上 下
453 / 2,083
放浪編

ネズミと看守長

しおりを挟む
「ネズミ、どうして看守長の子供だという事を隠していた?」
「別に聞かれなかったから答えなかっただけ……というのはありきたりですかね。まあ、僕としてはこんな奴の子供だと知られたくなかったんですよ」
「ね、ネズミ君!?」
「というか何で親なのに渾名で呼んでるんだよ。本名は別にあるんだろ?」
「ええ、ありますよ。ですけどこの人は絶対に僕の名前を言いません。そういう約束ですから」
「約束?」
「……仕方ありませんね、ここに馬車が来るまで時間が掛かりますからその間に説明しておいてあげますよ」


渋々と言った感じでネズミはレナに拘束されている看守長を指差し、自分との関係を明かす。年齢的にはまだ子供のネズミが死刑囚しか送り込まれない監獄都市で暮らしている理由も関わっているらしく、ネズミは自分の出生から話し始めた。


「僕はこの監獄都市で生まれました。父親はそこの看守長、母親は人間です。ちなみに僕は純粋な人間です」
「そうなんだ?」


この世界にはハーフという概念は存在しないので異種族同士が結婚した場合、生まれてくる子供は必ずどちらかの種族になる。なので吸血鬼の看守長の子供だからといってネズミは吸血鬼の能力を受け継いではいない。


「監獄都市の法律では男女間の子供が生まれた場合、両親から離されて外界に送り込まれます。両親が大罪人であろうと生まれてくる子供に罪はなく、劣悪な環境の監獄都市では子供が育てられないからです」
「でも、ネズミは……」
「はい。僕はこの監獄都市で生まれて育ちました……そこの看守長が自分の立場を利用してね」
「うぐっ……」


看守長はネズミの言葉に顔を逸らし、どうやら話を聞く限りでは自分の子供を外界に送り込まれる事を嫌がった看守長が無理やりにネズミを監獄都市で育てたらしい。


「僕の母親は囚人でした。ですけど非常に優しくて元気な人でした。元々は貴族の令嬢だったんですけど、婚約者がある時に別の女性と浮気をして自分の不義を隠すために母さんを騙して別の男と不倫したと詰め寄ったんです。結局、嵌められた母さんは無実を証明できずに家から追放されて監獄都市に送り込まれました」
「胸糞悪い話だな」
「ええ、ですけど母さんはここでそこの父さん……いや、看守長と出会い、恋に落ちました。そして僕が生まれ、最初は3人で暮らしていたんですが……母さんは他の囚人に殺されてしまったんです」
「何!?どういう事だ?」
「この男が母さんと付き合う前に恋人だった女に殺されたんですよ。ねえ、そうでしょう!?」
「……ああ、その通りだ」


実の息子であるネズミの言葉に看守長は顔色を暗くしながら頷き、話を聞く限りでは看守長の過去に交際関係を結んでいた女囚の一人が逆恨みしてネズミの母親を殺したという。


「この男は母さんと付き合う前から女癖が悪くて、本当なら看守と囚人に手を出すなんて禁止されていたのに看守長の立場を利用して規則まで変えたんですよ?しかも母さんと付き合っている頃から別の女性とも関係を持っていたくそ野郎です。そんな奴を父親とは認められませんよ」
「うわ、酷い……」
「何という事を……」
「ううっ……すまない、本当にすまない」


ネズミの言葉にレナとゴンゾウは蔑みの視線を看守長に向け、最早抗う気力もないのか看守長はその場にへたり込み、延々と謝罪の言葉を呟く。しかし、そんな姿を見てもネズミは一切の同情を示さずに話を続ける。


「一応は僕が生まれた後は他の女性との関係を気って母さんだけを愛してくれました。でも、結局はこいつの事を諦めきれなかった女囚の一人が事故に見せかけて母さんを殺したんです。その女はもう処刑されましたが、基を正せばこいつの女癖のせいで母さんは死ぬ羽目になった……だから僕はこいつの事を父親とは認めないし、自分の名前も言わせません」
「そういう理由があったのか……なんかごめんね、辛い事を思い出させて……」
「辛い思いをしたんだな」
「分かってくれます?僕の気持ちを……」


レナとゴンゾウはネズミの境遇を憐れみ、慰めるように抱きしめる。その光景を見て周囲の兵士達も何とも言えない表情を浮かべ、看守長に至っては両手で顔を隠して涙を堪えていた。


「すまないネズミ君……だが、僕は本当に君の事も、イルミネも事を愛していたんだ!!それだけは信じてくれ!!」
「何が愛していた、ですか!!母さんが死んだあと、あっさりとパールさんと関係を持った癖に!!」
「うぐぅっ!?」
「あらあら……」
「えっ!?」
「何だとっ!?」


ネズミの言葉に看守長は地面に膝を着き、パールも困った表情を浮かべる。二人が交際関係を結んでいたという話にレナもゴンゾウも驚き、特にゴンゾウは衝撃を受けたように冷や汗を流す。



※ゴンちゃんの好みのタイプはパールのように包容力がある女性です。
しおりを挟む
感想 5,089

あなたにおすすめの小説

最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された「霧崎ルノ」彼を召還したのはバルトロス帝国の33代目の皇帝だった。現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が帝国領土に出現し、数多くの人々に被害を与えていた。そのために皇帝は魔王軍に対抗するため、帝国に古から伝わる召喚魔法を利用して異世界から「勇者」の素質を持つ人間を呼び出す。しかし、どういう事なのか召喚されたルノはこの帝国では「最弱職」として扱われる職業の人間だと発覚する。 彼の「初級魔術師」の職業とは普通の魔術師が覚えられる砲撃魔法と呼ばれる魔法を覚えられない職業であり、彼の職業は帝国では「最弱職」と呼ばれている職業だった。王国の人間は自分達が召喚したにも関わらずに身勝手にも彼を城外に追い出す。 だが、追い出されたルノには「成長」と呼ばれる能力が存在し、この能力は常人の数十倍の速度でレベルが上昇するスキルであり、彼は瞬く間にレベルを上げて最弱の魔法と言われた「初級魔法」を現実世界の知恵で工夫を重ねて威力を上昇させ、他の職業の魔術師にも真似できない「形態魔法」を生み出す―― ※リメイク版です。付与魔術師や支援魔術師とは違う職業です。前半は「最強の職業は付与魔術師かもしれない」と「最弱職と追い出されたけど、スキル無双で生き残ります」に投稿していた話が多いですが、後半からは大きく変わります。 (旧題:最弱職の初級魔術師ですが、初級魔法を極めたら何時の間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。