不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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都市崩壊編

擬態失敗

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『グギィッ……!!』
「……死んだ?」


背中から壁に叩きつけられたゴブリンキングが白目を剥いて倒れると、レナは額の汗を拭って武器を鞘に戻す。そして地面に落ちている紅蓮に気付き、拾い上げるために手を伸ばそうとした。


(待てよ……確かこいつって)


だが、寸前で紅蓮を拾う前に違和感を抱いたレナはゴブリンキングに視線を向け、ある事を思い出す。深淵の森で暮らしていた時から幾度もゴブリンと戦った事があるレナは彼等が魔物の中で最も狡猾な生き物であると認識しており、地面に視線を向ける。


(よし、保険は用意しておくか)


レナは何事もなかったようにゴブリンキングの傍に落ちている紅蓮を拾い上げようとした瞬間、壁際に背中を預けていたゴブリンキングの目が見開き、レナよりも先に落ちた紅蓮を拾い上げて斬りかかろうとした。


『ギィアッ!!』
「土塊!!」


下から刃を振り上げる形で自分を切りつけようとしたゴブリンキングに対してレナは笑みを浮かべ、素足の状態で触れていた地面に土塊の魔法を発動させる。起き上がろうとしたゴブリンキングの足元の地面が盛り上がり、体勢を崩した事で振り翳した刃の軌道が変化してしまう。


『ギィッ……!?』
「惜しかった、なっ!!」


紙一重で刃が頭上を通り過ぎたレナは右手を前に突き出し、ゴブリンキングの顔面に構えると容赦なく付与強化を発動した状態で魔法を放つ。


「電撃!!」
『ギィアアアアッ!?』


ゴブリンキングの顔面を掴んだ状態で高圧電流を流し込み、更に壁際に肉体を叩きつける。大抵の怪我は再生できるゴブリンキングではあるが、肉体を麻痺する電撃に対しては耐性は持たなかったのかレナが手を離した時には全身を麻痺させた状態で動かなくなってしまう。


「お前等が死んだふりが得意な事はよく知ってるよ。昔、それで何度か痛い目にあったから学習済みだ」
『グ、ギィッ……!?』
「これで終わりだ……じゃあなっ!!」


身体が痺れて動けないゴブリンキングに対してレナは足元に落ちていた紅蓮を拾い上げ、最期は敵が愛用していた武器で止めを刺すために兜の隙間から刃を貫く。



『ッ――――!?』



声にならない悲鳴が通路内に響き渡り、顔面を刃で貫かれたゴブリンキングの肉体が発火し、内部から熱せられてしまう。いくら強靭な再生能力を所有していようが頭部を貫かれ、内側から肉体を焼かれたら助かる見込みはなく、全身が灰となるまでそれほど時間は掛からなかった。


「くっ……結構、魔力使うんだなこれ」


十数秒後にはゴブリンキングの巨体が完全に灰の山と化すと、残されたのはゴブリンキングが装着していた甲冑だけが地面に転がっていた。レナは紅蓮を見つめ、相手を切りつける度に魔力を吸収して炎を生み出す性質を持つ魔剣である事を見抜く。


「けど、どうして魔物のこいつが魔剣を扱えたんだ?もしかしたら鎧の方に秘密があるのかもしれないな……念のために回収しておくかな」


魔法を扱えないはずのゴブリンキングがどのような手段で紅蓮を利用していたのかまでは分からず、レナはゴブリンキングが装着していた鎧の方に秘密があるのではないかと考え、念のために回収を試みようとした。しかし、その際にレナは強烈な違和感を抱く。


(……とういう事だ?ゴブリンキングを倒したのに……反応が消えてない!?)


レナが習得している「気配感知」と「魔力感知」が先ほどから反応が消えず、カイ達を苦しめたゴブリンキングを倒したにも関わらずに感知能力では未だに大きな反応が残っていた。最初はレナも大きな反応の正体がゴブリンキングだと思い込んでいたが、何故かゴブリンキングを倒したにも関わらずに反応が消失しない。それどころか徐々に反応が強まっている事に気付いた。


(何処だ!?何処に隠れている!?)


力の反応が強まっているにも関わらずに通路内には敵の姿は見えず、試しに「遠視」「暗視」「観察眼」の能力を発動させても特に異変は見当たらない。


(くそっ!!一体何処に……まさかっ!?)


通路内には姿が見えず、地上に存在した時も敵の影すら確認できなかった。ならば考えられる事は限られており、レナは地面に視線を向けて目を見開く。


(この下かっ!!)


即座にレナは地面に耳を押し当てると、僅かにだが振動音を感じ取る。敵が隠れているのは地下通路の更に下層に存在する地面だと気づき、レナは敵の正体を確かめるために地面に掌を押し当てる。


「土塊!!」


土塊の魔法を発動させて通路内の地面の土砂を操作して下層に繋がる落とし穴を形成しようとした。しかし、どれほど土砂を掻き分けても下の通路に繋がる事はなく、10メートル程掘り進んだところでレナは違和感を抱く。


(いや、本当にこの地下に通路があるのか……!?これだけ掘っても繋がらないなんて……まさか、地中に潜り込んでいるのか!?)


いくら地面を掘り尽くしても下層に存在すると思われた通路は見当たらず、自分が考え違いをしている事にレナは気付き、敵の正体が「地中」を移動する存在である事を知る。



「まさか……あの作戦を実行したのか!?」



――数日前、レナはアイリスと交信を行った時に王妃がどのような作戦を考えているのかを彼女の口から聞いていた。しかし、用意周到な王妃は複数のパターンを用意しており、一体どのような作戦を仕掛けるのかは当日まで決めかねていた。


『王妃が当日になるまで私でも彼女がどんな作戦を仕掛けるのかは分かりません。レナさんに関わる人物の未来は見通せないので王妃は既に私の管理外の存在なんです』
『なら、今王妃が考えている作戦だけでも全部教えておいてよ』
『そうですね、色々と考えているようですけど一番可能性が低い奴から話しましょうか』
『え?普通は可能性が高い方から説明するんじゃないの?』
『状況的に考えても最も成功確率は低いですが、確実に都市を壊滅させる方法があるんです。まあ、正直に言って運に左右されるので成功確率は10%程度ですけど、一応は伝えておきますね――』



アイリスとのやり取りを思い返し、王妃が考えた冒険都市と邪魔者を潰す作戦はレナも聞いている。しかし、優秀な王妃は様々な作戦を考えており、その全てをレナが把握する事は出来なかった。アイリスが教えたのは王妃が考えた作戦の中でも最も成功確率の高い方法(可能性は低いが確実に都市を崩壊させる作戦も含め)しかなく、その作戦の中には「魔獣兵」の存在が出てくるとは聞いていなかった。


(まるで俺達の考えを見抜かれたような気分だ……でも、もしも王妃があの作戦を実行したのなら、街の人達が危ない)


王妃がアイリスが予測した中でも最悪の作戦を実行していた場合、住民の被害は免れず、下手をしたら都市は壊滅してしまう。レナは急いで他の仲間に危険を知らせる必要があり、地下通路から脱出を試みる。
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