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最終章 王国編

父と息子

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――同時刻、城内を移動していたレナ達の耳にも裏庭の騒音は聞こえ、3人は立ち止まる。特にシズネは轟音を耳にした時点で何が起きたのかを理解した。


「今の音は……ゴウライよ、奴もここにいるわ」
「は、はあっ!?何を言ってんだよシズネ!?何でそんな事が分かるんだよ……」
「いや、俺もそう思う。凄い気配をここからでも感じる」


シズネとレナは気配感知の能力で裏庭から感じ取れる大きな力に感づくが、どうしてこの状況でゴウライが現れたのか疑問を抱く。だが、轟音が幾度も響いている時点でゴウライが戦闘を始めた事は間違いなく、裏庭に残った仲間達の身を心配する。


「不味いわ……もしもあいつが味方として現れたのならこんなに派手に戦うはずがない。あいつと渡り合える人間なんてこの城の中には一人しか存在しないはず……だけど、あの男は王妃の傍に居るはずよ。裏庭に現れるはずがない」
「ど、どういう意味だよ?」
「ゴウライが敵に回ったのかもしれない……そういいたいんだな?」
「ええっ……最悪な状況ね」


裏庭から響く轟音を耳にしたレナ達は戻るべきか考えたが、既に3人は玉座の間にまで辿り着き、内部から別の気配を感じていた。ゴウライに匹敵する程の強い力が扉の向こう側から感じられ、この先にバルトロス王国の最強の大将軍が存在するのは間違いない。

今から裏庭に戻れば玉座の間で待ち構えているはずの二人を逃がしてしまうかもしれず、だからと言って裏庭に戻らなければゴウライに仲間達が危機に晒されるだろう。悩んだ末にレナはシズネに顔を向け、彼女に頼む。


「シズネ、悪いけど裏庭を任せる。ここは俺とダインで何とかする」
「いいっ!?」
「本気で言っているの……?あの男を相手に貴方達だけでどうにか出来ると思っているの?」


レナの言葉にダインとシズネは驚き、この状況で戦力を分散する危険性は重々理解しているが、それでも仲間を見捨てず、王妃とミドルを倒すにはこの方法しかない。


「ここは俺達が何とかする。出来るよねダイン?」
「ううっ……わ、分かったよ!!どんな相手だろうと僕とレナのタッグなら無敵だからな!!」
「……そうね、レナを頼んだわよダイン」
「えっ……あ、ああ、任せろ……?」


あっさりと承諾したシズネにダインは呆気に取られた表情を浮かべるが、戦力的に考えてもこの場で残るのはレナとダインが最適だった。ミドルに勝てる可能性があるとすればレナしか存在せず、だからといってダインを一人で裏庭に向かわせるのは危険のため、シズネが裏庭に向かうしかない。

3人は覚悟を決めた様に頷き、もしかしたら次に会うときは誰かが死んでいるかもしれない。ゴウライもミドルも決して無傷で勝てる相手ではなく、無意識に3人は拳を突き出す。


「頼んだわよ、二人とも」
「シズネも因縁に決着を付けたらすぐに戻ってきてよ」
「よ、よし……絶対に僕達は生き残るからな!!」


拳を合わせるとシズネは通路を駆け出し、別れ際にレナに意味深な表情を浮かべたが、思い直したように走る事に集中する。自分の伝えたい想いは次に会った時に話す事をと決め、彼女は裏庭へ向かう。残されたレナとダインは緊張した表情で玉座の間の扉を見つめ、中に入ろうとした時、不意にレナは扉に伸ばした手を止めた。


「……?」
「レナ?どうかしたのか?」
「いや、この道……見覚えがあると思って」


レナは通路を見渡すと確かに自分が過去にこの場所を通ったことを思い出し、すぐに16年前に自分が産まれたばかりの頃にこの場所を通ったことを思い出す。こんな状況にも関わらずにレナは記憶をたどるように無意識に通路を進み、慌ててダインが追いかける。


「お、おい!?急にどうしたんだよ……中に入らないのか?」
「待って……あの部屋だ」


玉座の間に繋がる扉を離れてから通路を移動すると、レナはある部屋の前に立ち止まり、扉を開く。そこは自分がかつて転生した時に意識が覚醒した場所であり、この場所から全てが始まった。部屋の中には大きなベッドが存在し、そこには老人のように白髪で痩せ細った男性が横たわっていた。


「あっ……」
「じ、爺さん?一体誰だ……いや、まさかあの顔……!?」
「うっ……」


ベッドで眠っている男性の顔を見てレナは表情を険しめ、ダインは驚いた表情を浮かべるが、二人の気配を感じたのか男性はゆっくりと目を開く。しかし、既に視力は落ちているのか二人の顔を見ても大きな反応を示さず、震える腕で机を指差す。


「み、水を……くれ」
「え?水って……」
「…………」


レナは黙って机の上に置かれたコップを取り出し、空間魔法から水筒を取り出して中身を注ぐ。そのままコップを男性の元へ渡そうとしたが、起き上がる気力もないのか男性は口を開く。


「飲ませてくれ……」
「……どうぞ」


頭を支えながらレナはコップの水を流し込むと、多少咳き込みながらも男性は冷たい水を飲む事に成功し、やがてコップの水を飲み干すとレナに向けて微笑む。


「ありがとう……」
「いえ……」


男性をゆっくりと横に置くと、そのままレナは立ち去ろうとした。ダインは何か言いたげな表情を浮かべるが、レナの後に続く。2人が扉から抜け出そうとした時、ベッドの方角から男性が声を上げた。


「レナ……」
「えっ……?」
「なっ……何でレナの名前を?」


扉を開く寸前で男性が虚ろな表情を浮かべながらレナの名前を口にすると、驚いた二人はベッドの元へ戻り、男性の顔を覗く。だが、そこには既に安らかな表情を浮かべて眠る男性の姿しか存在せず、レナは手を伸ばして脈を確認すると既に止まっている事に気付く。


「死んでいる……」
「そんなっ……ど、どうにか出来ないのか!?」
「無理だ……死んだ人間には回復魔法も、薬も効かない」


レナは父親である「バルトロス13世」の掌を握り締め、悲痛な表情を浮かべる。この男のせいでレナの人生は大きく狂った事は事実だが、最後の最後でどうして自分の名前を告げたのかが分からず、黙って手を離す。乱れていた毛布を掛けなおし、安らかに逝った父親の横顔を見てレナは黙って両手を合わせて目を閉じる。


「行こう……」
「あ、ああっ……」


ダインを連れてレナは今度こそ王妃とミドルが待ち構える玉座の間へ向かうために部屋を退出し、残されたこの国の王は安らかな表情を浮かべたままベッドに横たわり続けた――
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