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最終章 前編 〈王都編〉

ハヅキから託された物

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「俺を殺したいのか?」
「殺してやる……絶対にだ!!」
「それが御祖母様に逆らう事になっても?」
「何だと……?」


レナの言葉にラナは呆気に取られ、そんな彼女にレナは右腕を突きだす。そこにはハヅキに託された聖痕が光り輝き、まるでレナを守るように風の精霊を呼び集める。その光景にラナは目を見開き、聖痕から感じられる魔力の中にハヅキの力を感じ取った。


「馬鹿な……この魔力はまるで、あの方の……」
「御祖母様、いやハヅキさんの魂はまだここに残っている。ほんの僅かだけど……俺を守ろうとしている」
「出鱈目だ!!」
「ならその短剣で俺の腕を斬れよ。さあ、やってみろ!!」
「レナ!?」


ラナはレナの言葉を信じられず、短剣を両手で握り締めながら睨みつける。頑なに自分の言葉を信じようとしないラナにレナは仲間達を退かして近づき、右腕を差し出す。無防備に突きだされた腕を見てラナは唖然とするが、近づくほどに感じ取れる聖痕の魔力に圧倒される。


(嘘だ……どうして、どうしてハヅキ様の魔力を感じるんだ)


全く同じ魔力を持つ人間は存在せず、祖母と孫の関係であるハヅキとレナでも例外ではなく魔力の質は異なる。だが、右腕から感じ取れる聖痕の魔力の中には確かにハヅキと同質の魔力が滲んでおり、その事実がラナの決心を鈍らせた。


「どうした?切らないのか?」
「嘘だ……ハヅキ様が、本当に……?」
「あの人は俺を守るために死んだ……俺は守れなかった。でも、あの人は最後にこの聖痕と自分の娘の事を任せて死んだ。だから俺は死ぬ訳にはいかない」
「そんな……」
「ハヅキさんは俺の中でまだ生きている。この力はハヅキさんの託した意思その物だ」


ハヅキが死ぬ間際、彼女はレナに自分から離れてしまった娘の事を頼んだ。その約束を果たせるかはレナも分からないが、それでもハヅキの意思を汲んで彼女を願いを叶えるためにも戦う事を誓う。

自分の主人の魔力を感じ取った事でラナは短剣を落とし、レナの言葉が嘘ではない事を悟る。聖痕を受け継ぐには前の継承者が次の人間に託す以外に方法ない。つまり、ハヅキは死ぬ前にレナに聖痕を託したという事実をラナは理解した。


「ああっ……ハヅキ様」
「あんた、御祖母様とはどういう関係だったんだ」
「……あの方は私の名付け親だ。私の世代の緑影は全員がハヅキ様に名前を与えられている。私達は全員孤児だった……親もおらず、面倒を見る人間も居ない私達を拾い上げて育て上げたのはハヅキ家だ」


緑影に所属する森人族の中には孤児も多く、彼等はハヅキ家に引き取られて育てられている。本来、彼等の名前は番号が授けられるのだが、ハヅキはそれとは別に彼等一人一人に名前を与えていた。


『貴方達は緑影の一員です。ですが、いつか暗殺者以外の生き方を送る日が来るかもしれません。だから貴方達には名前を授けましょう』


生まれたときから暗殺者として育てられた緑影の隊員達は初めてハヅキに名前を付けられたときの事を覚えており、最初は彼女の意図が読めずに困惑した。暗殺者以外の生き方など考えた事もない彼等は自分の名前という物に困惑したが、不思議と嫌な思いはしなかった。

結局はハヅキが名前を与えた森人族は誰一人として緑影から離れた者はいなかったが、ハヅキが暗殺者以外の人生を送る道もある事を与えてくれた事でラナはハヅキが自分達の事を「道具」ではなく「森人族にんげん」として扱ってくれたことを理解する。

緑影という存在はヨツバ王国の中でも特殊な存在のため、彼等は王国に不利益をもたらす存在を討つために作り出された組織である。だが、その任務の殆どは暗殺や情報操作の仕事の溜め、ヨツバ王国の森人族の中には彼等の存在を忌避する存在も多い。国のためには必要な存在だと理解してはいるが、それでも騎士道精神を重んじる森人族には緑影を嫌う者は少なくはない。

だが、緑影を管理するハヅキだけは彼等の扱いに不満を覚え、ヨツバ王国がこれまでにどれほど緑影という存在に支えられているのかを訴え続けた。だからハヅキは彼等に名前を与え、緑影を離れて普通の森人族として生きられる道も与えた。


(ああっ……どうして、ハヅキ様が……)


ラナは自分にとっては親同然に慕っていたハヅキが死亡したという事実に涙を流し、地面に跪く。だが、ここで彼女はある疑問に至り、どうしてハヅキが死亡したにも関わらずに自分達にその情報が回ってこなかったのかを考える。


「ハヅキ様は、本当に死んだのか……?」
「死んだ……ここにいる全員がそれを見ていた」
「ああ、俺達も見ていた」
「……守れなかった」


レナ達にラナは問いかけると、全員が申し訳なさそうに顔を伏せる。その態度が嘘に見えなかったラナはますます疑問が深まり、どうして自分達にその情報が出回っていないのか疑念が高まる。



――ラナは数日前、ハヅキからの命令という名目で命令を受けた。その内容は冒険都市付近に滞在している「ティナ王女」を王国まで連行するようにという内容だった。最悪の場合、ティナは殺害しても構わないという命令内容にラナ達は困惑した。

だが、今回の命令を行ったのはハヅキという報告にラナ達は逆らう事は出来ず、出来る限り王女を生け捕りにする形で任務に挑む。しかし、ここで冷静に考えればハヅキからの命令とだけ説明されただけでハヅキ本人とはここ数日の間は顔を合わせておらず、それどころか他の王族の居所も把握していない。

緑影が冒険都市まで同行したのはハヅキの命令で王族の身辺の警備強化のはずだが、その自分達がどうして王族であるティナを捕縛し、ヨツバ王国へ連行しなければならないのかと考えた途端にラナは頭痛に襲われる。


「ぐあっ……!?」
「何だ!?」
「どうした!?」


頭を抑えて悲鳴をあげたラナにレナ達は驚き、ラナは頭を抑えながら額を地面に押し付け、脂汗を流す。


「任務、遂行……ハヅキ様、違う……ティナ王女……?」
「おい、急にどうしたんだ!?だ、大丈夫なのか?」
「これは……まさか!?」


ラナの様子を見てダインは心配そうに声を掛けると、エリナは何か心当たりがあるのか彼女の元へ赴き、ラナの顔を掴んで無理やりに視線を合わせる。


「ラナの姉さん!!聞こえますか?しっかりして下さい!!」
「ううっ……あっ?」
「魚の姉さん!!水を頭からかけてください!!」
「んっ!!」


エリナの言葉に反応してコトミンは水筒の水をラナの頭に注ぐと、冷たい水を浴びて意識を取り戻したのかラナは目を見開く。


「ぶはっ!!はあっ、はっ……エリナ、か?」
「姉さん、正気に戻りましたか?」
「おい、何が起きたんだ?」
「……洗脳だ」


ゴンゾウの問いかけにエリナではなくラナが代わりに答え、彼女は忌々しそうに地面に拳を叩きつけ、何が起きたのかを説明した。


「そうだ、全て思い出したぞ……私に命令を与えたのは奴等だ。ティナ王女に狼藉を行い、牢獄に送り込まれた奴と人間の男……どうして奴等が!!」
「落ち着いて下さい姉さん!!一体誰なんですかそいつらは?」
「……ライコフだ」
「「ライコフ!?」」
「ライ……コフ?」


ライコフの名前が出た瞬間にレナとエリナは驚き、その一方で事情を知らないゴンゾウとダインとアインは顔を見合わせ、コトミンに至っては存在を忘れていたのか不思議そうに首を傾げる。




※まさかのライコフ再登場フラグ……期待していた読者はいるのかどうか(笑)


アイリス「わ、分かりました。これは渡します……だから、私の挿絵の情報を教えなさい!!」
カタナヅキ「いいだろう……残念ながら3巻のお前の出番は絶望的だ。以上」

アイリス  殴られる作者
  ↓      ↓
(# ゚Д゚)つつつ))Д`)・゜・。
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