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最終章 前編 〈王都編〉

剣鬼と剣姫

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「うおおおおおっ!!」
「ぐうっ……おおっ!?」
「発頸!!」
「がはぁっ!?」


大盾を構えた騎士に対してレナは身体能力を最大限まで補助魔法で強化すると、勢い良く反鏡剣を叩きつけて吹き飛ばす。その一方で反対方向ではアイラが右手を添えた状態で強烈な衝撃波を生み出し、盾を構えた兵士を後方に立つ集団ごと吹き飛ばす。

レナとアイラは大盾を装備した兵士の囲いを抜け出すと、同時に剣を振り祓いながら兵士の集団を潜り抜ける。その力と速度に兵士達は圧倒され、次々と悲鳴が上がった。


「ぎゃああっ!?」
「うわぁっ!?」
「つ、強い……!!」
「馬鹿者、怯えるな!!全員で囲んで押しつぶせ!!」


怖気付く兵士達を隊長が怒鳴りつけるが、囲もうにも二人の移動速度が速すぎて兵士達には対応できず、まるで獣人族を相手にしているような身軽さと素早さを誇るレナとアイラに兵士達は戸惑う。


「退け、俺が相手をしてやる!!」
「おおっ、ゴゴウか!!やってしまえ!!」
「デカいな……巨人族か」


情けない姿を見せる兵士達の中から巨人族と思われる青年が現れ、背中の棍棒を握り締めてレナの前に現れる。棍棒は銀とミスリルの合金らしく、レナの前に躍り出ると彼に目掛けて振り下ろす。


「死ねっ!!兜落とし!!」
「受け流し」
「うおおっ!?」


頭上から叩きつけようとしてくるゴゴウに対してレナは反鏡剣の刃を構え、剣の刃先で棍棒に触れると別方向に攻撃を移動させ、体勢を崩したゴゴウは膝を付く。その隙にレナは反鏡剣を握り締めていない腕を伸ばし、体勢を崩したゴゴウの顔面に向けて掌底を放つ。


「衝風!!」
「うげぇっ!?」
「ば、馬鹿な!?」


掌から放たれた風圧によってゴゴウという巨人族は脳震盪を引き起こし、鼻血を噴き出しながら倒れ込む。その光景を見て隊長は目を見開き、ただの一撃で巨人族の兵士を打ち倒したレナに恐れを抱く。

ゴゴウを倒したレナは反鏡剣を鞘に納め、右腕の風の聖痕を利用して周囲に存在する精霊を呼び集めると、自分の周囲に風の魔力を纏わせる。そして集めた風の魔力を纏わせた状態でレナは兵士の集団に向けて駆け出す。


「弾……」
『ひいいっ!?』
「馬鹿者どもが!!戦え、戦うのだ!!」


拳を構えるレナに対して兵士達は道を開き、隊長が存在する場所まで開かれる。慌てて隊長は剣を構えるが、そんな隊長に対してレナは勢いよく地面を両足で踏み込み、足の裏から足首、膝、股関節、腹部、胸、肩、肘、腕の順番に身体を回転及び加速させ、勢い良く拳を撃ち込む。


「撃ぃっ!!」
「ぐぅっ……おおおおっ!?」
『ぎゃあああっ!?』


レナが扱う「弾撃」の戦技と風の聖痕の力を組み合わせた一撃が放たれ、右拳が突きだした空間に竜巻が発生し、隊長を含め多くの兵士を吹き飛ばした。その光景を見たアイラは驚いた表情を浮かべ、砲撃魔法が扱えないはずのレナが強力な魔法を使った事に感動を覚える。


「レナちゃん……まさか魔法も使えるなんて」
「隙あり!!……ぐはぁっ!?」
「あら、無粋な人ね……人が息子の成長を喜んでいるところを邪魔しないで欲しいわ」


涙目でレナの成長を感動するアイラの背後から兵士が切りかかるが、目にも見えない速度で兵士の顔面が凹み、闘拳から返り血を流すアイラがゆっくりと振り返る。その彼女の姿は普段の優しい姿とは異なり、異様なまでの気迫を放つ。

剣と拳を極めたアイラの渾名はいくつかあるが、その中には「鬼姫」という名前がある。普段は温厚で滅多に怒らないアイラだが、彼女が本気で怒ると村が一つ壊滅するほどに暴れ狂うと言われ、実際にこの噂は間違いではない。かつてアイラが冒険者時代の時、彼女は妹の陰口を告げた冒険者集団に喧嘩を売って村を一つ犠牲にした事がある。その後の後処理は大変で一時期はS級の階級を剥奪しかけたという。

アイラは闘拳の返り血を振り祓いながら兵士と向き合い、彼等からバルを逃がすために時間を稼いでいたのが、レナがここに訪れた以上はその必要はないと判断して彼女は本気で動く事にした。そのアイラの表情を見た者達は後にこう語る「女の面の皮を被った鬼」と相対したと――



「――乱撃ラッシュ!!」
『うぎゃあああああっ!?』



次の瞬間、アイラの腕が残像を生み出す速度で両拳が突きだされ、拳の間合いに存在した兵士達が吹き飛ぶ。その破壊力はまるで巨人族にも匹敵し、彼女は兵士達を次々と殴り飛ばす。その光景を見て間合いの範囲外に居た兵士さえも悲鳴をあげ、慌てて距離を取る。


「ひいいっ!!ば、化物だぁっ!?」
「馬鹿、隊列を乱すな!?」
「おい、押すな……ぎゃああっ!?」
「うふふっ……逃がさないわよ」


瞳を怪しく輝かせながらアイラは逃げ惑う兵士の一人を掴むと、無造作に放り投げる。外見はか細い女性だが、実際の所は巨人族にも劣らぬ筋力を誇り、恐らく格闘家としては未だに全盛期を誇るアイラに対して兵士達は恐怖する。しかし、兵士の中には冷静な人間も残っており、まともに戦っても勝ち目がないならば魔法を使用できる兵士を呼び出す。


「魔術兵!!奴を撃て!!」
「え、しかしこんな街中で砲撃魔法を撃てば……」
「街の被害など後でどうにでも出来る!!まずはこいつらを仕留めろ!!」
「は、はい!!」
「あら……ちょっと不味いわね」


魔術師の職業で統一された兵士の集団が現れ、杖を構えると流石にアイラも不味いと判断したのか他の兵士の集団が存在する方向へ逃げる。こうすれば味方の被害を恐れて攻撃を中断するかと思ったが、隊長は躊躇せずに攻撃を命じた。


「よし、撃て!!一斉射撃だ!!」
「しかし、この位置では他の兵士が……」
「構わん!!早く撃て!!」
『ええっ!?』


味方の被害も考えずに攻撃を命じた隊長にアイラの近くに存在した兵士達は驚愕の声を上げるが、魔術兵は杖先の魔石を構えて砲撃魔法の準備を行い、それを見たアイラは咄嗟に両腕を交差して攻撃に備える。


「放て!!」
「フリーズランス!!」
「フレイムアロー!!」
「ウィンドスラッシュ!!」
「くうっ……!?」


本当に兵士達が進路上に存在するにも関わらずに魔法を発動させた魔術兵にアイラは防御に専念しようとした時、彼女の前に人影が現れ、アイラを守るように両腕を広げたレナが母親を下がらせる。


「母上!!」
「レナちゃん!?駄目ぇっ!!」


自分を守るために現れたレナにアイラは咄嗟に手を伸ばすが、魔術兵の杖先から次々と砲撃魔法が放たれ、レナの身体を飲み込む。その光景を見たアイラは目を見開くが、どういう事なのかレナの身体に青色の炎が纏わり、砲撃魔法を正面から掻き消す。


「な、何だ!?どうなっているんだ!?貴様等、何をしている!!」
「そ、そんな……我々の魔法が通じません!!こんな事、有り得ない……!?」
「何が起きているんだ!!あの青い炎は一体……!?」
「……魔鎧術だよ」
「れ、レナちゃん……無事なの?」


全ての砲撃魔法をレナはホネミンから教わった魔力の鎧で受け止め、無傷で防ぐ事に成功する。魔力で構成した鎧は外部からの魔法に対して途轍もない耐性を誇り、全ての攻撃を受け切ったレナは青色の炎を纏った状態で魔術兵の元へ向かい、落ちていた大盾を拾い上げて魔術兵の集団を殴りつけた。


「おらぁっ!!」
『いぎゃあああっ!?』
「や、止め……ぐぎぃっ!?」


攻撃を指示していた隊長の頭上に大盾を叩きつけると、満足したレナは魔鎧術を解除してアイラと向き合う。息子に見つめられたアイラは彼の意図を察し、そのまま二人は隊長を失った事で混乱を引き起こした兵士の集団から逃げ出した――
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