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放浪編
居合の弱点
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「これは……!?」
「き、消えた!?」
「違う、あっちにいるぞ!!」
縮地を発動したレナは転移魔法のように一瞬で違う場所へ移動し、傍目から見たら瞬間移動のように姿を消したようにしか見えない。だが、剣聖の領域に足を踏み入れている看守長は冷静にレナの姿を捉え、縮地の移動先を予測して迎撃の態勢へ入る。
(無駄だ……縮地は万能じゃない)
高速移動が行える縮地をレナが覚えていた事に驚きはしたが、看守長は焦る様子も見せずに刀の柄に手を伸ばし、瞼を閉じて「心眼」を発動させる。生物の力を感じ取る事で相手の位置を捉える心眼ならば縮地を発動させた状態のレナの位置も捉える事が可能であり、刀の間合いに入った瞬間に切り伏せる自信があった。
縮地の最大の弱点は移動の最中は使用者の意識が存在せず、別の地点に移動する際の軌道を先読みして攻撃を行えば回避する事は出来ず、不用意に看守長の刀の間合いに移動しようとした瞬間に切り裂かれるだろう。居合の戦技は「疾風剣」と「抜刀」さらに技能の「迎撃」を組み合わせた高度な複合戦技であり、剣聖の領域に到達した人間でも扱える者は少ない。
最速の剣技という点では居合に勝る戦技は存在せず、その居合をさらに独自に工夫を加えて風の斬撃を生み出すのが剣聖のハヤテである。だが、看守長の場合は彼女とは違い、純粋に剣技だけを磨いて居合を生み出す。
(僕の秘剣「弐連斬」を味わせてあげよう)
本来は一太刀しか生み出す事しか出来ない居合の戦技だが、看守長は長年の修練によって一度の攻撃で二つの太刀を浴びせる事が出来る「弐連斬」と呼ばれる複合戦技を生み出す。居合の戦技に更に「連撃」の戦技を加えた看守長だけが扱える秘剣だが、その戦技を見た人間はかつて一人もいない。生み出したのは良いのだが実際に扱う場面がなく、そもそも看守長に奥の手を使わせる程の強者がここ数十年の間に遭遇しなかった。
(さあ、来い……!!)
心眼でレナの位置を正確に読み取り、攪乱させるつもりなのかあちこちを縮地で移動しながら徐々に接近するレナに対して看守長は笑みを浮かべ、刀の間合いに入る瞬間を待ちわびる。
「行くぞ!!」
レナの声が看守長の耳元に届き、わざわざ攻撃を仕掛ける前に合図を与えるように大声を上げたレナに看守長は呆れるが、刀の間合いに近づいてくる気配を感じ取って戦技を発動させようとした。
「弐連――」
「土塊!!」
だが、レナが看守長の刀の間合いに入る寸前、唐突に看守長の右足の地面が盛り上がり、体勢を大きく崩してしまう。その結果、看守長が降りぬいた刃は接近するレナの頭上を通り過ぎてしまい、虚しく空を切る。
「何っ!?」
「その技は……弱点を知っている!!」
まさか足元の地面が盛り上がるとは予測できなかった看守長は目を見開くと、何時の間にか靴を脱いで裸足の状態で自分の傍に接近しているレナに気づき、咄嗟に後ろに飛ぼうとしたが複合戦技を発動した直後の肉体の硬直によって身体が動かずにまともに攻撃を受けてしまう。
「加速剣撃、旋風!!」
「ぐはぁっ!?」
「看守長!?」
看守長の胴体にレナの振りぬいた反鏡剣の刃が放たれ、鮮血が迸らせながら看守長は膝を着く。その際にレナの右足に魔力の光が滲んでいる事に気付き、どうして自分の居合が敗れたのかを悟って呆然とした表情を浮かべる。
「まさか……足で、魔法を……!?」
「……正解」
レナが縮地を発動させて看守長の周囲を動き回っていたのは相手を攪乱させるためだけではなく、両足の靴と靴下を脱ぎ捨てるために激しく動いていた。素足の状態ならば足の裏から地面に魔法を発動させる事も容易く、攻撃する瞬間に初級魔法の「土塊」を発動させて看守長の足元の地面を操作して体勢を崩す事に成功した。
「馬鹿な……こんな、単純な手に命を懸けたのか……!?」
「本当はちょっと冷っとしたけど、前に似たようなことがあってね。成功するとは信じていたよ」
ほんの少しでもタイミングを誤ればレナが看守長の攻撃によって切り伏せられていただろうが、かつて剣聖のハヤテと対峙したときにもレナは同じ方法で相手の「居合」の戦技を打ち破っており、今回も成功する自信はあった。最悪の場合、相打ちにでも持ち込めば回復魔法を行える自分が有利だと判断して攻撃を仕掛けた。
それでも危険な賭けであったことは間違いなく、頭上に看守長の刀の刃が横切った瞬間は肝を冷やし、咄嗟に手加減する事を忘れて本気で看守長を切りつけてしまった。幸いにも吸血鬼である看守長は人間よりも頑丈な肉体を持っているので致命傷には至らず、胴体に大きな傷跡が生まれた程度で命に別状はない。
「信じられない……この僕が、こんな子供に……」
「まあ、言いたい事は分からないでもないけど、こっちも相当の修羅場をくぐってるんだよ……あんたは強者であっても勝てない敵じゃない」
これまでに多くの武人と戦ってきたレナにとっては看守長は決して勝てない相手ではなく、上手く隙を突いて勝利した。しかし、今回のような手が通じるのは一度限りであり、魔法の力を使わなければ看守長の「居合」を正面から打ち破る事はレナには出来なかっただろう。
「き、消えた!?」
「違う、あっちにいるぞ!!」
縮地を発動したレナは転移魔法のように一瞬で違う場所へ移動し、傍目から見たら瞬間移動のように姿を消したようにしか見えない。だが、剣聖の領域に足を踏み入れている看守長は冷静にレナの姿を捉え、縮地の移動先を予測して迎撃の態勢へ入る。
(無駄だ……縮地は万能じゃない)
高速移動が行える縮地をレナが覚えていた事に驚きはしたが、看守長は焦る様子も見せずに刀の柄に手を伸ばし、瞼を閉じて「心眼」を発動させる。生物の力を感じ取る事で相手の位置を捉える心眼ならば縮地を発動させた状態のレナの位置も捉える事が可能であり、刀の間合いに入った瞬間に切り伏せる自信があった。
縮地の最大の弱点は移動の最中は使用者の意識が存在せず、別の地点に移動する際の軌道を先読みして攻撃を行えば回避する事は出来ず、不用意に看守長の刀の間合いに移動しようとした瞬間に切り裂かれるだろう。居合の戦技は「疾風剣」と「抜刀」さらに技能の「迎撃」を組み合わせた高度な複合戦技であり、剣聖の領域に到達した人間でも扱える者は少ない。
最速の剣技という点では居合に勝る戦技は存在せず、その居合をさらに独自に工夫を加えて風の斬撃を生み出すのが剣聖のハヤテである。だが、看守長の場合は彼女とは違い、純粋に剣技だけを磨いて居合を生み出す。
(僕の秘剣「弐連斬」を味わせてあげよう)
本来は一太刀しか生み出す事しか出来ない居合の戦技だが、看守長は長年の修練によって一度の攻撃で二つの太刀を浴びせる事が出来る「弐連斬」と呼ばれる複合戦技を生み出す。居合の戦技に更に「連撃」の戦技を加えた看守長だけが扱える秘剣だが、その戦技を見た人間はかつて一人もいない。生み出したのは良いのだが実際に扱う場面がなく、そもそも看守長に奥の手を使わせる程の強者がここ数十年の間に遭遇しなかった。
(さあ、来い……!!)
心眼でレナの位置を正確に読み取り、攪乱させるつもりなのかあちこちを縮地で移動しながら徐々に接近するレナに対して看守長は笑みを浮かべ、刀の間合いに入る瞬間を待ちわびる。
「行くぞ!!」
レナの声が看守長の耳元に届き、わざわざ攻撃を仕掛ける前に合図を与えるように大声を上げたレナに看守長は呆れるが、刀の間合いに近づいてくる気配を感じ取って戦技を発動させようとした。
「弐連――」
「土塊!!」
だが、レナが看守長の刀の間合いに入る寸前、唐突に看守長の右足の地面が盛り上がり、体勢を大きく崩してしまう。その結果、看守長が降りぬいた刃は接近するレナの頭上を通り過ぎてしまい、虚しく空を切る。
「何っ!?」
「その技は……弱点を知っている!!」
まさか足元の地面が盛り上がるとは予測できなかった看守長は目を見開くと、何時の間にか靴を脱いで裸足の状態で自分の傍に接近しているレナに気づき、咄嗟に後ろに飛ぼうとしたが複合戦技を発動した直後の肉体の硬直によって身体が動かずにまともに攻撃を受けてしまう。
「加速剣撃、旋風!!」
「ぐはぁっ!?」
「看守長!?」
看守長の胴体にレナの振りぬいた反鏡剣の刃が放たれ、鮮血が迸らせながら看守長は膝を着く。その際にレナの右足に魔力の光が滲んでいる事に気付き、どうして自分の居合が敗れたのかを悟って呆然とした表情を浮かべる。
「まさか……足で、魔法を……!?」
「……正解」
レナが縮地を発動させて看守長の周囲を動き回っていたのは相手を攪乱させるためだけではなく、両足の靴と靴下を脱ぎ捨てるために激しく動いていた。素足の状態ならば足の裏から地面に魔法を発動させる事も容易く、攻撃する瞬間に初級魔法の「土塊」を発動させて看守長の足元の地面を操作して体勢を崩す事に成功した。
「馬鹿な……こんな、単純な手に命を懸けたのか……!?」
「本当はちょっと冷っとしたけど、前に似たようなことがあってね。成功するとは信じていたよ」
ほんの少しでもタイミングを誤ればレナが看守長の攻撃によって切り伏せられていただろうが、かつて剣聖のハヤテと対峙したときにもレナは同じ方法で相手の「居合」の戦技を打ち破っており、今回も成功する自信はあった。最悪の場合、相打ちにでも持ち込めば回復魔法を行える自分が有利だと判断して攻撃を仕掛けた。
それでも危険な賭けであったことは間違いなく、頭上に看守長の刀の刃が横切った瞬間は肝を冷やし、咄嗟に手加減する事を忘れて本気で看守長を切りつけてしまった。幸いにも吸血鬼である看守長は人間よりも頑丈な肉体を持っているので致命傷には至らず、胴体に大きな傷跡が生まれた程度で命に別状はない。
「信じられない……この僕が、こんな子供に……」
「まあ、言いたい事は分からないでもないけど、こっちも相当の修羅場をくぐってるんだよ……あんたは強者であっても勝てない敵じゃない」
これまでに多くの武人と戦ってきたレナにとっては看守長は決して勝てない相手ではなく、上手く隙を突いて勝利した。しかし、今回のような手が通じるのは一度限りであり、魔法の力を使わなければ看守長の「居合」を正面から打ち破る事はレナには出来なかっただろう。
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