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都市崩壊編
悲しき母子の再会
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「――いつまで寝ぼけているつもり?私の声が聞こえているの?」
耳元にマリアの声が届き、キラウは意識を取り戻す。どうやらほんの少しの間だけ気絶していたようであり、自分の過去の夢を見ていた事に気付いたキラウは自嘲気味に笑みを浮かべ、そんな彼女にマリアは訝しむ。
「……何で私を殺さない?自分で言うのもなんだけど、絶好の好機でしょう?私を殺せる機会なんて早々ないわよ」
「馬鹿を言わないで頂戴。死霊使いの秘儀を私が知らないと思うの?貴女は敢えて自分を他者に殺させる事で自身を死霊人形へと変化させるつもりでしょう?」
「なるほど……流石にそこまで甘くないわけね」
キラウは自分の胸元に手を押し当て、もしもの時のために飲み込んでいた「死霊石」の存在を思い出す。死霊使いは死体を傀儡化させる際に利用する魔石であり、他者の死体に使用すれば自分の意思で思い通りに動かすアンデッドへと変化させる事が出来る。
しかし、死霊使いには禁断の秘儀として自分の死の直前に死霊石を自分自身に利用する事で自らを「死霊人形」へと変貌させる事が出来る。死霊人形へと変り果てた死霊使いは「不死」へと成り果て膨大の闇の魔力を得られる。しかし、代償として時間が経過する事に意識が徐々に途切れ、やがては生物を憎む化物へと変化を果たす。彼等は「不死者」と呼ばれ、死霊石を完全に破壊するまで何度でも蘇る能力を持つ。
マリアは過去に何度か死霊使いと交戦しており、最後の手段として命を落として死霊人形と化した死霊使いは生者の頃と比べても厄介な存在と成り果てる。キラウはマリアが遭遇した死霊使いの中では間違いなく彼女の人生の最大の使い手であり、もしもキラウが「不死者」になった場合は非常に厄介な事態に陥る。
「私は容赦はしない……だからここで貴女の命は敢えて見逃す。その代わりに牢獄に送り込んであげるわ」
「……それはどうかしら?」
「何のつもり?下手に動けば苦痛が増えるだけよ」
全身に火傷を負った状態でキラウは起き上がろうとするが、力が入らないのか腰が上がらない。その様子を見たマリアは杖を構えようとした時、彼女は背後から強力な魔力を感じ取った。
(この感覚は……!?)
マリアは背後を振り返った瞬間、先ほどまで確かに誰も存在しなかった街道に無数の人物が立っていた。彼等全員が緑色のマントを羽織っており、そのマントには「ハヅキ家」の紋章が刻まれていた。彼等が身に付けているのはヨツバ王国に所属する「緑影」と呼ばれる組織が所持している「身隠しのマント」と呼ばれ、装備した人間の存在感を消す貴重な魔道具である。
「……これは何のつもり?何時から隠れて居たの?」
「申し訳ありません……マリア様。その質問には答えられません」
戦闘に夢中になっていたとはいえ、実力者であるマリアでさえも接近されていた事に気付けず、街道に姿を現した全員が優秀な暗殺者である事は確かだった。もしも彼等が冒険者の類ならばマリアは勧誘するところだが、この状況下で現れた「ハヅキ家」の紋章を刻む者達の登場にマリアは警戒せざるを得ない。
「私はこれはどういうつもりだと聞いているのよ……どうしてここに貴女達が居るのかを聞いているの」
「その質問には私が答えましょう」
唐突に現れた緑影の暗殺者に対してマリアは再度質問をすると、彼女の耳に聞き覚えのある女性の声が響き、暗殺者たちを掻き分けて一人の森人族の女性が現れた。その人物の顔を見た瞬間、流石のマリアも目を見開く。
「……母上?」
「久しぶりですね……マリア」
「ハヅキッ……!!」
マリアとキラウの前に現れたのはハヅキ家の現当主である「アイラ・ハヅキ」だった。この場にいる二人とアイラの母親でもあり、同時にレナの祖母に当たる人物である。ハヅキは暗殺者を下がらせ、二人の娘の前に移動すると、緊張するように二人の顔を交互に見つめた。
「……随分と大きくなりましたね、二人とも」
「どういう、事なの?どうして貴女がここに……」
「私を笑いに来たのかっ!!」
ハヅキの登場にマリアは戸惑い、キラウは激高したように怒鳴りつけると、ハヅキは二人の娘の反応に胸を抑える。母親として二人に対して色々と言いたいことはあるが、今回彼女がこの場に及んだのは母親としての責務を果たすためではなく、ヨツバ王国に使える人間として訪れていた。
「マリア……その子は私が連れて行きます」
「なにっ……!?」
「……言っている意味が分からないわ。この女が……この人が何をしたのか理解しているの?」
憎々し気に自分を見つめてくるキラウに対してハヅキは視線を反らし、マリアに自分達が連行する事を伝える。そんな彼女の言葉に当然だがマリアは納得できず、言い返そうとしたが先にキラウがハヅキに怒鳴りつける。
「ふざけるなっ……お前のせいで、私はっ!!」
「っ……!!」
キラウの言葉にハヅキは胸が締め付けられるが、それでも彼女はマリアを見つめる。今までに見た事がない母親の苦しそうな表情にマリアは後退り、一体何が起きているのか理解出来なかった。
耳元にマリアの声が届き、キラウは意識を取り戻す。どうやらほんの少しの間だけ気絶していたようであり、自分の過去の夢を見ていた事に気付いたキラウは自嘲気味に笑みを浮かべ、そんな彼女にマリアは訝しむ。
「……何で私を殺さない?自分で言うのもなんだけど、絶好の好機でしょう?私を殺せる機会なんて早々ないわよ」
「馬鹿を言わないで頂戴。死霊使いの秘儀を私が知らないと思うの?貴女は敢えて自分を他者に殺させる事で自身を死霊人形へと変化させるつもりでしょう?」
「なるほど……流石にそこまで甘くないわけね」
キラウは自分の胸元に手を押し当て、もしもの時のために飲み込んでいた「死霊石」の存在を思い出す。死霊使いは死体を傀儡化させる際に利用する魔石であり、他者の死体に使用すれば自分の意思で思い通りに動かすアンデッドへと変化させる事が出来る。
しかし、死霊使いには禁断の秘儀として自分の死の直前に死霊石を自分自身に利用する事で自らを「死霊人形」へと変貌させる事が出来る。死霊人形へと変り果てた死霊使いは「不死」へと成り果て膨大の闇の魔力を得られる。しかし、代償として時間が経過する事に意識が徐々に途切れ、やがては生物を憎む化物へと変化を果たす。彼等は「不死者」と呼ばれ、死霊石を完全に破壊するまで何度でも蘇る能力を持つ。
マリアは過去に何度か死霊使いと交戦しており、最後の手段として命を落として死霊人形と化した死霊使いは生者の頃と比べても厄介な存在と成り果てる。キラウはマリアが遭遇した死霊使いの中では間違いなく彼女の人生の最大の使い手であり、もしもキラウが「不死者」になった場合は非常に厄介な事態に陥る。
「私は容赦はしない……だからここで貴女の命は敢えて見逃す。その代わりに牢獄に送り込んであげるわ」
「……それはどうかしら?」
「何のつもり?下手に動けば苦痛が増えるだけよ」
全身に火傷を負った状態でキラウは起き上がろうとするが、力が入らないのか腰が上がらない。その様子を見たマリアは杖を構えようとした時、彼女は背後から強力な魔力を感じ取った。
(この感覚は……!?)
マリアは背後を振り返った瞬間、先ほどまで確かに誰も存在しなかった街道に無数の人物が立っていた。彼等全員が緑色のマントを羽織っており、そのマントには「ハヅキ家」の紋章が刻まれていた。彼等が身に付けているのはヨツバ王国に所属する「緑影」と呼ばれる組織が所持している「身隠しのマント」と呼ばれ、装備した人間の存在感を消す貴重な魔道具である。
「……これは何のつもり?何時から隠れて居たの?」
「申し訳ありません……マリア様。その質問には答えられません」
戦闘に夢中になっていたとはいえ、実力者であるマリアでさえも接近されていた事に気付けず、街道に姿を現した全員が優秀な暗殺者である事は確かだった。もしも彼等が冒険者の類ならばマリアは勧誘するところだが、この状況下で現れた「ハヅキ家」の紋章を刻む者達の登場にマリアは警戒せざるを得ない。
「私はこれはどういうつもりだと聞いているのよ……どうしてここに貴女達が居るのかを聞いているの」
「その質問には私が答えましょう」
唐突に現れた緑影の暗殺者に対してマリアは再度質問をすると、彼女の耳に聞き覚えのある女性の声が響き、暗殺者たちを掻き分けて一人の森人族の女性が現れた。その人物の顔を見た瞬間、流石のマリアも目を見開く。
「……母上?」
「久しぶりですね……マリア」
「ハヅキッ……!!」
マリアとキラウの前に現れたのはハヅキ家の現当主である「アイラ・ハヅキ」だった。この場にいる二人とアイラの母親でもあり、同時にレナの祖母に当たる人物である。ハヅキは暗殺者を下がらせ、二人の娘の前に移動すると、緊張するように二人の顔を交互に見つめた。
「……随分と大きくなりましたね、二人とも」
「どういう、事なの?どうして貴女がここに……」
「私を笑いに来たのかっ!!」
ハヅキの登場にマリアは戸惑い、キラウは激高したように怒鳴りつけると、ハヅキは二人の娘の反応に胸を抑える。母親として二人に対して色々と言いたいことはあるが、今回彼女がこの場に及んだのは母親としての責務を果たすためではなく、ヨツバ王国に使える人間として訪れていた。
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「なにっ……!?」
「……言っている意味が分からないわ。この女が……この人が何をしたのか理解しているの?」
憎々し気に自分を見つめてくるキラウに対してハヅキは視線を反らし、マリアに自分達が連行する事を伝える。そんな彼女の言葉に当然だがマリアは納得できず、言い返そうとしたが先にキラウがハヅキに怒鳴りつける。
「ふざけるなっ……お前のせいで、私はっ!!」
「っ……!!」
キラウの言葉にハヅキは胸が締め付けられるが、それでも彼女はマリアを見つめる。今までに見た事がない母親の苦しそうな表情にマリアは後退り、一体何が起きているのか理解出来なかった。
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