナの姿を見ると微笑み、そしてダインの姿を見て訝し気な表情を浮かべたが、他に人間がいない事を把握すると王妃に振り返る。


「ようこそ、我が城へ……歓迎するわ元第一王子のレナ・バルトロス」
「元王子という部分は否定しないけど、ここはあんたの城じゃないはずだけど?旧帝国のイレアビトさん?」
「……そこまで知られているのね」


巨座に座る王妃――イレアビトはレナの言葉に一瞬だけ意外そうな表情を浮かべ、自分の素性を知る人間は数少なく、革命団のコタロウが事情を話したのかと判断する。玉座に座る王妃に対してレナは退魔刀に手を伸ばし、ダインも杖を構えながら接近する。


(……気配感知と魔力感知にはこの二人以外に反応はない。だけど……)


レナは先ほどステータス画面からこれまでに蓄積させておいたSPを消費し、覚えた能力を発動させる。今回覚えたのは叔母であるマリアも習得している『鑑定眼』のスキルを発動させ、広間の様子を伺う。そして両端に立たされている銅像が所持しているボーガンが本物である事に気付き、ダインに注意を促す。


「ダイン、あの銅像を倒して。罠かもしれない」
「えっ!?わ、分かった……シャドウ・バインド!!」
「ほう……影魔法の使い手でしたか」
「オウネンの孫……曾孫かしら?大分前に追放された子供ね」


ダインは影魔法を発動させ、先ほどのオウネンとの戦闘で生み出した影魔法の応用を利用して自分の影を左右の銅像に伸ばし、影を引き寄せて銅像を倒す。振動を与えた瞬間にボーガンの矢が放たれるが、二人に当たる事はなく壁に突き刺さる。

罠を見破ったレナに対してミドルは別にそれほど気にはしなかったが、イレアビトはレナの瞳を見て違和感を覚え、まるでマリアと相対した時の感覚を思い出す。恐るべき洞察力でイレアビトはレナの能力を見破った。


「なるほど、鑑定眼のスキルも所持しているのね」
「っ……!?」
「でも、気になるわね。前回に貴方と会った時にどうしてその能力を使わなかったのか……いや、使えなかった?もしかして貴重なSPを消費してスキルを覚えたのかしら?」
「まさか……本当なのかい?」


自分の言葉にレナが一瞬だけ動揺を示したのを見逃さず、イレアビトはレナが鑑定眼を習得した事を見破る。僅かな手掛かりで自分の能力を正確に見抜いたイレアビトの洞察力にレナは驚かされ、改めて自分が恐ろしい存在と向かい合っている事に気付く。


(全く、こんな時にアイリスは交信出来ないのか……)


もしもアイリスと交信出来たのならばイレアビトの情報を全て聞き出して万全の対策を取る事は出来たが、ホネミンがこの場にいる以上は事前に教えて貰った限られた彼女の情報だけで戦うしかない。レナはダインと共に二人の元へ近づき、10メートルほどの距離で立ち止まる。


「降伏しろ。もうお前達に勝ち目はない」
「それは無理ね。あと少しで私の夢が叶うのにここまで来て諦めるつもりはないわ」
「……そんなにこの国の王になりたいのか?」
「いいえ、違うわ。私の目指すのはそんな小さい願望じゃない」
「えっ?」


イレアビトはレナの質問を否定し、自分が子供の頃から偉大でいた壮大な願望を話す。


「私が目指すのはこの国の王じゃない……支配者よ」
「支配者……?」
「バルトロス王国、ヨツバ王国、巨人国、獣人国……この世界に存在する大国、いえ全ての国家を私が支配する。そのために私は20年以上の時を費やして今の地位まで上り詰めたわ」
「全ての国家だって……!?」
「つまり、世界征服か」
「そうね、言葉を換えればその言い方も間違ってないわ」


世界征服などという子供じみた願望に対してレナとダインは唖然とするが、イレアビトは幼少期の頃から本気で自分の人生を賭けてまでその野望を果たすために動いていた事を語る。


「私の話を少しだけしましょう……私の母親は旧帝国の支配者でありながら、あまりにも気弱な女だった。自分の座を実の子供達に奪われる事を恐れ、子供達を争わせるように仕向けた。そのせいで何人も兄妹を私は殺す羽目になったわ」
「……その話も知っている」
「コタロウと会ったのね。それなら私が母親を殺した事も知っているのでしょう?だけど、別にあの人の事を憎んでいたわけではなかったわ。私の野望に邪魔な存在だったから消しただけよ。例え、私が他の兄妹よりも冷遇されていたと知っても別に恨みは抱かなかったわ」
「冷遇……?」
「母親は私の事を最も嫌っていたわ。何としても私を旧帝国の座に就けないように何度も暗殺者を送り込んだ……だから私も仕方がないからあの人を殺した。それだけの話よ」
「じ、自分の兄妹や母親を殺したのか……!?」
「貴方がそれを言うのかしら?ここに来たという事は貴方もオウネンを倒してここへ来たのでしょう?あの執着心の塊のような男が貴方をみすみす見逃すはずがない」
「それは……」


ダインはイレアビトの言葉に何も言い返せず、自分も生き残るために肉親であるオウネンを倒した事に変わりはない。しかし、ダインとイレアビトの違いがあるとすればダインは自分の身を守るため、イレアビトは自分の野望を果たすために邪魔者である母親を排除してその地位を奪ったのだ。


「あんたの境遇は同情する。だけど、ダインとあんたを一緒にするな。俺の親友は好き好んで人を殺す男じゃない」
「レナ……」
「そうね、確かに私とその子は違う……でも、レナ。貴方なら私の気持ちは分かるんじゃないの?貴方はあの国王に追い出され、母親のアイラと共に王族から除外されて魔物が住み着く危険な場所の隔離された。その事に対して父親に恨みを抱いた事はないの?」
「ない、と言えば嘘になるかな……」


レナは子供の頃、母親のアイラが自室でよく泣いていた事を思い出す。アイラはバルトロス国王の肖像画を前にして泣き、恐らく彼から昔渡されたと思われるペンダントを握り締めていた。その姿を見てレナは自分はともかく、アイラにまで悲しませる国王に対して色々と思う所はあった。

実際にこれまであまり深くは考えなかったが、正確には考えようとしなかったが、レナのこれまでの人生は全てバルトロス国王が彼を王族から追放した時から狂い始めていた。王族でありながら不遇職という理由で追放され、さらに弟が産まれた後に長男の存在が邪魔になるという理由で共に暮らしていたアリアに命を狙われ、数年間も魔物が巣食う危険な場所で暮らす羽目になる。

冷静に考えればレナは国王に対して恨みを抱くのが当然の事であり、イレアビトもレナと自分の境遇が似ている事を指摘する。違いがあるとすればレナはアイラやアイリスが居てくれた事で立ち直れたが、イレアビトにはレナのような味方など誰一人おらず、自分の力だけで生き延びるしかなかった。
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