上 下
488 / 2,083
放浪編

緑影のラナ

しおりを挟む
「姿を見せろエリナ!!正々堂々と戦え!!」
「この臆病者が……!!」
「王国四騎士の恥知らずがっ……卑怯者めっ!!」


倒れた部下達が負傷した箇所を抑えながら騒ぎ出し、その姿を見て隊長は彼等が敢えてエリナの注意を引くために暴言を吐いている事を悟る。暗殺業を生業とする緑影の人間が「卑怯」などという言葉を使うはずがなく、戦闘不能に追い込まれながらも隊長のために部下達はエリナを罵倒して自分達に狙いを移そうとした。

100年以上も付き合いのある部下達の配慮に隊長は頷き、森の中で隠れているエリナの様子を伺う。片腕を封じられた状態でも隊長はエリナに反撃する術を持ち合わせており、腕の中に仕込んでいた短剣を取り出す。エリナが隠れている位置さえ特定できれば「投擲」のスキルで短剣を狙い撃つ事は難しくはなく、狙うとしたらエリナが矢を打ち出した直後である。


(見事だエリナ、お前を侮った自分が恥ずかしい)


次の攻撃でエリナか自分の命が確実に失う事を覚悟した隊長は内心でエリナを侮った事を謝罪する。新参者の兵士が王女ティナのお気に入りという理由で王国四騎士に選抜されたという事に隊長は不満を抱いていたが、そ自分のの認識が間違っていた事を悟る。

ただの成り上がり者が緑影の中でも精鋭である自分達をここまで追い詰めるはずがなく、緑影の隊長である「ラナ」はエリナの実力を認めた。彼女の狙撃の腕は間違いなく王国四騎士の名に恥じぬ程の正確性を誇り、あと数年も修行すれば一流の狩人として誰もが認める存在になるだろう。

しかし、いくら相手の事を認めようと任務の妨げになるのならば容赦はせず、短剣を背中に隠しながらラナは茂みの様子を伺う。一瞬でもエリナの注意が自分以外の存在に向いたら短剣を投擲して仕留める自信はあり、彼女の行為を察した部下達は喚き散らす。


「エリナ!!我々は王女様を連れ出す様に命じられている……しかし、最悪の場合は殺害の許可も下りているぞ!!」
「貴様が姿を現さないのならばティナ様はここで殺す!!」
「さあ、姿を現せ!!そうすれば命は奪わん……約束する!!」


部下達の言葉にラナは茂美の様子を伺い、一瞬だけエリナが躊躇したようにボーガンの照準を揺らした事を見抜く。それを見たラナは最後の警告を行う。


「エリナ、これが最後の警告だ!!我々に投降しろ、そうすればティナ王女もこの白狼種も見逃してやる!!」


ラナの言葉が森中に響き渡り、しばらくの間は沈黙が訪れた。ラナはエリナが投降する事を願い、これほどの逸材を逃すのは惜しいと考えた。森人族は「約束」を尊ぶ存在なので彼女達の言葉には嘘はなく、もしもエリナが投降すれば宣言通りに彼女を許すつもりだった。



――警告から十数秒経過すると、茂みの中からボーガンを取り出したエリナが姿を現す。その様子を屋敷の敷地から確認したラナは彼女が投降する気になったのかと思ったが、姿を現したエリナはボーガンを下ろさずに叫ぶ。



「アイン!!今っす!!」
「キュロロロッ!!」
「何だと!?」


エリナが叫び声を上げた瞬間、森の中からアインの雄たけびが響き渡り、木々が震える。そのあまりの音量に聴覚が人間よりも優れている森人族であるラナ達は咄嗟に耳を抑えてしまい、その隙を逃さずに事前に耳栓をしていたエリナはボーガンを射抜く。


「強化射撃!!」
「うぐぁっ!?」


戦技を発動させて射抜かれた矢はラナの右足の爪先に突き刺さり、鏃が地面にめり込んで足元を固定させる。激痛を味わいながらもラナは足に突き刺さった矢を抜こうとしたが、余程深く刺さっているのか引き抜けない。


「くそっ!!こんな物……!?」


矢が地面から抜けないと判断したラナは引き抜くのを辞めて突き刺さった箇所を短剣で切ろうとしたが、自分の足に刺さっている矢が「黒色の金属」で構成されている事に気付き、短剣の刃で切りつけても掠り傷一つ与えられない。


「何だこれは!?こんな物……ぐあっ!?」
「アダマンタイト製の矢だから簡単には抜けないよ」
「っ!?」


背後から声をかけられたラナは振り返ると、何時の間にか屋敷の敷地内に少年が立っており、その足元には気絶した部下が倒れていた。その光景を見たラナは少年の顔を見て恐怖の表情を浮かべる。


「お前は……!?」
「人の家の前でよくも色々と騒ぎを起こしてくれたな……容赦はしないぞ」


退魔刀を抱えたレナはラナの元へ近づき、鋭い視線を向ける。その瞳を異様な威圧感を感じ取ったラナは冷や汗を流し、握りしめていた短剣を投げつけた。


「近寄るなっ!!」
「おっと」
「なっ!?」


だが、3メートルの距離から投げられた短剣に対してレナは何事もないように空中で掴み取る。ラナはこれまでの暗殺稼業の中で自分の短剣を正面から受け止めた人間など一度も遭遇した事はなく、しかも人間の子供に受け止められたことに動揺を隠せない。


「な、何者だ……お前は一体何なんだ!?」
「……この家の住居人だよ。元、だけどね」


受け止めた短剣を握り締めながらレナはラナを睨みつけ、自分が住んでいた屋敷を荒らす存在に対して若干の怒りを抱き、短剣を放り捨てて退魔刀を引き抜いた。




※ちょっと中途半端ですが、これで今回の章は終了します。それと2話投稿も申し訳ありませんが終了となります……ですが、物語も終わりが見えてきましたので気合を入れて投稿しますよ!!

( ゚Д゚)つつつキーボード
しおりを挟む
感想 5,089

あなたにおすすめの小説

最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された「霧崎ルノ」彼を召還したのはバルトロス帝国の33代目の皇帝だった。現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が帝国領土に出現し、数多くの人々に被害を与えていた。そのために皇帝は魔王軍に対抗するため、帝国に古から伝わる召喚魔法を利用して異世界から「勇者」の素質を持つ人間を呼び出す。しかし、どういう事なのか召喚されたルノはこの帝国では「最弱職」として扱われる職業の人間だと発覚する。 彼の「初級魔術師」の職業とは普通の魔術師が覚えられる砲撃魔法と呼ばれる魔法を覚えられない職業であり、彼の職業は帝国では「最弱職」と呼ばれている職業だった。王国の人間は自分達が召喚したにも関わらずに身勝手にも彼を城外に追い出す。 だが、追い出されたルノには「成長」と呼ばれる能力が存在し、この能力は常人の数十倍の速度でレベルが上昇するスキルであり、彼は瞬く間にレベルを上げて最弱の魔法と言われた「初級魔法」を現実世界の知恵で工夫を重ねて威力を上昇させ、他の職業の魔術師にも真似できない「形態魔法」を生み出す―― ※リメイク版です。付与魔術師や支援魔術師とは違う職業です。前半は「最強の職業は付与魔術師かもしれない」と「最弱職と追い出されたけど、スキル無双で生き残ります」に投稿していた話が多いですが、後半からは大きく変わります。 (旧題:最弱職の初級魔術師ですが、初級魔法を極めたら何時の間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。