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都市崩壊編

瞬動術

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「……上手く逃げられたみたいだな」


建物の路地を移動しながらレナはアルミナの追跡を振り切った事を確認すると、安心して「隠密」と「無音歩行」のスキルを解除する。彼女は魔術師として有能ではあるが、レナが暗殺者のスキルも持ち合わせていた事は予想出来ず、取り逃がしてしまう。


「それにしてもやばかったな。俺以上に初級魔法をあんなに使いこなす人間がいるなんて……また見つかったら面倒だから急いで向かわないと」


アルミナに再び見つかる前にレナは彼女から逃れるため、自分の靴に視線を向ける。ウルと離れた以上はレナは自分の足で移動するしかないため、その場で靴を脱いで空間魔法で異空間に放り込む。


「久しぶりにあれを使うか、昔はこの魔法でよくウルと追いかけっこをやっていたな……脚を捻挫しやすいからあんまり使いたくはないけど」


レナは素足で地面に降り立ち、軽く屈伸を行うと意識を足の裏に集中させる。レナがウルと共に深淵の森で暮らしていた時、頻繁に使用していた「跳躍」のスキルと「風圧」の初級魔法を組み合わせた移動術を発動させる。


「せぇ……のっ!!」


勢いよく上空に向けて跳躍した瞬間、レナは「足の裏」から発動させて衝撃波のような風圧を生み出し、一気に8メートルは誇る建物の屋根の上に着地する。そのまま止まらずに更に屋根の上を移動し、別の建物に向けて跳躍を行う。


「とおっ!!」
「な、何だ!?」
「うわっ!?人間が飛んでる!?」
「何だあれ!?」


建物を凄まじい勢いで飛び越えるレナを見た街道の人々が驚愕の声を上げ、何事かと空を見上げる。しかし、当のレナは久しぶりに扱う「瞬動術」と自分で名付けた移動術に顔を歪める。


「くうっ……やっぱりこれ、足の負担がきついな!!」


森の頃に居た頃に生み出した戦技ではあるが、支援魔法で肉体を強化した状態でも足への負担が大きく、幾度も繰り返して使用すると激しい筋肉痙攣に襲われてしまう。だから使用後は一定の間隔を開ける必要があり、連続で使用する事は出来ない。


「でも、昔とは違うんだよ!!」


まだ身体も魔法も未熟だった幼少期と比べ、今現在のレナは成長しており、身体能力も魔法の力も高まっている。まずは「限界強化」で身体能力を強化させ、足への負担は「回復超強化」で治療を行い、更に「魔力強化」で足の裏から放つ衝撃波の威力を上昇させてレナは足場がない空中さえも移動を行う。


「うおおおおっ!!」


鳥のように飛行する事は出来ないが、瞬間的にとはいえ空中でも移動が可能となり、水泳選手のように両足を突き出す事で衝撃波を生み出して直線的に高速移動を行う。その速度は先にバルの元へ向かっていたウル達の姿を確認出来る程に素早く、空の上から屋根を疾走するウルへ追いついた。


「皆~!!こっちこっちっ!!」
「ウォンッ!?」
「レナ?」
「ちょ、何で飛んでるんだお前っ!?」


レナの声が頭上から聞こえてきたことにウルと背中に乗る二人は驚くが、慌てて空中から落下してくるレナの腕を掴む。


「ただいまっ!!」
「……お帰り」
「いや、どういう登場の仕方してんだよお前!?」
「ウォオオンッ!!」


ダインとコトミンに腕を引かれてレナもウルの背中に乗り込む事に成功し、ウルの歓喜の咆哮が街に響く。しかし、流石に3人も乗るとウルの背中でも狭く、レナは先頭のコトミンを抱きかかえ、ダインに背中から掴まれる形で前方を確認する。


「ウル、バルと母上は何処にいる!?」
「スンスンッ……オンッ!!」


鼻を鳴らしながらウルはバルの匂いを追跡し、ある方向に顔を向けて立ち止まる。ウルの視線の先には大きな時計塔が存在した。この街の何処に居ても見える程の大きな塔であり、塔の頂点には錆色の鐘が吊らされていた。


「あそこにいるのか?」
「ウォンッ」
「分かった。なら、すぐに向かおう」
「ま、待てよレナ……あそこを見ろ!!」


ウルに確認を取ったレナは時計塔に向けて走らせようとしたが、ダインがレナの肩を叩いて地上を指差す。何事かと視線を向けると、そこには地面に倒れる森人族の集団の姿が存在し、中央部には豪勢な馬車が存在した。馬車の傍には血塗れの白馬が倒れこんでおり、馬の傍にはレナ達にも見覚えのある人物が立っていた。


「すまぬ、シルファリオンよ……お主とは長い付き合いだったな。これまで儂を支えてくれて感謝するぞ」
「お父様……今はここから去りましょう。すぐに避難するべきですわ」
「姫様の言う通りです。お気持ちは分かりますが、ここを離れるしかありません……」


白馬の傍で嘆き悲しんでいたのはヨツバ王国の国王であるデブリと、悲し気な表情を浮かべてデブリの背中に抱き着く娘のノル、そして護衛を任されていたジダンが居た。レナは何事かと様子を伺うと、彼等以外の森人族が地面に倒れたまま動かない事に気付き、不審に思ってウルに地上へ降りるように促す。
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