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最終章 王国編

夢の世界の特訓

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「――うう、今度はヒトミンの大群が押し寄せてくる……俺が何をしたって言うんだ」
「もしも~し!!起きてます?」
「はっ!?今度はアイリスの大群か!?」
「何を言ってんですか、私は一人しかいないでしょう?」
「あれ?本当だ……ていうか、アイリス?何でここに居るの?遂に実体化したか」
「違いますよ、ここは私の作り出した世界です」


レナは揺り動かされて目を覚ますと、視界にアイリスの顔が映し出される。どうして彼女が現実に居るのかと驚いたが、よくよく周囲を確認すると過去に何度か訪れた事がある「夢の世界」だと気づき、どうやら再びアイリスに呼び出された事を悟る。

この世界では思い描くことが現実になるため、現実世界では会えないアイリスとも邂逅する事が出来る事を思い出し、数日ぶりに再会を果たした彼女に事情を問う。


「前に一週間ぐらいは連絡出来ないとか言ってたのにもう会えるようになったの?」
「いえ、まだ完全にレナさんの風の聖痕が馴染んでいないので交信は出来ません。ですけどこの世界でならどうにか話せるようになりました。だけど、以前と違って時間の概念までは操れないんですよね」
「どういう事?」
「つまり、この世界で過ごしている間はリアルタイムで現実世界の方も時間が経過しています。なのでレナさんの本隊が目を覚ましたらこの世界からはじき出されるので気をつけて下さい」
「そうなのか……前の時は時間の流れを遅くさせてたんだっけ」


以前は夢の世界の時間の流れはアイリスが操作する事が出来たらしいが、現在は現実と同じ時間軸で動いているらしく、ここでの1時間は現実でも1時間過ごすらしい。それでもアイリスと交信出来た事は喜ばしく、レナは現在の状況を聞き出そうとした。


「アイリス、色々と聞きたいことがあるんだけど……」
「王妃の様子ですね?私がレナさんを呼んだのはちょっと不味い事態が起きたので、その事を説明するためにどうにか呼び出したんですよ」
「また何か問題が起きたのか……」


アイリスが自分を呼び出したという時点で悪い予感を覚えていたレナはため息を吐き出し、今回は時間に余裕がないのかアイリスは手短に話す。


「実は王妃の元に剣聖が集まっています。シュン、ロウガ、ゴウライと言えば分かりますね?」
「あの三人か……え、何で王妃の所に?まさか3人で乗り込んだんじゃ……」
「違います。この3人はマリアを人質に取られて王妃に従う様に脅迫されたんです」
「……マジか」


マリアが王妃と協力関係を結んでいるカレハに捕まったという話は真実だったらしく、マリアの命と引き換えに彼女に仕える剣聖達を呼び寄せ、王妃は戦力を増加させようとしていた。


「この王妃の提案に3人は承諾し、現在は王城で見張りを付けられた状態で待機しています。このまま革命軍が乗り込めば戦闘は避けられません」
「くそっ……こんな時に3人の剣聖が敵に回ったのか」
「それだけじゃありませんよ。シズネとレミアは拒否しましたが、ジャンヌも王妃の要求を受け入れて現在は釈放されています。つまり、このまま革命団が作戦を決行すれば5人の剣聖と戦う事になります」
「……最悪だな」


まさか氷雨に所属する全ての剣聖と戦うことになるなど予測できず、レナはため息を吐き出す。剣聖の称号を持つ人間は並の剣士とは比べ物にならない技量を誇り、正に一騎当千の実力者ばかりである。特にゴウライは単独で竜種を撃破する最強の剣士と言われ、もしかしたら実力はミドルを勝るかもしれない。

作戦通りに革命団が動けばミドル、カトレアの大将軍を筆頭に王妃の側近達、更には数多くの王国兵に加えて剣聖5人と戦わなければならない。そうなれば現在の戦力では勝ち目が薄い。それでも今日中に作戦を実行しなければナオの処刑されてしまう。


「さらに悪い知らせがあります。レナさんが集めたカラドボルグ、エクスカリバーは敵の元にあります。しかもゴウライはデュランダルを所持していますし、レミアさんから回収されたアスカロンも警戒しなければいけません」
「でも、聖剣は王族しか扱えないんでしょ?」
「忘れたんですか?ナオの妹二人は王妃に心酔しています。この二人も王族である以上は聖剣を扱う資格を持っています」
「ああ、そういえばそうだった……八方塞がりか」
「いえ、レナさんにも勝機はあります。聖剣ならレナさんも持っているじゃないですか」
「レーヴァティンの事?」


獣人国に転移した際、レナは偶然にも遺跡を発見して手に入れた「レーヴァティン」の存在を思い出す。元々はダインが発見した代物だが、紅蓮と交換する事で受け取った聖剣を異空間に収納したままだと気づく。


「そういえば異空間に入れっぱなしだった。でも、あっちは聖剣3本で俺が1本なら話にならないんじゃないの」
「何言ってんですか、聖剣を使用するには膨大な魔力を必要とします。それはレナさんもご存じじゃないですか?」


過去に腐敗竜との戦闘の時、レナはカラドボルグを使用した際に大量の魔力を消耗した事を思い出す。聖剣は強力な兵器であると同時に使い手を選び、生半可な人間には決して扱えない。そして聖剣を扱える人間には条件が存在する。


「それに聖剣にはレベル制限が施されています。今のレナさんは問題ないですけど、王女たちの方は条件を満たしていないので完全に聖剣の力を扱えませんよ」
「あ、そうか。そういう設定だった」
「設定とはどういう意味ですかっ」


聖剣には一定のレベルを超える人間にしか扱えないように細工が施されており、現時点ではレナ以外の人間の中に聖剣を完全に扱いこなせる人間はいない。なので聖剣の数が相手の方が有利でも、真に聖剣の力を使いこなせるのがレナだけならば戦力差を覆す事が出来た。


「とはいっても聖剣を使うときはここぞという場面だけにしてください。いくら今のレナさんでも聖剣を多用すれば肉体が持ちませんから」
「分かってるよ。カラドボルグでもう懲りたよ」
「それならいいです。それと、私の言ったことを覚えてますか?風の聖痕とレナさんの剣技を組み合わせた新しい技を作ると約束しましたよね?」
「……ぷいっ」
「こ、この人……完全に忘れてましたね!!」


わざとらしく顔を逸らすレナにアイリスが憤るが、ここまでの道中は色々とあって時間の余裕がなく、技の開発などしている暇がなかった。その事はアイリスも承知していたので仕方なく彼女は自分の力を貸すことにした。


「まあ、レナさんが大変だったのは知ってますのでこれ以上は怒りません。ですが、もう時間に余裕がないので今から練習して貰いますよ!!」
「なるほど、この世界で技を開発すればいいのか」
「そういう事です。幸いにもここではどれだけ魔法を使おうとレナさんの肉体に負担はありませんし、怪我をしても一瞬で治す事が出来ます。それに対戦相手も幾らでも生み出せますからね」
「つまり、特訓に集中出来るわけか……それならアイリス、俺の対戦相手にちょっと注文があるんだけど――」



――夢の世界で特訓を行い、新しい技を開発するように促すアイリスに対して仮想の敵を作り出す際にレナはある人物を指定した。



※今回はちょっと報告があります。

カタナヅキ「今回の投稿は私自身が公開ボタンを押しました。理由?打ち間違えたからさ!!」(ノД`)・゜・。
アイリス「全く紛らわしい……私のせいだと勘違いされたらどうするんですか」
カタナヅキ「それと外伝のヒロインルートに関しても報告します。今の所は最初のヒロインの話は書き上げました。色々と考えた末、やはりこの作品の最初のヒロインはこの人しかいないと思って書きました。他にもアイリスとナオのルートを執筆中です」
アイリス「おおっ……あれ、私も!?実体がないのにヒロインとは……(; ゚Д゚)」
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