上 下
427 / 2,083
放浪編

女装準備

しおりを挟む
廃棄場から今度は誰も居ない教室に移動すると、ゴンゾウが外を見張り、その間にレナはネズミが持ってきてくれた化粧品を利用して女装の準備を行う。


「さてと、今回はスラミンもヒトミンもいないから自力で変装しないとな……それにしてもここって化粧品まであるのか」
「女性の囚人は結構身だしなみを気にする人もいるんですよ。男性を相手にするときとかは特に……」
「だからって男しかいない宿舎に化粧品を売るのはおかしくない?」
「贈り物として買う人間もいるんじゃないのか?俺も妹に化粧品を買ったことがあるぞ」
「まあ……中には特別な趣向の人もいますから」
「ああ……身体は男で心は女の人もいるわけね」


手鏡を手にしながらレナはネズミによって化粧を施され、無理に付け過ぎずに自然な形を保ちながら女性らしさを醸し出す。何処で習ったのかネズミはまるで美容師のように見事に化粧を施し、父親よりも母親に似た顔立ちだったのが幸いして化粧を開始してから10分後にはレナは見事にボーイッシュ系の美少女へと変化した。


「ほら、終わりましたよ。どうですか?」
「嘘っ……これが私?なんてふざけている場合じゃないか……でも、結構いい感じじゃない?」
「終わったのか……誰だお前は!?」
「レナだよ」


事情が知っているゴンゾウですらもレナの姿を見た瞬間に他人と間違える程に見事に女装が上手くいき、元々中性的な顔立ちだったことが幸いして初見ではレナの知り合いの人物でもレナ本人だと気づくことはない程に上手く変装出来ていた。しかし、声に関しては男性のままなので気を付けて喋らなければならない。


「確かにこの姿ならレナさんが女囚館に忍び込んでも問題はないでしょうね。ですけど、気を付けてください。正体がばれれば問答無用で処刑ですよ」
「分かってるよ……分かってますわ」
「いや、無理に口調まで変えなくてもいいじゃないですかね……」
「それじゃあ、行ってきますわ」
「……本当に大丈夫なのか?」


出来る限り女性らしく振舞おうとしながらレナは教室の窓から外に身を乗り出し、二人と別れて女囚館に向かう。時刻は既に夜を迎えており、殆どの囚人が仕事を終えて自分達の宿舎に帰還していた。


(……夜でも女囚館は兵士の検査が行われるそうだから表口から中に入る事は出来ないと言ってたな。予定通りにあの場所から入るか)


見事に女装したとはいえ、巨人族の女性兵士が見張りを行っている出入口に向かわず、レナは遠回りをして女囚館の建物の裏側に向かう。その途中、何人かの囚人とすれ違ったが特に目立った反応はされず、正体が気付かれる様子はない。


「おい、見ろよあの子……あんな可愛い子、うちに居たっけ?」
「新入りじゃねえのか?なかなかいい尻してんな」
「胸が小さいのがちょっと残念だがな……」


すれ違った時に聞こえてきた男性の囚人の言葉と視線にレナは背筋が震えるが、どうにか精神を落ち着かせて金網の前に立つ。用心深く周囲の様子を観察し、誰も自分に注目していない事を確認して金網を鷲掴む。


(ふんっ!!)


最初に物質変換の能力を利用して金属の材質を変化させ、金網の一部を柔らかい物質に変換させる。その後は力尽くで金網を引きちぎり、人間が通れる程の穴を作り出す。このまま潜り抜けると堀の中に落ちてしまうため、事前に足場を作り出すために魔法を発動させた。


「氷塊」


堀の中に氷塊の魔法で生み出した氷の円盤を作り出すと、金網を潜り抜けて円盤の上に降り立ち、すぐに作り出した穴を形状高速変化の能力を利用して引き裂いた箇所の接合を行う。無事に金網を修復するとレナは「瞬動術」を発動して円盤の上から跳躍し、無事に堀を飛び越えて地面に着地する。


「よし、侵入成功……後は建物に潜り込むだけだな」


無事に女囚館の敷地内に入り込むと、周囲を警戒しながらレナは建物に向かい、目的地であるパールの部屋に向かう。建物の構造は事前にネズミから詳細を教えて貰っているため、最初にレナは正面入り口へ向かう。


「はあっ……今日も疲れた」
「何言ってるのよ、これから忙しくなるのよ?」
「分かってるよ。あ~あ、偶には汗苦しい男以外の相手がしたいね」
「おおっ……」


正面入り口には大勢の女性が屯しており、年代はバラけているが全員が化粧で美貌を整え、男を刺激する派手な衣装を着込んでいた。女囚館に暮らしている女囚人の殆どは銀貨を支払って訪れる男性囚人の相手をするために身を整えており、まるでキャバ嬢のような恰好をしている女性の集団を見てレナは危うく声を上げそうになった。


(危ない危ない……それにしてもこの人達も囚人なんだよな?どうも恰好を見ていると男達とかなり待遇が違うんだな……)


監獄内にも関わらずに綺麗に身なりを整えている女性の囚人達を見てレナは違和感を覚え、自分が間違ってキャバクラに迷い込んだのではないかと思ってしまう。最も今は目的を果たす事に集中し、目立たないように気を付けながらレナは正面入口から建物の中に入ろうとする。
しおりを挟む
感想 5,087

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)
ファンタジー
陸奥さわこ 3*才独身 父が経営していた居酒屋「酒話(さけばなし)」を父の他界とともに引き継いで5年 折からの不況の煽りによってこの度閉店することに…… 家賃の安い郊外へ引っ越したさわこだったが不動産屋の手違いで入居予定だったアパートはすでに入居済 途方にくれてバス停でたたずんでいたさわこは、そこで 「薬草を採りにきていた」 という不思議な女子に出会う。 意気投合したその女性の自宅へお邪魔することになったさわこだが…… このお話は ひょんなことから世界を行き来する能力をもつ酒好きな魔法使いバテアの家に居候することになったさわこが、バテアの魔法道具のお店の裏で居酒屋さわこさんを開店し、異世界でがんばるお話です

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。