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放浪編

領主の企み

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――結局、領主に押し切られる形でレナ達は今晩は領主の屋敷に宿泊する事が決まり、3人は別々の部屋へ案内される。一応は部屋は隣同士だが、何故か部屋の中には窓の類は存在せず、扉も内側からは鍵が掛けられない設計になっていた。


「完全に怪しいなあの領主……しょうがない、今日はゴンちゃんとコトミンは俺の部屋に来てもらうか」


別に部屋を三人分用意させてもらっても同じ部屋で寝泊まりする事を咎められる謂れはなく、他の二人を夜が迎える前に招くことを決めたレナは部屋の様子を伺う。何処かに覗き穴でもあるのではないかと警戒しながら室内を見渡すと、壁の方に肖像画が立てかけられている事に気付く。


「あの領主の肖像画か……ん?目元の部分がおかしいな……」


観察眼の技能を発動させてレナは肖像画の様子を調べると、肖像画の目元の部分がくりぬかれている事に気付き、慎重に穴の中を覗くと隣の部屋の様子が確認出来た。どうやらこの穴を通して部屋の様子を伺っていたらしく、丁度良く隣の部屋ではゴンゾウが鍛錬に励んでいる様子が伺えた。


『45、46、47……』
「……何で俺はゴンちゃんの部屋を覗かないといけないんだ?」


最初の内はゴンゾウの鍛錬を観察していたが、冷静に考えれば別に覗く必要はなく、ゴンゾウに事情を伝えるのが先決である。肖像画から離れるとレナは隣室のゴンゾウの元へ向かおうとした時、不意にコトミンの事が気になる。


「待てよ、ここから隣の部屋が覗けるという事はコトミンの部屋の方も見えるのかな?」


肖像画が取り付けられている壁の反対側に視線を向けると、予想通りというべきか今度はこの領主の息子と思われる肥え太った男性の肖像画が立てかけられており、こちらの方も目元の部分に不自然な穴が存在した。どうせならばこちらの方から先に気づいていればコトミンの部屋を覗けたのだが、流石に女子がいる部屋を覗くような行為は出来ない。

しかし、隣室の部屋の様子を伺える事が発覚した以上、必然的にゴンゾウとコトミンはレナの部屋と反対側の部屋にも覗き穴が存在する可能性が高く、既に監視されている恐れもある。もしもレナが不用意に自分の部屋に招こうとすれば隣室で覗いていた相手にも知られてしまい、仮に二人を呼び寄せても結局は左右の部屋から覗かれる事に変わりはない。


(参ったな、これだと二人に事情を伝えるのは難しいな……仕方ない、ここは俺一人で動くか)


覗き穴を仕込んでいる時点で領主が怪しい事は間違いなく、報酬を出し渋っている時点で自分達を嵌めようとしていたと判断し、二人に相談せずにレナは屋敷の中を探索する事にした。


(どうやら俺は見張られていないみたいだし、昼間に襲ってくる可能性も低いだろうから二人にも黙っておくか)


部屋を見張られている可能性がある以上はゴンゾウとコトミンには相談は出来ず、レナは暗殺者の技能を利用して部屋の外へ抜け出す。通路側に人がいない事を確認した後、使用人に見つからないように気を配りながらレナは探索を行う。

領主の屋敷というだけはあって部屋の数も多く、1つ1つ調べていくと日が暮れてしまうので手短に部屋の様子を確認しながら領主の部屋を探す。鍵が施されている部屋だろうと錬金術師の能力を駆使すればどんな鍵でも開錠出来るため、誰にも見つからないように気を配りながらレナは屋敷の中を移動する。


(ここが領主の自室っぽいな……ここだけ扉の装飾が妙に豪華だ)


1階に戻ったレナは最初に招かれた客室からそれほど離れていない場所に存在した領主の自室と思われる扉を発見し、まずは気配感知と魔力感知の能力を発動させて部屋の中に人間が存在しないのか確認する。誰も居ないのか感知に反応がない事を確認すると、扉に手を伸ばして形状高速変化の能力を応用して鍵を開く。


「開けごま……何だここ?」


だが、領主の自室だと思われた部屋の中は予想よりも非常に狭く、家具の類も置かれていない部屋だった。壁には肖像画どころか窓さえも存在せず、部屋の四方に蝋燭が取り付けられているだけの殺風景な部屋だった。


「倉庫?」


部屋の中に入って早々にレナは足元に違和感を感じ取り、観察眼の能力を発動させると床が外れる事が発覚し、壁に設置されている燭台の1つに指紋が残っていた。レナは指紋が張り付いている燭台に手を伸ばすと、燭台が時計回りに動かす事が出来る事に気付く。


「なるほど、隠し通路か……凝った仕掛けだな」


燭台を動かすと床の一部が盛り上がり、やがて地下へ続く階段が露わになる。階段を確認すると先客が存在するのか比較的に新しい靴の跡が残っており、それを確認したレナは警戒心を抱きながらも階段を下りる。


(鬼が出るか蛇が出るか……少し楽しくなってきたな)


階段を下りながらレナは自分が暗殺者になりきった気分に陥るが、そんな気分も数分後には消えてなくなる事をこの時のレナには予想さえ出来なかった――
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