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放浪編

監獄所長の災難

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――監獄都市で起きた騒動から数時間後、試験場内に存在する所長室にて監獄所長であるラルフは資料に目を通していた。何度確認しても移送された囚人の中にレナとゴンゾウに関わる資料は存在せず、二人が獣人国軍が送り込んだ囚人ではない事を再確認する。


「やはり資料には乗っていないか……しかし、それならばこの二人は何処から入り込んできた?密入国者とは考えにくいが……」


二人の似顔絵を確認しながらラルフはため息を吐き出し、監獄都市に突如として現れたレナとゴンゾウの存在がラルフは気にかかった。二人に事情を問い詰めてもどちらも納得のいく返答を行わず、一体何の目的で二人がこのような辺境の土地に訪れたのか分からなかった。

話を聞く限りではレナもゴンゾウも監獄都市に訪れたのは偶然であり、決して自分達の意思で来たわけではないと伝えたが、ラルフには二人の言葉が信じられなかった。そもそも偶然でこのような場所に訪れるという時点でおかしな話であり、二人が何を隠しているのかをラルフは突き止めるために考える。


(やはり明日の朝一番に都市に向かう必要があるか……レナという少年は懲罰房に閉じ込めているはずだ。ゴンゾウという奴も看守共を使えばすぐに見つけ出せるだろう。くくく……久しぶりにこの私自らが拷問をしてやろう)


ラルフは机の上の資料を整理すると、ベルを鳴らして兵士を呼び出そうとする。就寝の時間帯なのだが小腹が空いたので夜食の準備を差せようと扉の前で見張りをさせている兵士を呼び出そうとしたが、何故か反応が返ってこない。


「おい、誰もいないのか!!」


扉の外に大声で呼び掛けても兵士からの返事はなく、不振に思いながらもラルフは椅子から立ち上がろうとした時、ノックも無しに扉が開かれて二人の人物が入り込む。


「こんばんわ~」
「邪魔するぞ」
「なっ……!?き、貴様等は!?」


部屋に入ってきたのは机の上に置かれている似顔絵と同一人物の二人組が姿を現し、驚いたラルフは危うく椅子から転げ落ちそうになる。堂々と部屋の中に入ってきたレナとゴンゾウは所長を発見すると、笑顔で話しかける。


「どうも所長さん。えっと、ラルフさんでしたっけ?」
「な、何故お前等がここに!?警備の人間は……」
「全員眠らせた。看守と比べたら随分と歯応えがなかったがな」
「なん、だと……」


ラルフの言葉にゴンゾウは右手に抱えた兵士を見せつけ、白目を剥いた状態で気絶した兵士の顔を見せるとラルフは非常に焦ったように冷や汗を流す。そんな彼の反応を楽しむようにレナは装飾品だらけの部屋を見渡し、他に兵士が居ない事を確認してラルフに近付く。


「さてと……今日はあんたに用があって来たんだ」
「わ、私を殺す気か!?」
「話は最後まで聞きなよ。あんたを殺すつもりはない、だけど脱獄の手助けをしてほしいんだ」
「ふざけるな!!脅しなんかに屈しないぞ!!」


近寄るレナに対してラルフは慌てて椅子から立ち上がり、壁際に移動する。その様子を見てレナはため息を吐き出し、次にラルフが移す行動を先読みしてゴンゾウを壁から離れるように注意する。


「ゴンちゃん!!その扉には気を付けて!!」
「扉?」
「もう遅い!!ゴウキ、お前の出番だぞ!!」
『ゴゴゴゴッ……!!』


所長室のミスリル製の扉に人間の顔のような窪みが誕生し、徐々に変形してやがて2メートル程の大きさのゴーレムに変化した。ゴンゾウは初めて見るミスリル製のゴーレムに驚いた表情を浮かべ、レナも面倒な相手が残っていた事を思い出して溜息を吐く。


『ゴゴゴゴッ……!!』
「こいつは……ミスリルのゴーレム?こんな奴まで存在したのか……世の中は広いな」
「ふははははっ!!何時までも余裕ぶるな!!さあ、降伏するなら今の内だぞ!?」
「たく、面倒だな……ゴンちゃん下がってて」
「いや、ここは俺に任せろ」


レナが空間魔法を発動させて退魔刀を取り出そうとした時、ゴンゾウが取り返した金銀の闘拳を装着すると、ミスリルゴーレムと向かい合う。正面からゴーレムに挑もうとするゴンゾウを見てラルフは笑い声をあげる。


「はははっ!!まさか、そんな見せかけだけの武器で挑むつもりか!?言っておくがそいつはオーガさえも簡単に取り押さえられる程の怪力だぞ!!」
『ゴゴゴゴッ!!』
「ぬぅんっ!!」


ラルフの言葉に反応したようにミスリルゴーレムは両腕を広げてゴンゾウを取り押さえようとするが、正面から接近してきたゴーレムの巨体に対してゴンゾウは両手を重ねて突き出す。


「金剛撃!!」
『ゴゴォッ……!?』
「はっ!?」
「おおっ!!」


ゴンゾウの一撃を受けたミスリルゴーレムの巨体が部屋の外へ吹き飛ばされ、強烈な一撃を受けたミスリルゴーレムの胴体に亀裂が走り、部屋の外の通路に倒れ込む。その様子を見たラルフは目を見開き、レナも感心したように声を上げた。
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