上 下
422 / 2,083
放浪編

退魔刀の奪還

しおりを挟む
「うわっ!?」
「な、何だっ!?」
「砂ぁっ!?」
『…………!?』


唐突に発生した大量の砂煙は休憩所に広がり、兵士達は混乱を起こす。その間にもレナは瞼を閉じた状態で「心眼」のスキルを発動させ、目元を閉じた状態で生物の気配を感じ取って看守の元に向かう。


(よし、気づかれていない……ここだ!!)


心眼によって砂煙の中でも正確にサイクロプスの位置を把握し、背中に掲げている退魔刀に向けて手を伸ばす。だが、寸前でサイクロプスは巨大な眼を両手で覆い隠して起き上がり、方向を放つ。


『ギュロロロロッ!?』
「うわっ!?」


人語を話す事も出来ないのかサイクロプスは目元から大量の涙を流しながら暴れ狂い、机や椅子を蹴り飛ばす。傍に存在した巨人族の兵士も巻き込まれ、サイクロプスの怪力によって突き飛ばされてしまう。


「不味い!!サイクさんが……うわぁっ!?」
「ぎゃああっ!?」
「お、落ち着いて……うぎゃっ!?」
『キュロロロッ……!!』


混乱して周囲の人間も把握できないのかサイクロプスは自分を取り押さえようとする兵士を吹き飛ばし、暴れ狂う。その様子を確認したレナはどうにか隙をついて退魔刀を奪うため、砂煙が消えないうちに背後に接近して剣を奪い取ろうとした。


「このっ……大人しくしろ!!」
『ギュロォッ!?』


背中からサイクロプスに飛び掛かったレナは両手で頭を鷲掴み、至近距離から「衝風」の戦技を発動させて衝撃を与え、脳震盪を起こす。いくら相手が化け物のような外見をしていようと人間と同様に頭部は急所であり、脳震盪を起こして動きが鈍っている内にレナは退魔刀を掴み、無理やりに引き剥がす。


(よし、成功!!)


即座に退魔刀を空間魔法で異空間に戻すと、消えかけている砂煙から脱出してその場を離れる。残されたのは殴り飛ばされた巨人族の兵士と、頭を抑えた状態で跪くサイクロプスだけとなり、騒ぎを聞きつけた囚人達が何事かと集まる。


「おい、何が起きたんだ!?いったい何の騒ぎだ?」
「あれ見ろよ……兵士が倒れてるぞ」
「何だ、またサイクさんが酔っ払って喧嘩でもしたのか?」


集まった人々が休憩所の様子を見て疑問を抱き、その間にレナは人混みを掻き分けてゴンゾウとネズミの元へ戻る。二人は砂煙の中でレナが何をしたのかは分からなかったが、サイクロプスが所持していた退魔刀が消えている事から武器の奪還に成功したことを悟った。


「終わったよ。どうにか回収できた」
「おおっ!!凄いぞレナ!!」
「まさか本当に看守から武器を奪い取るとは……でも、何処に肝心の武器は隠したんですか?何も持ってませんよね?」
「それは企業秘密という事で……」


レナが大剣を所持していない事にネズミは疑問を抱くが、空間魔法の事を知られたくなかったレナは適当に誤魔化し、急いでこの場を離れる。


「これで一つ目の武器は回収出来た。後は魔法腕輪と反鏡剣を取り戻せれば十分かな……あ、ゴンちゃんの装備も取り返さないと」
「俺の事は気にしないで良い。大した物は持っていなかったからな……だが、闘拳だけは取り返しておきたいが」
「そういえばレナのお兄さんは魔法腕輪も所持していたんですよね?それはどんな代物なんですか?」
「何だその取って付けたような呼び方は……何か知ってるの?」
「まあ、あると言えばありますけど……ちなみにその魔法腕輪の特徴も教えてもらって構いませんか?」


ネズミの言葉にレナは自分が装備していた魔法腕輪の特徴を伝え、様々な貴重な魔石を取り付けている事を説明すると、ネズミは心当たりがあるのか言いにくそうに答えた。


「やっぱり……レナの兄さん、その腕輪の持ち主に関しては実は知っているかも知れません」
「今度は兄さんかい……普通にレナと呼んでいいよ」
「ではこれからは普通にレナさんと呼ばせてもらいます。それでなんですが、レナさんの魔法腕輪を所持している人物に心当たりがあります」
「例の看守長じゃないのか?」
「いえ、看守長は武器にしか興味ないので装飾品の類には興味も寄せません。多分、お二人もまだ出会っていない看守なんですが……ちょっと、僕が苦手な方なんです」
「誰?」


妙に勿体ぶった言い方をするネズミに疑問を抱きながらもレナが問いただすと、彼は軽くため息を吐きながらレナの魔法腕輪を所持していると思われる看守の事を話す。


「……この監獄都市の中で唯一の女性の看守です。名前はパール、種族は……サキュバスです」
「サキュバス?」
「淫魔の事だな」
「ええ、まあ……そういう事ですね」


サキュバスと聞いてレナはゴンゾウと顔を見合わせ、かなり前の話になるがダインに襲い掛かった淫魔の事を思い出す。この世界では吸血鬼と同一の存在に扱われており、主に男性は吸血鬼、女性はサキュバスと呼ばれている。吸血鬼は人減の血液を好むのに対し、女性のサキュバスは人間の精気を好むのが有名である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

孤独な令嬢は狼の番になり溺愛される

夕日(夕日凪)
恋愛
アルファポリス様より書籍化致しました!8月18日が出荷日となっております。 第二部を後日更新開始予定ですので、お気に入りはそのままでお待ち頂けますと嬉しいです。 ルミナ・マシェット子爵家令嬢は、義母と義姉達から虐待を受けながら生きていた。しかしある日、獣人国の貴族アイル・アストリー公爵が邸を訪れ…。「この娘は私の番だ。今ここで、花嫁として貰い受ける」 そう言われその日のうちに彼に嫁入りする事になり…。今まで愛と幸せを知らなかった彼女に突然の溺愛生活が降りかかる…!

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

【完結】淫魔なのに出乳症になってしまった僕の顛末♡

虹色金魚 (旧 怪盗枝豆 )
BL
娼館で男妾として働く淫魔で、かわいい系美少年のラミュカ(♂)は、ある日突然おっぱいからミルクが出てきてしまった!!お客には喜ばれるが心の中では嵐が吹き荒れる。 そんなラミュカに、同期で友人の同じく淫魔のロゼが、魔界の病院を紹介してくれた。 そこでの診察結果は………… ※実はかわいいものが大好き美しい悪魔先生(カタリナ)×かわいい系淫魔ラミュカ ※ラミュカ(受)が出乳症という病気(?)になって、男の子なのにおっぱいからミルクが出て来て困っちゃうお話です。 ※ラミュカは種族&お仕事上客とエッチをガッツリしてます。 ※シリアスではありません。 ※ギャグです。 ※主人公アホかと思います。 ※1話だいたい2000字前後位です。 ※こちらR-18になります。えっちぃことしてるのには☆印、えっちしてるのには※印が入っています。 ※ムーンライトさんでも掲載しています。 ※宇宙のように広いお心でお読みください※

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。