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最終章 王国編

破壊剣聖の実力

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――同時刻、裏庭での戦闘は激しさを増し、ゴウライから繰り出される剣撃に対抗するためシュン達は猛攻を仕掛けていた。


「おらおらおらっ!!反撃の隙を与えるな!!」
「打ちまくるっす!!」
「これでも人間だ!!体力を消耗させろ!!」
「ゴウライ様は牙竜と三日間も渡り合う程の体力の持ち主なのですが……」
『があああっ!!』


周囲から無数の攻撃を受けながらもゴウライは止まる様子を見せず、逆に戦闘を喜ぶかの様に大剣を振りぬく。彼女が剣を振る度に衝撃波が発生し、接近していた人間を吹き飛ばす。


「あいでっ!?この、いい加減にくたばりなっ!!」
「まさかここまでとは……やっぱり、ビキニアーマーを着てくるべきだったわ」
「アイラ様、この状況で冗談を言うのは止めてください……冗談ですよね?」


吹き飛ばされたバルをアイラとリンダが受け止め、この中の面子では上位の実力者である3人でさえも今現在ではゴウライに近付く事も難しく、城壁からエリナが矢を射抜き、シュンが風の斬撃を浴びせるが全身を覆う甲冑に全て弾かれてしまう。


「くそ、何て頑丈な鎧なんだよ!!アダマンタイトで出来てるのか!?」
「矢が全然通じないっす……こうなったら熱々の熱湯をぶっかけて中の人を火傷に追い込むしかないっすね!!」
「分かった。スラミン発熱して」
「ぷるぷるっ……」


エリナの言葉にコトミンが水筒で水分補給中のスラミンに話しかけると、流石に「無理無理」とばかりに首を振る。スライムは熱いのを苦手とするため、流石に熱湯までは生み出せない。しかし、甲冑の中身に直接攻撃を仕掛けるというアイデア自体は悪くはない。

実際にアイラとリンダの「発勁」の戦技は通じているため、頑丈な鎧さえ突破すれば生身のゴウライに損傷を与える事は難しくはない。それこそ熱湯でも浴びせて甲冑の隙間から流し込むのが有効に思えるが、この城内でそれほど大量の水を入手する事は難しいだろう。


「ううっ……こんな時にレナ君やシズネさんがいてくれたら……あ、でもダイン君の影魔法ならゴウライさんでも止められるのかな?」
「影魔法……相手を拘束する事が出来る闇属性の魔法ですか。確かにその魔法ならば通用するかもしれませんが……」
「何でこんな時にその3人がいないのでござるか……!!」
「おい、来るぞ!!」
『ふぅんっ!!』


ゆっくり話し合う暇もなくゴウライは再び地面に向けて大剣を振り下ろし、裏庭に亀裂が生じる。その気になれば地割れさえも引き起こせるのではないかという程の怪力を発揮するゴウライに対してシュンは舌打ちし、リンダに声を掛ける。


「おい、リンダ!!てめえの発勁でこいつをぶっ飛ばせないのか!?」
「既に試しています。しかし、この方は内に膨大な気を内蔵しているのか効果が薄いんです……!!」
「ああ、どういう事だ!?」
「発勁の戦技は魔力ではなく気と呼ばれるエネルギーを使って相手に攻撃を仕掛けるの。この気というのは生命力みたいな物ね。発勁の戦技は相手に自分の気を送り込んで損傷を与えるのだけど、もしも相手が膨大な気を最初から保有する人間の場合は送り込んだ気が相殺されて威力が弱まるの」
「お、おう……そう、なのか?」


アイラの説明にシュンは戸惑い、分かるような分からないような表情を浮かべるが、有効打だと思われた発勁の戦技でもゴウライには効果が薄いらしい。先ほどは二人分の発勁を受けた事で吐血したが、実際の所は損傷はそれほどではないらしい。


「ど、どうにか兜だけでも取る事が出来れば私の魔法で何とか出来ると思うよ~」
「その兜を取る事自体が無理難題なんだよ……この馬鹿、こんだけ強いくせにどれだけ素早いんだい!!」
『はああっ!!』


バルが降りぬいた大剣をゴウライは上体を逸らして回避すると、そのまま両手で掴んでいた大剣を地面に突きさし、勢いよく跳躍してバク転の要領で着地する。怪力だけでもなく、獣人族のような身軽な動作でゴウライは忙しなく動き回り、とてもではないが兜を奪う所か攻撃を当てるのさえも難しい。


「くそ、この中に魔法を使える奴はいないのかい!?砲撃魔法でぶっ飛ばせばいいだろうが!!」
「そ、そういわれても……」
「この中に魔術師はいないわ。精霊魔法なら扱える人は何人かいるけど……」
「生憎と人間が扱う魔法は我々は好まん」


裏庭には数多くの人物が集まっているが、その中で一般の魔術師が扱う「砲撃魔法」を使用できる者はいなかった。大半が武人か回復魔法か精霊魔法の使い手のため、火力の高い魔法で吹き飛ばす事も出来ない。もしもレナかダインがこの場にいれば合成魔術か影魔法で対抗出来たかもしれないが、生憎と二人は玉座の間に居る。


「キュロロロッ!!」
「ブモォオオッ!!」
「ガアアッ!!」
「あっ!?駄目だよ、回復したばかりだから動いちゃ……!!」


魔獣達もティナの回復魔法を受けて完全に回復すると戦闘に加勢するが、いくら人数が増えようとゴウライは一歩も引かず、それどころか時間が経過する度に逆に全員の体力が削られていく。


「くそ、もう腕が限界だ……誰でもいいからこいつをどうにかしやがれ!!」
「あら、随分と情けない事を言うのね……それでも剣聖の端くれかしら?」
「何!?」


シュンが腕を抑えて跪いた瞬間、彼の背後から聞き覚えのある声が響き、そのまま裏庭を駆け抜けて反鏡剣を構えたシズネがゴウライの元へ向かう。


「刺突!!」
『ぬうっ!?』


シズネが繰り出した刃に対してゴウライは咄嗟に右腕を構えて防ぎ、火花が舞う。唐突に現れたシズネはそのまま剣を構え直すと戦技を放つ。


「乱れ突き!!」
『ぐぐっ……!?』
「おおっ!!シズネ殿!?」
「生きていたのか……」


残像が生み出す速度で刃先を急所に向けて繰り出すシズネを目撃して仲間達は歓喜の声を上げ、シュンは若干苛立ちながらも起き上がる。ゴウライは唐突に現れたシズネに標的を変更させ、大剣を振りぬく。


『がああっ!!』
「月光斬!!」
『ぬあっ!?』


至近距離から迫る大剣に対してシズネは跳躍して回避すると、上空から三日月のような軌道の斬撃を繰り出し、兜を狙う。ゴウライは煩わしそうに彼女に対して大剣を振りぬくが、全ての攻撃をシズネは回避する。


「はっ!!その程度の、攻撃が、当たると思っているの!?」
『うがぁっ!!』
「刺突!!」


上段から振り落とされた大剣の刃を右に回避しながらシズネは兜に向けて刃を突き刺し、危うく隙間から刃を貫かれそうになったゴウライは首を逸らして回避する。ゴウライを相手にたった一人で接戦するシズネに全員が驚き、シュンが疑問を抱く。

シズネが剣聖の中でも指折りの実力者である事は理解していたが、彼女の戦い方はまるでゴウライの攻撃を予測していたように回避し、絶好のタイミングで確実に反撃を与えていた。その見事なまでの戦法によってシズネは優位に立ち、徐々にゴウライは防戦に回る。


「貴女を倒すために、私がどれだけ鍛錬をしてきたと思ってるのよ!!こっちは何年も前から貴女を倒す準備はしてきたわ!!」
『ううっ……!?』


幼少の頃にゴウライに父親が敗れたときから彼女の目標はゴウライに定まり、何年も傭兵稼業を積んで戦闘技術を磨いてきたのはゴウライを倒すためだった。そのためにシズネはゴウライの情報を搔き集め、自分がどのように戦うべきか、どうすれば勝てるのかだけを考えていた。

残念ながらシズネではゴウライの剛剣を一度でも受ければ死は免れず、だからこそ彼女は防御ではなく回避に専念した。自分の攻撃だけではゴウライに通じなければ敢えて相手の攻撃を待ち、迎撃カウンターを利用して反撃を行う。既にシズネの脳内ではゴウライとの模擬戦闘は何十、何百、何千回も繰り返しており、数年の時を費やして彼女は自分の目標を果たすために最大の一撃を食らわせた。


「零距離、刺突!!」
『おあっ……!?』
「やった!?」


遂にゴウライの兜に反鏡剣の刃が直撃し、額の部分に亀裂が生じた。それだけでは収まらず、シズネはレナの姿を思い浮かべながら新たな一撃を加えた。


「弾、突!!」
『ぐああっ!?』


レナが素手の時に多用する「弾撃」の戦技から発想を得た新たな剣技を放ち、身体全身の回転加えた刃が遂にゴウライの兜を破壊した――
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