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最終章 王国編

王城内では

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――王城の正門と裏門と地下で革命団と王国兵の衝突している頃、牢屋内でも異変が生じていた。レミアと共に捕まったゴウライはその身を包んでいた鎧を引き剥がされ、中身の美しい姿を露わにした状態で拘束されていた。


「……まさか、あの破壊剣聖の正体がこれほど綺麗な婦人だとは思いませんでした」
「ふはははっ!!綺麗とは照れるな、もっと褒めてもいいんだぞ?」


レミアの隣の鉄格子でミスリル製の鎖で全身を拘束されたゴウライは笑い声をあげる。彼女は王妃の要求に対して半分だけ受け入れ、自分が抵抗しない代わりに大人しく拘束されるが、王妃のために戦うような真似はしないと断言した。その結果、彼女は鎧と武器を回収され、地下牢へと閉じ込められる。

ゴウライはマリアに仕えていたのは別に彼女に忠誠を誓っていたわけでもなく、そちらの方が自分にとっては都合が良いと考えていたからである。彼女の傍に居れば強者と戦える機会に恵まれ、冒険者として活動する事も別に嫌いではなかった。むしろ後輩の冒険者に指導をする事で彼等がいずれ強くなり、自分を超える逸材に巡り合えるのではないかと考えてゴウライはマリアの傍に付いていた。

彼女の目的は己よりも強い人間との戦闘を求め、もしも自分が負けたら潔く剣士を引退し、後の人生は他の剣士の育成に励もうと考えていた。だが、長い時を生きてきたが未だに自分を超えるような存在は現れず、彼女は退屈していた。別に自分よりも強い存在と戦うだけならばマリアや上位の竜種を相手にすればいいだけなのだが、彼女が求める強者とは自分よりも強い剣士だった。

しかし、そんなゴウライがどうして王妃の要求を受け入れたのかというと、彼女はマリアに対して恩義を感じていたからこそあっさりと拘束を受け入れる。自分のために協力してくれたマリアを人質に取られればゴウライも従うしかなく、そのうちに他の人間が助けに訪れるだろう楽観的な思考で牢屋生活を楽しむ。


「それにしてもあいつらの吾輩の姿を見たときの驚き様は凄かったな!!兵士など、吾輩の姿を見て卒倒する人間まで居たぞ」
「私だって驚いてます。このような状況でなければきっと私も取り乱していたでしょう……それにしてもゴウライさんはこんな状況なのにどうしてそんなに元気なのですか?」
「がははは!!困った時こそ笑え!!笑えば暗い気持ちなど吹き飛ぶからな!!」
「笑えませんよ……」


レミアは自分と違って拘束された状態でも変わらないゴウライに溜息を吐き出し、それでも話し相手が出来ただけでも嬉しかった。彼女は闘技祭の後に王妃に捕まり、逃げられないように地下牢へ閉じ込められ、一人ぼっちで過ごしていた。人間と出会うのは食事の時間ぐらいだけでしかも運んでくる女性兵士は喋る事を禁じられているのかレミアに目も合わせずに早急に立ち去る。

現在のレミアは魔鎧術が扱えないように全身に魔力を吸収する包帯で拘束され、自由に動かせるのは顔だけだった。こちらの包帯は常に魔力を吸収するわけではなく、魔法の力に触れると魔力を吸収する仕組みらしく、常時魔力を奪われるわけではない。外見がミイラの様になっている点だけは気に入らないが、1日に1度の割合で新しい包帯へ取り換えらえる。


(どうにか脱出したいところですが、私が抜け出せば使用人達の命が危うい。彼女達だけでも守らないと……)


これまで家族のように育ててくれた使用人の命を人質にされたレミアは王妃に逆らえずに拘束され、時折王妃が訪れてはレミアの説得を行う。レミアの「聖鎧」の能力は王国にとっても貴重な能力のため、王妃としては手放したくはないのだろう。

この地下牢にはシズネが捕まっている地下牢とは異なり見張りは存在せず、ゴウライが訪れるまではレミアしか存在しなかった。理由は孤独感を味わわせ、自分の状況の絶望感を煽るためかとレミアは考えていた。実際にゴウライが訪れるまでの間は一人で過ごしていたレミアの精神は大分消耗していた。


(性格的には苦手な方ですが、この状況でも明るい方がいるのは救われますね……)


ゴウライが訪れた事でレミアの精神も大分安らぎ、誰でもいいので話し相手が欲しかった彼女はゴウライと会話を続ける。彼女は現在の王国の状況を尋ねようとした時、普段は食事の時間や包帯を取り換える時にしか訪れない地下路応に一人の老人が訪れた。


「ほっほっほっ……随分と楽しそうじゃのう。罪人という立場をりかいしておらんのか?」
「貴方は……!?」
「ぬ?なんだこの小汚い老人は?まるで死人のような嫌な気配を纏わせているが……」
「初対面の人間相手に随分な言い草じゃな……まあ、死人という点は間違いではない。既にこの身体は半分は朽ちかけておるからのう」


地下牢に現れたのは100才は超えているのではないかという程に年老いた男性が訪れ、無数の闇属性の魔水晶を取り付けた金属製の松葉杖を使って二人の元に歩む。近づくだけで異臭が漂い、その臭いにレミアとゴウライは眉をしかめる。


「臭いぞ爺さん、ちゃんと風呂は入っているのか?」
「ふん、生憎とこの身体では他の人間の手助けが無ければ風呂に入る事も出来んからな。最近は布で身体を洗う事も難しくなったわ」
「オウネン様……どうして貴方がこちらに!?」


レミアはバルトロス王国の公爵家の中でも最も歴史が古い「シャドウ家」の当主が現れた事に警戒心を抱き、そんな彼女に対してオウネンは腫物を扱う様な態度で距離を取る。


「相変わらず威勢のいい女子じゃのう……忌々しいほどに聖属性の魔力が満ちた女め、お主に近付くだけ浄化されそうになるわ」
「浄化だと?昇天の間違いではないのか?」
「はっ!!生意気な口を叩く女じゃ、ほれ?少しは女らしく喘いでみたらどうだ?」
「おい、吾輩の胸を杖でつつくな!!何なんだこのエロ爺は!?」


オウネンはわざとらしくゴウライの胸元を杖先で刺激すると、流石に身体を弄ばれる事には抵抗感があるのかゴウライは怒鳴りつけると、オウネンは鼻で笑って杖を下ろす。


「王妃様の命令でな、次期国王となられるあの方のためにお主達の我が秘術を掛ける事にした。安心せい、痛みはない。お主達は我等の命令だけを聞く傀儡人形に変えてやろう」
「まさか……洗脳ですか!?」
「そんな物と一緒にするな!!儂の魔力でお主等の精神に触れ、人格その物を崩壊させるだけじゃ……」
「人格だと?」


鍵を開けて牢内に入り込んできたオウネンは醜悪な笑みを浮かべ、自分の呪術師の能力の一端を明かす。


「我等が代々扱う呪術は死霊使いネクロマンサーや闇魔導士よりも歪な魔術じゃ……この能力を使えば相手の寿命を削り取る事も、あるいは寿命その物を奪い取る事も容易い。更に相手の頭部に触れる事が出来れば記憶を読み取り、精神を崩壊させる事も出来る」
「何だと……!?」
「オウネン、貴方はそこまで堕ちましたか!?」
「ふん、小娘が偉そうにでしゃばるな!!儂が王国のためにどれだけの人間を廃人にしたと思っている?まあいい、まずは貴様からだ!!」


オウネンは枯れ木のような腕を伸ばしてレミアの額に触れ、闇属性の魔力を利用して彼女の脳に直接刺激を与えようとした。だが、オウネンが額に触れた瞬間にレミアの額に「聖属性の聖痕」が光り輝き、オウネンは悲鳴をあげて倒れ込む。
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