上 下
459 / 2,083
放浪編

閑話 〈シズネ〉

しおりを挟む
――冒険都市から王都に転移していたシズネは正体を隠しながら王都の様子を伺っていた。王国の首都というだけあって他の街よりも活気があふれており、大勢の人間でにぎわっていた。


「ねえ、そこの美人さん!!うちの新商品の香水を買っていかないかい?」
「そうね、少し見てみようかしら……あら、随分と品揃えがいいわね」
「当り前さ!!ここは王都だよ?世界中から色々な物が集まってくるんだからね!!」


香水の専門店に立ち寄ったシズネは情報収集がてらに店内の様子を伺いながら香水を手に取る。世界中から輸入しているのか大量の香水が並べられており、その中には一般人では手にとど泣かない程の高価な香水も混じっていた。恐らくは貴族も立ち寄る事を想定されたとしか考えられず、金貨単位で販売されている香水を見てシズネは思い悩む。


(前に来た時よりも貴族向けの商品が増えているわね。それに普通の品も随分と値段が高騰化しているようだけど……まあ、いいわ。仕事を終わらせましょう)


シズネは怪しまれない程度に店の様子を観察し、端の方に存在する棚の香水を調べる。そして一番隅の方に目当ての代物を発見し、店員に差し出す。


「これを買うわ」
「……ああ、はい。こちらの商品で間違いないでしょうか?」
「ええ、間違いはないわ」


棚の隅に置かれていたにも関わらず、香水の値札は「金貨3枚」と記されており、それを確認した店員は一瞬だけ間を置いて質問するとシズネは頷く。


「では、代金をお願いします」
「ええっ……これで足りるかしら?」


代金を要求する店員に対してシズネは事前に用意しておいた「銅貨」を3枚渡すと、店員はしばらくの間は渡された銅貨を確認し、続けて質問を行う。


「失礼ですが、こちらの金額でお間違いないでしょうか?」
「ええ、間違いないわ」
「分かりました……では、この店の左隣の酒場の裏口へ向かってください」


何事もなかったように店員は商品を紙袋に収めるとシズネに差し出し、受け取った銅貨も握り締めて笑顔で退店を促す。シズネは店員の言葉通りに従い、街道を挟んで建っている酒場に視線を向ける。

尾行を警戒してシズネは敢えて遠回りをして自分が付けられていない事を確認し、人目に注意しながら酒場の裏手の方に回る。裏口には誰もいない事を確認するとシズネは扉をノックする前に紙袋の中身を確認し、香水以外にメダルが入っている事に気付く。


(これが証というわけね)


メダルを手にしたシズネは扉のノックを行うと、即座に裏口から強面の大男が現れ、裏口に立っているシズネの顔を見て訝しげな表情を浮かべる。


「何だ?ここは立ち入り禁止だぞ」
「革命団の人間よ。中に入らせてほしいわ」
「……なるほど、入りな」


シズネは店員から受け取ったメダルを差し出すと、大男は目を見開き、すぐに口元に笑みを浮かべて扉の中へ案内した。シズネが中に入るとすぐに大男は裏口を施錠し、二階に続く階段を指差す。


「うちの幹部は上の階の一番奥の部屋にいる。黄色い花の紋様が記された扉だ。そこで挨拶をしてこい」
「分かったわ」
「おっと、その前にあんたの所属の部隊を教えてくれ。名前は?」
「第三部隊よ」
「第三部隊……?冒険都市の担当部隊か?」
「色々と事情があるのよ。詮索はしないでちょうだい」


大男との会話を終えるとシズネは階段を上り、王国と密かに対立する革命団の幹部が待つという部屋に向かう。彼女がここに訪れた目的は姿を消した仲間の捜索とバルトロス王国の出方を伺うためであり、同じくこの王都に訪れている「バル」と「アイラ」の代わりに革命団との接触を図る。



――昨日、王都にて身を隠しながら情報収集を行っていたシズネは偶然にも冒険都市から抜け出してきたアイラとバルと再会し、彼女達が革命団という組織と協力して王国の不正を暴こうと動いている事を知る。最初はシズネは転移された仲間の捜索のために動こうとしていたが、バルのは話によれば革命団は独自の情報網を持っているらしく、消えた仲間の居所を調査出来るかもしれないという。



王国の革命など興味はないシズネだが、このまま王妃を放置すればバルトロス王国がどのような危機に陥るかも分からず、必然的にバルトロス王家の血を継ぐレナの身にも危険に晒されるかもしれない。そう判断した彼女は仕方なくアイラとバルと共に革命団に入団し、消えた仲間と愛する人のために革命団の幹部と話をするために行動していた。


(革命団の幹部……一体どんな人物かしら)


シズネは大男が告げた部屋の前に辿り着き、若干緊張しながらも扉をノックをすると、すぐに返事が戻ってきた。


『どうぞ、鍵は開いているわ』
「……?」


何処かで聞き覚えのある声音に疑問を抱いたシズネは扉を開くと、部屋の中に待ち構えていたのは意外な人物だった。


「貴女は……!?」
「……こうして二人きりで顔を合わせるのは久しぶりかしらね」


中に待ち構えていたのは冒険都市で滞在しているはずの「王妃」が存在した――
しおりを挟む
感想 5,089

あなたにおすすめの小説

最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された「霧崎ルノ」彼を召還したのはバルトロス帝国の33代目の皇帝だった。現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が帝国領土に出現し、数多くの人々に被害を与えていた。そのために皇帝は魔王軍に対抗するため、帝国に古から伝わる召喚魔法を利用して異世界から「勇者」の素質を持つ人間を呼び出す。しかし、どういう事なのか召喚されたルノはこの帝国では「最弱職」として扱われる職業の人間だと発覚する。 彼の「初級魔術師」の職業とは普通の魔術師が覚えられる砲撃魔法と呼ばれる魔法を覚えられない職業であり、彼の職業は帝国では「最弱職」と呼ばれている職業だった。王国の人間は自分達が召喚したにも関わらずに身勝手にも彼を城外に追い出す。 だが、追い出されたルノには「成長」と呼ばれる能力が存在し、この能力は常人の数十倍の速度でレベルが上昇するスキルであり、彼は瞬く間にレベルを上げて最弱の魔法と言われた「初級魔法」を現実世界の知恵で工夫を重ねて威力を上昇させ、他の職業の魔術師にも真似できない「形態魔法」を生み出す―― ※リメイク版です。付与魔術師や支援魔術師とは違う職業です。前半は「最強の職業は付与魔術師かもしれない」と「最弱職と追い出されたけど、スキル無双で生き残ります」に投稿していた話が多いですが、後半からは大きく変わります。 (旧題:最弱職の初級魔術師ですが、初級魔法を極めたら何時の間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。